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「携帯料金引き下げ」で携帯電話株はダウン、内閣支持率はアップ? 過去2回の顛末

LIMO / 2020年9月25日 20時0分

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「携帯料金引き下げ」で携帯電話株はダウン、内閣支持率はアップ? 過去2回の顛末

新たに発足した菅政権は、基本的には安倍政権の継承を掲げる一方で、デジタル庁の創設、縦割り行政の抜本的な破壊、前例主義の撤廃などの独自政策を打ち出しています。携帯通信料金の見直し(引き下げ)もその1つと言えそうです。

もともと菅首相は携帯料金の引き下げ推進論者でしたが、首相に就任したことでこの政策が一気に加速するという見通しが広がりました。そして、この思惑は携帯大手3社の株価を直撃しています。

携帯大手3社の株価が軒並み大幅下落

安倍氏が突然辞任を発表したのが8月28日(金)、菅氏が総裁選への正式な出馬表明を行ったのが9月2日(水)。しかしながら、安倍氏辞任後の週末には(まだ出馬表明を行っていない)菅氏の次期首相就任がほぼ“既成事実”となったため、資本市場(株式市場)では8月31日(月)から「菅政権相場」が始まったと見るべきでしょう。

実際、この週明けから携帯大手3社の株価は大幅下落が始まりました。さらに、9月18日には、菅首相が武田総務大臣へ携帯料金引き下げの結論を出すよう指示し、武田総務大臣が「1割程度の引下げでは改革にはならない」旨を明言したことで止めを刺された形です。

この間の携帯大手3社の株価の騰落率を見て見ると(8月28日の終値と9月24日の終値との比較)、

KDDI(9433) ▲15.1%安(3,231円→2,742円)

ソフトバンク(9434) ▲12.6%安(1,431円→1,251円) 年初来安値更新

NTTドコモ(9437) ▲11.1%安(3,062円→2,722円) 年初来安値更新

と軒並み大幅下落となりました。この間、日経平均株価は+0.9%上昇、TOPIXは+1.3%上昇していますから、携帯通信株の下落がいかに顕著であったかが分かります。

もちろん、各社の株価下落には他の要因(NTTドコモは不正預金引出し問題、ソフトバンクは株式売り出しによる需給悪化など)も影響していますが、菅政権の通信料金引き下げによる収益悪化懸念が最大要因だったことは間違いありません。

なお、この間にNTTドコモとソフトバンクは年初来安値を更新しましたが、これは3月のコロナ暴落時安値を下回ったことを意味しています。

今回で3度目の携帯通信株クラッシュ、過去2回を振り返る

ところで、携帯料金引下げが発端となった大幅な株価下落は今回が初めてではなく、直近5年間で3度目になります。まずは、過去2回を簡単に振り返ってみましょう。

なお、株価の騰落率に関して、過去2回においてソフトバンクはまだ上場していなかったため、持ち株会社であるソフトバンクグループ(9984)を対象にします。当時のソフトバンクGは、現在のような“投資会社”としての色合いも薄かったため、ある程度は適正だと考えられます。

第1回目:2015年9月11日~各社の株価は2週間で約▲2割安

今から5年前の2015年9月11日(金)、政府の経済財政諮問会議で安倍首相(当時)が唐突に「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題だ」と述べ、高市総務大臣(当時)に携帯電話の料金引き下げを検討するよう指示。

この事案は何の前触れもなく起き、そして、高市総務大臣が「通信費の家計支出に占める割合は、特にスマートフォン等もあって上昇していることから、低廉に利用できるような方策を検討したい」と抜本的な対策を講じる姿勢を鮮明にしたため、通信各社の業績悪化懸念が一気に高まりました。

その結果、週明けの株式市場では通信株が軒並み値を下げ始め、それ以降の概ね10日間でNTTドコモが最大▲19.7%安、ソフトバンクGが最大▲17.5%安、KDDIが最大▲16.6%安の急落となったのです。これら通信株のような時価総額の大きい銘柄がわずか10日間で約▲2割下落すれば、もう暴落に近い状態だったと言えましょう。

第2回目:2018年8月21日~各社の株価はわずか20分間で急落

2018年8月21日(火)の午後、菅官房長官(当時)が札幌市で行われた講演の中で「携帯電話料金は今より4割程度下げる余地がある」と具体的な数値を言明。これも前回同様に唐突感がありました。

多くのメディアが速報として報道したことで各社の株価が急落し、わずか20分間でKDDIは一時▲5.2%安、NTTドコモは一時▲4.7%安、ソフトバンクGは一時▲2.1%安に急落し、新規参入が決まっていた楽天(4755)も一時▲3.6%安へ急落しました。

翌日以降も“余震”が続いた結果、その後の約3週間でKDDIは最大▲8.6%安、NTTドコモが同▲5.2%安、ソフトバンクGも同▲4.0%安となりました。結果的に見れば、2015年の第1回目より下落は緩やかに止まったものの、菅氏が携帯料金引き下げに強い意志を持っていることが印象付けられたことは確かです。

ところで、携帯料金は本当に高いのか?

