もう家族なんていらない!? 「毒母」ドラマが日本以外でも続々ヒット
LIMO / 2020年9月23日 17時0分
もう家族なんていらない!? 「毒母」ドラマが日本以外でも続々ヒット
何があっても子のために身をささげる無条件の母親の愛――。
日本のみならず、アジアのドラマにはそうした親子の愛をテーマとしたドラマは数多くあります。
胸やけしそうなこってりとした“愛”、厳しさの裏に隠された“愛”、大人になってから初めて気づく“愛”など、その描写方法は様々。“子どものため”という目的のもと、母親が少々行き過ぎた行動でひと悶着を起こしても、結局は丸くおさまるドラマは少なくありません。
意地悪な姑や義理のきょうだいなど、わかりやすい“ヒール”(悪役)がいて、最後に何らか報いを受ける“勧善懲悪”的なパターンもドラマの中ではよく見られるところです。
ところが、近年、この風潮に少しずつ異変が起きています。
日本で「毒になる親」が広く認知され始めた2010年代
まず日本。2010年代は、子に無力感を与え自立を阻む母親と、家庭内で存在感の薄い父親への違和感が広がった10年だったのではないでしょうか。
近年、強すぎる母の下で抑圧された子どもを描いた書籍は数多く出版されています。ドラマ市場においても『過保護のカホコ』『凪のお暇』『お母さん、娘をやめていいですか?』など、“子の自立を阻む母親”のテーマを含むドラマが次々と生み出されました。
“子どものため”をうたいながら、子どもの人生を巧みに操る母親像は、少しずつ社会に認知され始めています。
同様の現象は、中国、韓国のドラマにおいても見られます。
たとえば、今、動画配信サービスのNetflix(ネットフリックス)で人気を博している韓国ドラマ『サイコだけど大丈夫』では、子を抑圧・支配する母からの解放が一つのテーマとなっています。
ヒロインは、自分の“成果物”のように子どもを扱い、子の人間関係を著しく制限する母親のもとで育った女性。実の家族の呪縛から逃れ、新しい人間関係を築くまでの過程が丁寧に描かれたストーリーは、日本でも共感を集め、常に人気ランキングの上位に入っています。
中国で爆発的な人気を集めたドラマから見える社会変化
そして、今年の夏、中国およびアジア諸国で大きな話題を集めたのが『以家人之名』(邦題筆者訳:家族の名のもとに)です。
同ドラマは夏期のドラマの中で中国国内の視聴回数がトップとなり、ファミリードラマとしては近年まれにみるヒットとなっているようです。筆者は近所の中国人女性にすすめられ、中国版の動画配信アプリでリアルタイム視聴してみたら、あまりのおもしろさに睡眠時間をずいぶん削りました。
近年の中国ドラマは、派手なアクションを伴う時代劇や、少女漫画のようなラブコメディが人気を集めていますが、『以家人之名』はそれらとは一線を画していました。
ストーリーは、妻をなくした父親が、1人娘とともに血のつながりがない2人の男の子を一緒に育てるところからスタートします。3人の“子ども”に寄り添いながら幸せを願い、毎日台所に立ち続ける父親の優しさがキラリと光る反面、登場する母親は軒並み強烈です。
過干渉マザー、みえっぱりマザー、子捨てマザー、子ども依存マザー、娘と孫娘の人生丸ごとコントロールしたいグランドマザーなど、まあ、いろんな母親が登場します。
劇中では、実の母親たちが「あなたのために」「家族だから」という言葉を使って子どもたちを追い詰めるピリッとした緊張感を伴うシーンが繰り返される一方で、血のつながりのない家族の一家団らんにほのぼのするという、皮肉な展開が続きます。
主人公一家が周囲の人たちから「血は水よりも濃し」「実の親を大切にするべき」という言葉を投げかけられることからも、伝統的な家族観が色濃く残っていることがうかがえます。
とはいえ、中国都市部においては教育環境、雇用環境に大きな変化が起こっています。親は子どもをより高度な仕事に就かせるために、1人か2人の子どもに最大限のエネルギーを費やし、良い教育のために奔走する。その結果、子どもたちは激しい競争にさらされています。
ところが、実際に社会に出ると、日本の高度成長期の“企業戦士”のような働き方が蔓延する新興企業は少なくありません。朝9時から夜9時まで週に6日間働く“966勤務”は、近年の大きな問題となっています。
社会が激変する中、かつての家族のあり方にきしみが出始め、親の考える“子どもの幸せ”と、子ども自身の考える理想の人生がかい離する現象も起こり始めているのではないでしょうか。
「家族からの回避現象」が起こり始めている日本
さて、すでに社会と家族の激変時代を通過し、もう一歩先をいくのが、日本ではないでしょうか。
近年、日本では家族が背負うものが重く、家族を失敗できないというプレッシャーゆえに、家族を持つことを敬遠する……という現象が起こっています。
子育て、親戚づきあい、親の介護、夫婦の仕事の継続、老後の資金……たくさんのプレッシャーでパンパンにふくらみ、“密室育児”に疲弊して酸欠になった家族は、フレッシュな空気を必要としています。
近年では「社会の最小単位」と呼ばれる核家族が家族の基本的な形でしたが、現在は単独世帯(世帯主が1人の世帯)の割合が増加。国立社会保障・人口問題研究所のデータによれば、20年後には単独世帯が全体の約40%にのぼると予想されています。中には、結婚と育児を「嗜好品」という声も。
伝統的な家族の維持か、新たな家族の形成か、単独で生きるか……。家族からの回避現象が起きているにもかかわらず、家族観が多様化しているとは言えません。
今回例にあげた韓国・中国のドラマは、いずれも伝統的な家族とは異なる “家族のようなもの”を通じて人と人が愛し合い、癒し合う場面が非常に印象的でした。
家族のメンバーを結びつけるものは何なのか、家族の定義とは何なのかを視聴者に投げかけるコンテンツは、伝統的な家族観が色濃く残るアジア諸国において今後ますます増加し、多様な家族観を提示していくのではないでしょうか。
【参考資料】「日本の世帯数の将来推計(全国推計)- 2018年推計(http://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2018/hprj2018_gaiyo_20180117.pdf)」(国立社会保障・人口問題研究所)
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