新型コロナのワクチン接種無料化、公費で負担するメリットは何?
LIMO / 2020年9月20日 20時0分
新型コロナのワクチン接種無料化、公費で負担するメリットは何?
新型コロナワクチンの無料化には大きなメリットがあるので、ぜひ無料化すべきだ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
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政府は新型コロナワクチンの無料化を検討しているようです。副作用が少ないワクチンの開発が前提ではありますが、ぜひ採用してほしいと思います。無料化しないと「接種すべき人が接種しない」ケースが多発すると懸念されるからです。
ワクチンを打たないと周囲に迷惑
ワクチンを打たないと、自分が罹患して苦しむのみならず、周囲にも感染を広げてしまうリスクがあります。それを防ぐためには、皆がワクチンを接種することが望ましいわけです。数値例で考えてみましょう。
新型コロナに罹患すると、自分が被る被害(働けない収入減少、痛み等々)が20万円分、他人に感染させて社会にかける迷惑が30万円分、合計50万円分の被害が発生するとします。そして、ワクチンを接種すると罹患する確率が2%から1%に低下するとします。
罹患しやすい生活をしている人や罹患すると重症化しやすいい人と、そうでない人がいるでしょうが、とりあえずここでは全員均一だということにしましょう。
本人の被害の期待値は2千円しか減りません(20万円の1%)から、ワクチンが3千円であればワクチンを接種する人はいないでしょう。投与すれば社会的な被害の期待値が5千円減るのに、もったいないことです。
ねずみ算的な増加を防げる
上に「ワクチンを接種すると罹患する確率が2%から1%に減る」と記しましたが、それには周囲の人の一定割合が罹患しているという暗黙の前提があるわけです。
しかし、誰もワクチンを接種しないと、周囲の人の罹患率が上がりますから、ワクチンを接種しない場合の罹患確率は明日以降、2%から次第に上昇してしまうかも知れません。
今日の患者数を所与とすると、誰もワクチンを接種しないと明日は多くの新規罹患者が出て、明後日はさらに多くの新規罹患者が出て、患者数がねずみ算的に増えてしまうかも知れません。
一方で、全員がワクチンを接種すれば明日の新規罹患者は減るかもしれず、そうなると周囲の人の患者率が下がるので、ワクチンを接種した場合の罹患確率も下がっていくかもしれません。
患者数が増えれば、自粛が広がって経済活動が制約され、税収が落ち込むでしょうし、医療費がかさむので財政による一部負担も金額が増してしまいます。一方で患者数が減れば、経済活動がフルに再開できて税収が増えるかもしれません。
その差を考えただけでも、ワクチン接種費用を財政で負担する意味は十分にあるように思います。
若者がワクチンを接種しない問題に対処する
上では全員均一の条件だと仮定しましたが、それにも問題があります。若者は罹患しても症状が出にくいので、罹患に気づかずに元気に活動して多くの人を感染させてしまう傾向にありますが、自分の被害はないのでワクチンを接種するインセンティブがありません。
これは深刻な問題です。ワクチンの接種を無料化しない限り、若者が感染を広げることは止められないのです。
もう一つ、感染リスクが高いとわかっていても、貧しいがゆえに仕事を続けるしかない人がいます。そうした人は、自分が罹患するリスクが高いのみならず、他人を感染させてしまうリスクも高いわけですが、貧しいがゆえにワクチンを接種する費用を出せないかも知れません。
そうした人にワクチンを接種してもらうためにも、無償化が必要なのです。
優先順位をどう考えるかは難しい問題
以上のように、ワクチンを全国民に無料で接種することが望ましいわけですが、国民全員分のワクチンを調達するのに時間がかかるという場合は、優先順位をつける必要が出てきます。
これは、実に難しい問題かもしれません。医療関係者を優先するべき、という点には異論は少ないでしょうが、それ以外にも論点は多数あります。
高齢者を優先すべきだと考える人は多いかも知れませんが、もしかすると家の中でじっとしている高齢者よりも罹患しても気づかず活発に動き回るであろう若者に優先的に接種した方が効率的なのかもしれません。
金持ち優遇との批判は出るでしょうが、入手したワクチンの5%だけは入札にして、金持ちに高い金額を払ってもらい、それで皆の分のワクチンの費用の一部を賄う、という選択肢はあり得るかもしれません。
経済学の観点からは、日本経済に大きな貢献をしている人を優先すべきだ、という考え方も出てくるかもしれませんが、それはさすがに政治的に通らないでしょうね。
柔軟な発想で、「夜の街」で働く人々に優先的に接種しよう、ということも理屈の上ではあり得ますが、これも常識的ではないといって却下されるのでしょうね。
まあ、そのあたりのことは政治家に考えてもらうこととして、本稿では深入りしないことにしましょう。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。
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