今回を含め3度にわたる携帯通信株クラッシュですが、引き鉄になっているのは“携帯料金は高い”、“携帯料金は引き下げ余地が大きい”ということです。そもそも論として、これは本当に正しいのでしょうか?

そこで、せっかくの機会ですから、総務省による「家計世帯における電話通信料(年間)」の推移を見てみましょう。カッコ内は固定電話通信料、移動携帯通信料の内訳で、最後は世帯消費支出に占める割合(%)です。

2003年:104,904円(45,640円、 59,264円)、3.28%

2008年:110,971円(33,212円、 77,759円)、3.54%

2013年:112,453円(29,354円、 83,099円)、3.72%

2015年:117,720円(26,414円、 91,306円)、3.97%

2016年:120,392円(24,086円、 96,306円)、4.14%

2017年:122,207円(21,957円、100,250円)、4.18%

2018年:122,624円(19,281円、103,343円)、4.15%

2019年:122,741円(19,275円、103,466円)、4.10%

この数字を見る限りですが、家計における通信電話料の負担は、携帯料金を中心に依然として重いことがわかります。

ただ、2017年以降は高止まり傾向にあり、右肩上がりの増加ペースも一段落という感がなくもありません。また、世帯消費支出に占める割合も若干ながら低下し始めています。

この変化が、過去2度(2015年9月、2018年8月)の政府閣僚発言、及び、その後の政策実施の効果なのかどうかは判断できませんが、何らかのインパクトはあったと見ていいでしょう。

今回の菅政権発足による新たな引下げ策実施、とりわけ、総務相発言「1割程度(の引下げ)では改革にはならない」が今後の料金へ具体的にどの程度効果があるのかを見極める必要があるでしょう。

過去2回は携帯料金引き下げ言及後に内閣支持率がアップ

もう一つ注目すべきは、内閣支持率との関連性です。過去2度(2015年9月、2018年8月)は、携帯料金の引下げ発言から概ね1~2カ月後に内閣支持率が上昇しました(「NHK 選挙WEB 内閣支持率 2013年1月~2020年9月(https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/)」による。以下同)。

確かに、携帯通信企業に勤める人を除けば、携帯料金が下がって嬉しくないはずがありません。逆に言うと、携帯料金引き下げを何らかの政局に利用されてしまう可能性もあります。

実は、最初に安倍前首相が唐突に言及した2015年9月には混乱の末に安保法が成立していますが、その前月には不支持率が支持率を上回る苦しい状況でした。さらに、2度目(菅官房長官の講演発言)となった2018年8月も、アベノミクスの行き詰まり懸念により、その前々月まで3カ月連続で不支持率が支持率を上回る苦しい状況だったのです。

結果的に見れば、携帯料金引き下げへの言及は、こうした苦しい状況を脱することができた一因となったのかもしれません。

携帯料金引き下げを経済回復につなげることができるか

では、今回はどうでしょうか。首相が交代したので一概に比較はできませんが、新型コロナウイルスへの対応の是非を巡り、安倍前政権の支持率は大きく下落していました。これは過去2度の状況よりも深刻であり、各種の世論調査によれば、8月の不支持率は支持率を10~13ポイント上回る“非常事態”だったのです。

新しい首相になったとはいえ、携帯料金引き下げ政策が世論調査にプラスに効く可能性は高いでしょう。しかも、早期の解散総選挙の可能性がささやかれる中でもあります。今回もまた、携帯3社が政権浮揚のための犠牲になったと考えるのは邪推でしょうか。

しかし、いかなる理由であれ、携帯料金が引き下がるのは消費者にとって大きなメリットになります。このメリットが、消費や購買などコロナ禍で落ち込んだ経済活動の回復につながるような政策を期待したいところです。携帯料金を引き下げて終わりとならないことを注視するべきでしょう。

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