「収入右肩下がり」の時代がやってきた!? ANAが人件費大幅削減へ
LIMO / 2020年10月9日 20時0分
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「収入右肩下がり」の時代がやってきた!? ANAが人件費大幅削減へ
「全日空が厳しい人件費削減を提示」と報道
持株会社ANAホールディングス(9202)の傘下にある大手航空会社の全日本空輸(以下「ANA」)が、コロナ禍の影響による深刻な業績悪化を受けて、厳しい人件費削減策を打ち出した模様です。
まだ会社側の正式発表ではありませんが(注:人件費削減に関しては今後も正式リリースは出ない可能性が高い)、労働組合への取材等に基づいた各種報道によれば、主な内容は以下の通りです。
冬季賞与の支給見送り
一般社員(約15,000人)の基本給削減
今後はグループ傘下の他企業従業員(約33,000人)へも適用を検討
希望退職に応じる従業員への割増金の増額
無給で休職できる制度を新設(理由を問わず最大2年間)
ANAは既に今年の夏季賞与を従来の半分まで減額しており、冬季賞与の見送りや基本給削減を合わせると、今年(2020年)の平均年収は昨年比で▲3割減少となる見込みと報じられています。
一連のコロナ禍により、ANAを始めとする航空業界が深刻な経営不振に陥っているのはご存知の通りですが、それを踏まえても非常に厳しい内容だと言えましょう。
冬季賞与の支給見送りよりも、基本給削減が大きな柱に
まず、冬季賞与の支給見送りに関しては、特段驚くことではありません。ANAの場合で言えば、むしろ半分とはいえ夏季賞与が支給されていたほうが驚きです。
筆者が5月に執筆した記事『コロナ不況、ボーナス「ゼロ」は夏より冬が正念場。今から備えをすべき?(https://limo.media/articles/-/17153)』でも指摘した通り、ボーナス「ゼロ」は冬季賞与で本格化するでしょう。
特に、ANAが属する航空業界を始めとする運輸産業、ホテルを含めた旅行産業(既に一部は発表済み)、飲食産業などでこの動きが加速すると予想されます。
しかし今回のANAの人件費削減で注目すべきは、何と言っても基本給の削減です。これはリーマンショック時にも見られたことですが、相当に深刻な状況でないと基本給カットには踏み込めません。
実質的な業績連動型報酬であるボーナスと違い、基本給削減を実際に行うには、労働局の監査基準があるため労使合意が絶対条件となります。また、ANAの事例で言えば、今般の基本給カット対象は一般社員(組合員)であり、管理職など非組合員には既に適用されている模様です。
一連の報道ではカット率には触れていませんが、リーマンショック時に大手自動車メーカーの管理職がほぼ一律▲5%削減された事例を勘案すると、一般社員では概ね▲3%程度、管理職は▲5~▲8%程度と筆者は推察します。
2021年前半は手取り分が大幅減少へ
また、報道内容にある2020年の年収▲3割減の要因はほとんどが賞与分と考えられ、この基本給カットの影響が本格的に出てくるのは来年、2021年からになります。
そこで見落としがちなのが、地方税(住民税)の支払いです。住民税は前年の所得分に基づいて計算されますが、通常の場合、(新たな住民税は)6月から給与天引きという形で反映されます。つまり、来年2021年の前半は、まだ通常レベルだった2019年の所得に基づいた住民税となるわけです。
一方で、給与は減少するわけですから、手取り分が大きく減ることは不可避です。賞与が大幅減となった2020年の所得に基づく6月以降は幾分か楽になりますが、それでも、厳しい収支に変わりはないでしょう。
このような基本給カットは、当然ながらどの企業の経営者もやりたがりません。しかしながら、どこか1社、しかも業界に大きな影響力のある企業が実施すると、それがある種のスタンダードになる場合が多く見られます。リーマンショック時がまさしくそうでした。
今回のようにANAのような大企業が踏み切れば、グループ内企業は言うに及ばず、他の運輸企業(空運、陸運、鉄道など)も追随するような形で実施する懸念があると考えられます。
基本給カットは負債を抱える中高年層に深刻な影響
ボーナス「ゼロ」、あるいは、それに近い状況が当面続くという前提に立つと、基本給カットは若年層の従業員にとっても大きな痛手ですが、住宅ローンや子供の教育費など多額の負債を抱える中高年層には深刻な影響が出るでしょう。
住宅ローンは借り換えによる返済負担の軽減が可能ですが、当然ながら負債額(ローン残高)が減るわけではなく、一時しのぎに過ぎません。
また、子供の教育費を減らそうとなると、子供の進路自体の変更を余儀なくされる可能性があります。実際、リーマンショック時には、私立中学・高校を退学して公立校へ“転入”するケースもあったようです。さらに、これから受験を控えている子供の進路にも、大きな影響が出てくると思われます。
ANAの「無給で休職」とはどのようなパターンなのか?
また、今回の報道で従来なかったパターンとしては、無給で休職できる制度を新設することが挙げられます。現在でも、「無給で休職」というのは怪我や病気の場合に適用されており、通常賃金の約3分の2が「傷病手当金」として支給されます(注:例外あり)。
休職者は、この傷病手当金で社会保険料や住民税を支払うことになりますが、ANAが提示したとされる「無給で休職」にこのパターンが適用されるのか不明です。「最大で2年間」となっていることから、退職時の健康保険任意継続のケースが想定されますが、現時点では詳細は不明です。
ちなみに、健康保険の任意継続の場合、保険料は全額自己負担となります(会社との折半ではない)。
ANAのような人件費削減は決して対岸の火事ではない
現在、政府がコロナ禍対策の柱として実施している「Go To」キャンペーンは一定の効果を上げているようです。ANAも「Go To トラベル」で除外されていた東京が追加されたことで、国内のフライト数も4~5月のドン底状況から見れば回復傾向にあります。
また、ビジネス客の入国制限措置が段階的に緩和されていることから、国際線も徐々に再開される予定です。しかしながら、「Go To トラベル」は2021年1月末で終了する見込みであり、海外からの観光客受け入れにはまだ相当な時間を要するでしょう。
ANAはこうした状況を踏まえて、長期的な厳しい視点で人件費削減を打ち出したと思われますし、今後は他企業や他業種で同じようなケースが相次ぐ可能性が高いと考えます。
私たちも、いつ同じような人件費削減策を突きつけられても狼狽しないように、今から準備をしておく必要があるでしょう。収入が右肩下がりの時代に入ったと考えないと、大変なことになるかもしれません。
多くの人にとって、ANAの人件費削減策は決して対岸の火事ではないことを肝に銘じておくべきと考えます。
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