「熟年離婚」のお金事情、やっぱり気になる年金のこと。
LIMO / 2020年10月14日 0時25分
「熟年離婚」のお金事情、やっぱり気になる年金のこと。
「離婚に関するお金」というと、養育費と婚姻費用を思い浮かべる人が多いと思います。これらの金額は、裁判所が出している算定表を参考にして求められます。
2019年12月、この算定表が改定され、旧算定表の時よりも同等か高い金額で計算されるようになりました。女性にとって、まだ社会に出ていない子どもを抱えての離婚は、経済的な困窮にも直結することが多く、この改定による金額の見直しは大きな意味を持つといわれています。
さて一方で、子どもに関する経済面や生活面などを考えて二の足を踏んでいたものの、夫の退職や子どもの巣立ちをきっかけに、離婚に向けて動きたいと考えている女性もいらっしゃるかもしれませんね。今回は、熟年離婚とお金について、少し考えてみることにしましょう。
熟年離婚、どれくらいの人がしているの?
では、実際にどのぐらいの人が熟年離婚をしているものなのでしょうか?厚生労働省が公表している『人口動態調査』の2019年度版の結果より、同居期間別の離婚件数の推移を見てみましょう。(※(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450011&tstat=000001028897&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053070&result_back=1))
圧倒的に多いのは、同居をしてから5年未満での離婚ですが、子どもがそろそろ成人していると思われる、同居期間25年以上の夫婦についても、総数の約1割を占めており、無視できない件数になっているといえるでしょう。
(※)『人口動態調査』2019年 表10-5「年次別にみた同居期間別離婚件数及び百分率並びに平均同居期間」(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450011&tstat=000001028897&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053070&result_back=1)厚生労働省
老後のおひとりさま生活。どのぐらいかかる?
熟年離婚をするとした場合、気になるのはその後の「おひとりさま」の生活にかかる費用でしょう。
目安になればということで、総務庁の『家計調査(2019年度単身世帯)(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200561&tstat=000000330001&cycle=8&year=20191&month=0&tclass1=000000330001&tclass2=000000330022&tclass3=000000330023&result_back=1)』の調査結果を見てみると、おひとりさま世帯のうち、無職である世帯(平均年齢74.3歳)の実支出の平均は、15万2029円となっています。
なお、このデータでは、住居にかかる費用の平均が1万3407円(うち地代家賃6343円)、持ち家率は83.3%となっていますので、ひとりで部屋を借りて暮らすとなった場合は、もう少し費用がかかるかもしれませんね。
では、年金はいくらぐらいもらえる?
厚生労働省が公表している『厚生年金保険・国民年金事業年報(2018年度)』によれば、厚生年金保険(第1号)の老齢年金の平均年金月額は14万3761円(受給権者の平均)。また国民年金の平均年金月額は5万5708円となっています。
以下、この平均金額どおりに年金を受給できる夫婦が離婚すると仮定した場合、妻が受給することができる年金額をざっくりと考えてみましょう。
ケース1「夫婦ともに厚生年金」
夫も妻もずっと会社員として働いていたというケースの場合、年齢別老齢年金の平均年金月額は、ともに14万3761円。前述のおひとりさまの生活費用15万2千円にちょっととどかない程度です。
ケース2「厚生年金の夫・専業主婦の妻」
次に、夫がずっとサラリーマンとして勤務しており、その間、妻は専業主婦として家庭を守ってきたという世帯のケースについて考えてみましょう。この夫婦が離婚するとなると、夫は14万3761円、前者の金額を、妻は5万5708円を受給することになります。
ちなみに、このケースでは、妻は年金分割(3号分割)を要求することができますが、厚生労働省の資料による2018年度の平均だと、年金分割の平均額は、以下のようになっています。
ずっと専業主婦だった人が離婚しておひとりさまになり、年金をもらうとなると、仮に年金分割を受けたとしても、上記の表に従えば、平均月額は8万2701円。おひとりさまの生活にかかると思われる費用、15万2029円には7万円近く足りないということになります。
ケース3「夫婦ともに国民年金」
さらに、夫が自営業で妻が専業主婦、もしくは夫婦ともに自営業だった場合はどうでしょう?この場合、夫婦ともに国民年金なので、平均年金月額は5万5708円。年金分割は厚生年金のみの話ですから、それぞれに受給できる金額に変わりはありません。この場合、10万円近くの生活費が足りないということになってしまいます。
さらに年金の受給額は、加入期間の長さによっても金額が変わってきます。平均金額を受給で来ていても、想定される生活費にはすでに足りないのですから、年金しか収入源がないという場合は、かなり厳しい状況になってしまうことが予想されます。
財産分与はどうなるの?
財産分与とは、「夫婦が婚姻期間中に築いた共有財産を分割できる」という民法上の権利。離婚をするときは、預貯金など、婚姻生活で築いた財産をお互いに分配することになります。離婚後のおひとりさま生活が、年金だけでは心もとないとなると、この財産分与でもらうことができる金額がどのぐらいあるのかということが、非常に重要になってきます。
離婚をしたいと考えたら、分配されるべき夫婦共有の財産がどのぐらいあるのかをしっかりと把握しておきましょう。以下、主なものをピックアップしてみました。
現金や預貯金
住宅、車(ローンがある場合は、その負債も分配の対象)
貯蓄型の生命保険(返戻金や満期金があるものは、それらが分配の対象)
給与や退職金
なお、いずれも結婚生活の中で、夫婦で手に入れたものが対象です。結婚前の預貯金や、親がくれたお金といったものは、財産分与の対象にはならない点にも注意しましょう。逆に子どもの名義預金など、通帳の名義は子どもでも、お金を入れていたのは親である、(離婚しようとしている)夫婦だったというような場合は、財産分与の対象となってしまうこともあります。
ただ、これらの仕分けや計算、どのように分配するのかといったことは非常に複雑。また、口約束だけだと、後々分配についての認識が双方で異なっていたということにもなりかねませんので、「離婚協議書」などの書面にまとめておくことも必要となってきます。このため、財産分与については、夫婦だけで話し合うよりも、弁護士などの専門家に相談したほうがよいでしょう。
なお、専門家に依頼するには、当然お金がかかります。こういった離婚にかかる費用についても、頭に入れておいたほうがよいかもしれません。
さいごに
熟年離婚の場合は、夫婦そろっていても年金だけでは将来が心もとないという状況の中、「おひとりさま」の生活に乗り出すことになります。もし本当に離婚に向けて動き出すということであれば、入念に準備をすることをおすすめします。
なお最近では、「離婚はしないが必要以上に配偶者に干渉しない」「自分のライフスタイルを自由に楽しむ」という「卒婚」というスタイルも注目されています。
実際のところ、どれだけのご夫婦がそのように過ごしているのかはわかりませんが、「完全におひとりさまになるのはちょっと…」「ちょっとだけ相手と距離を置いた生活ができれば…」と考えるのであれば、熟年離婚ではなく、卒婚を選択するというのもひとつの手なのかもしれません。
【参考】
『人口動態調査』2019年(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450011&tstat=000001028897&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053070&result_back=1) 厚生労働省
『家計調査』2019年 (https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200561&tstat=000000330001&cycle=8&year=20191&month=0&tclass1=000000330001&tclass2=000000330022&tclass3=000000330023&result_back=1)総務省
『厚生年金保険・国民年金事業年報』(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/dl/gaiyou_h30.pdf)2018年度 厚生労働省
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