勤続30年の銀行員の疑問「老後資金2,000万円」は国のセールストーク?
LIMO / 2020年10月10日 21時0分
![勤続30年の銀行員の疑問「老後資金2,000万円」は国のセールストーク?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_19673_0-small.jpg)
勤続30年の銀行員の疑問「老後資金2,000万円」は国のセールストーク?
私事なのですが、都市圏で一人暮らしをしながら大学に通っていた子供が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で授業再開が不透明となり、最近自宅に戻ってきました。引っ越し代などの想定外の出費がかさみ、今後のことを考えると不安になりました。
夫婦でお金のことを話し合い、子供が自立した後について話が及んだときに、ふと「老後資金2,000万円問題」が頭をよぎりました。コロナ禍によって誰もが「万が一働けなくなった時」を意識するようになり、自分の老後について考えるようになった人も多いのかもしれません。
そこで今回は「老後に2,000万円必要って本当?」という疑問について、銀行員としての見解を添えながら、まだ老後やお金のことについて考えてみたいと思います。
老後に2,000万円は、本当に必要か?
「老後資金2,000万円問題」が話題になり始めたのはもう随分前のことのような気がしていましたが、実は2019年とごく最近のことでした。
これは、夫婦が年金だけで暮らしていくには2,000万円の蓄えが必要だという問題提起で、当時は国会でも取上げられるなど物議を醸しました。事の発端となったのは、金融庁の金融審議会というところが作成したレポートです。※以下にレポートを添付します。大作ですが、興味のある人は目を通してみてください。
※ 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf)
このレポートのポイントを簡単に箇条書きにすると、次のようになります。なお、ここから銀行員としての私見も含みますので、その点も踏まえて読み進めてください。
【金融庁レポートの要点】
モデルケースは年金暮らしの高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上を想定)
モデルケースの場合、年金だけでは毎月5.5万円不足
人生100年時代で、2人がこの先30年生きると仮定
以上から、▲5.5万円(毎月の赤字)×12か月×30年=▲1,980万円となり、不足金額は30年で約2,000万円
老後資金2,000万円を貯めるためのオススメの方法
2,000万円貯める”オススメの方法”とは?
レポートでは2,000万円を貯めるためのオススメ方法まで紹介されています。それは「長期分散投資」のことで、具体的に言うと個人型確定拠出年金の「iDeCo(イデコ)」や少額投資非課税制度の「つみたてNISA」です。
このレポートを読み終えて感じたのは、「私がお客様に積立投信などの運用提案するときの話法と一緒だ」ということでした。
筆者も、銀行で投資信託や個人年金など様々な金融商品を販売してきました。社内研修でセールストークを学びましたが、そこでは「儲かります!では売れない。まず問題提起をして顧客に自問自答するように促し、その解決策として運用を提案すべし」というものがありました。
まず、今の低金利では預貯金で置いていても増えることは見込めない、と問題提起(要はお客様を不安にさせること)をします。そして、ではこんな商品はいかがでしょう?と投資信託などを勧めるのです。
レポートは銀行員のセールストークに似ている?
つまり、レポートは「2,000万円貯めておかないと、老後にお金が足りなくなる」と問題提起し、「長期分散投資がオススメで、iDeCoやつみたてNISAを活用しましょう」と提案していることから、まるで銀行員のセールストークのようだと感じたのです。
ネット上に掲載されている多くの記事でも「〇〇はヤバい」「このままで大丈夫?」といった内容の後に、特定の商品やサービスに誘導するのはよくある手法ですが、もちろんそれ自体は悪いことではありません。
しかし、今回のレポートは国(正確には金融庁の金融審議会)が作成したものです。国会では2,000万円の妥当性や根拠に焦点が当たっていましたが、筆者は特定のサービスであるiDeCoやつみたてNISA、そして暗に積立投資信託を推奨する内容のほうに、むしろ違和感を覚えました。
なぜなら、得てして国などお役所の文章は、問題提起ばかりで解決策がない「問題提起したあとは放置」が多いのですが、このレポートでは親切にオススメ商品まで盛り込んでいるのですから…。
まとめ~老後のためにいくら必要?
では、老後のためにいくらあればいいのでしょうか?
銀行員としてお答えするならば、そこに正解はないと思います。ここまで解説してきた通り、老後資産2,000万円問題の発端となったレポートには意図や恣意的なものを感じてしまいます。あくまで私見ですが、レポートは iDeCoやつみたてNISAの宣伝とも言えるかもしれません。
老後のためにいくら必要か?
いくらあれば満足した暮らしができるのか?
これは人それぞれです。足りないと思えば1億円あっても足りないですし、年金だけでも充実した生活を送っている人もいるはずです。
大切なのは、問題提起と解決策を提案されたときには、落ち着いて考えることです。セールスする側はそこが狙いなのですから、まずは焦らないことが肝心ということを忘れないでください。
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