新たな課題に取り組む中国〜「二重循環」成長モデルとは?<HSBC投信レポート>
LIMO / 2020年9月26日 21時0分
新たな課題に取り組む中国〜「二重循環」成長モデルとは?<HSBC投信レポート>
新型コロナウイルスの感染拡大は世界的な需給にショックを起こしており、世界経済がコロナ前の生産水準に戻るのは数年間難しいと考える。
人々の健康への危機は、世界を変革させ、多くのビジネスモデルを永続的に変化させるだろう。また、世界経済の結びつきがより緩やかになるという「スローバリゼーション」、多国籍企業によるサプライチェーンの多様化(「中国+1」または地域化戦略)、地政学的緊張、米中の技術分断のリスクなど、現在進行中の世界のトレンドが、一層、加速するだろう。
中国指導部は、対外関係の不確実性に直面する中、経済のリバランスなど国内の課題に対処するために、新たな経済社会開発計画として、いわゆる「二重循環」成長モデルを推進中だ。この戦略の意図は、経済を開放しつつも、自給率の強化を通じて自国経済の強靭性を向上させることにあると当社は考える。
「二重循環」は、供給サイドの改革に続く最も重要な政策と見られており、今後、第14次5ヶ年計画の主柱になる可能性が高い。
内需を喚起し、中国のサプライチェーンを強化する「国内循環」に焦点
新しい開発パターンは「国内循環」に焦点を当て、内需の喚起を通じて中国のサプライチェーンを強化することで、ハイエンドテクノロジーや天然資源など主要分野での海外市場への依存の低減を目指す。
質の高い開発に焦点を当てることで、中国の成長モデルの安全性、効率、持続可能性、公平性が高まると考えられる。輸出主導から内需主導への成長のリバランス、成長の原動力としての国内消費への移行は、特に2008-09年の世界金融危機後の中国が長い間目標としてきたことである。
同国の対外貿易依存比率(商品・サービスの貿易総額の対GDP比)は2006年に64.5%でピークに達した後、減少に転じ、2019年は35.7%まで低下した。こうした中、新たな成長牽引役がまさに急務となっている。
「国内循環」の鍵は、供給サイドの改革を進めつつ、一段の内需拡大を推進することであると考える。中国には、強靭な産業エコシステム、強力な製造能力、高度な教育を受けた熟練労働力、十分に発達したインフラ、成長著しい中間所得者層を背景とした巨大な国内市場などがある。
内需志向型開発モデルを下支えするには、産業の一段のアップグレード(安全で制御可能な、ある程度の自律的な技術の確保など)、スマートインフラへの投資、大都市圏開発などの新しい都市化戦略、農業の近代化などが必要であろう。
主要技術分野でのグローバルリーダーシップを加速させるため、中国は2025年までの6年間で凡そ10兆人民元(1.4兆米ドル)を投資する予定である。大手民間ハイテク企業の支援を受けながら、 5Gワイヤレスネットワークからデータセンターまで全面展開を図る方針である。これらを通じて、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)テクノロジーは強化されよう。
「国内循環」は鎖国政策ではなく、「国際循環」にて補完
この国内経済への方向転換は、孤立や鎖国政策を意味するものではない。むしろ、この戦略は補完的、相互強化的、相乗的、かつ持続可能である国内および国際的な「二重循環」を特徴としている。これは、中国が国内市場の能力向上を図りながら、国際的な協力および競争での強みを再形成することに繋がる。
リスクのより適切な管理に向けて、中国では貿易・ビジネスパートナーを多様化することに重点を置き始めている。こうした中、対外貿易を促進し、海外からの投資を誘致しつつ、世界的な科学技術協力にかかわることが、依然、重要である。中国は引き続き開放の努力を続け、金融・資本市場の自由化を推進するだろう。
中国は、国内経済、市場、サプライチェーンの強靭性の改善を図る一方、外部リスクのより適切な管理を通じて、国内の潜在力を引き出し、内部のリバランスを加速するために改革のピッチを上げるであろう。
国内消費と従来型の技術開発に基づく成長モデルは課題に直面
しかし、中国の消費へのリバランスは依然として遅く、不均衡である。富の格差は大きい。新型コロナウイルスの感染拡大は、労働市場と世帯収入に打撃を与え、元来、不安定な立場にある低所得者層を一段と困難な状況にさせた。
脆弱な社会的セーフティネットと高まる債務負担により、家計の支出傾向は抑制されている。国内経済への方向転換には、消費者の消費力を強化するための政策・改革(一例として、社会および医療保障の改善、農地・労働市場の改革、富・所得の再分配)が必要であると考える。その実行には、政治的および経済的システムの抜本的な構造変革(国家主導モデルの解体など)が伴うであろう。
加えて、中国の技術的自立への動きには、グローバル・サプライチェーンとの緊密な連携や対内直接投資(FDI)に伴う技術移転からこれまで恩恵を受けていることを背景に、今後、多くの課題に直面する可能性がある。
中国は、テクノロジー・バリューチェーンを急速に拡大している一方、最先端テクノロジーへのアクセスに依然困難があることは、逆風と言えよう。こうした中、中国と米国の経済が完全に分離することは、当面、考えにくいと言えよう。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
独首相、代表団率いてインド訪問へ 対中依存度の低減目指す
ロイター / 2024年10月23日 18時36分
-
東京大学公共政策大学院教授・鈴木一人「日本企業の経営者は、中国リスクと同時に“米国リスク”にも備えなければなりません」
財界オンライン / 2024年10月21日 18時0分
-
ASEANビジネス投資サミット(ABIS)2024、連結性と強靭性がテーマに(ASEAN、ラオス、ベトナム、日本)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月18日 0時20分
-
第6回米印商業対話を実施、半導体やクリーンエネルギー、重要鉱物で協力強化(米国、インド)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月7日 14時15分
-
近い将来、米国経済は景気後退する?しない?…過去の「失敗」からヒントを探る【マクロストラテジストが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月28日 9時0分
ランキング
-
1JPXの株価が下落…傘下の東証社員にインサイダー取引疑惑、ガバナンスへの不信感か
読売新聞 / 2024年10月23日 21時14分
-
2《あられもない姿に困惑》またも丸出し“浪人生”女性が〈どっちが好き??〉と店内で胸露出 『三田製麺所』は「顧問弁護士と協議の上で対応を検討」
NEWSポストセブン / 2024年10月23日 19時47分
-
33年ぶりの新モデル「iPad mini」は"誰向け"なのか 上位モデルに迫る性能を軽量ボディに詰め込む
東洋経済オンライン / 2024年10月23日 0時0分
-
4たった1日の違いで最大76万円の損…社労士が「退職は64歳11カ月がベスト」と断言する"これだけの理由"
プレジデントオンライン / 2024年10月23日 18時15分
-
5東京メトロ、時価総額1兆円超=好発進、終値1739円―山村社長「期待に応える」
時事通信 / 2024年10月23日 18時55分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください