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驚異の原子力電池、次世代蓄電池の本命となるか

LIMO / 2020年10月27日 21時0分

驚異の原子力電池、次世代蓄電池の本命となるか

驚異の原子力電池、次世代蓄電池の本命となるか

100年超の長寿命・充電不要、核廃棄物を有効利用

本記事の3つのポイント

ポストリチウムイオン電池の有力候補として原子力電池に注目。長寿命という特徴を生かした開発が進められている

放射性物質が崩壊した時に得られる熱などを熱電変換素子などによって電気に変える

英国や米国のスタートアップ企業は量産化に向けて開発を急ピッチで進めている

 

 ポストリチウムイオン電池(LiB)の有力候補として全固体電池、リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池などが挙がっているなか、密かに注目されているのが原子力電池だ。この技術自体は真新しいものではなく、1970年代から宇宙探査機、人工衛星、ペースメーカーなどに採用されてきた実績がある。

 最大のメリットが100年以上という長寿命で、2万年以上を目指している開発チームもある。また、充電が不要なことから充電設備もいらないほか、メンテナンスも不要。ただし、プルトニウムなどの放射性物質を採用することから破損した場合のリスクが高く、普及が進んで来なかったのが現状だ。一方、昨今では欧米スタートアップを中心に事業化に向けた取り組みが加速している。

 原子力電池は、放射線電池、アイソトープ電池、ラジオアイソトープ電池とも呼ばれる。原理は、放射性物質が崩壊した時に得られる熱などを熱電変換素子などによって電気に変えるもの。放射性物質はα崩壊、β崩壊、γ崩壊により、それぞれ熱、電子、電磁波などを放出するが、このうち熱を出すα崩壊を利用する。α崩壊は高いエネルギーを持つものの、物質への透過力が低いことから薄い構造体で遮蔽できる。

 加えて、放射性物質は放射性同位体である必要があり、また、長い半減期であることが望ましい。具体的には、これまでプルトニウム238、ポロニウム210、ストロンチウム90といった放射性同位体が使われてきた。うち、プルトニウム238は半減期が87.7年と長いことから宇宙探査機などで初期から採用されてきた。

 熱電変換素子は、熱をかけると電気を発生させるゼーベック効果を利用する。太陽電池と同様、N型半導体とP型半導体で構成されるダイオード構造が一般的だ。仕組みとしては、熱をかけられた側のN・P型半導体で電子やホールが発生し、これらが反対側に集まり、外部回路を通して合わさることで発電する。

ダイヤモンド電池が注目

 一方、近年で特に注目を集めるのが主にβ崩壊を利用したタイプで、ダイヤモンド電池やベータボルタ電池と呼ばれる。先述のようにβ崩壊で電子を放出するが、これを半導体などを利用することで電気を集める仕組みだ。放射性物質としては、ニッケル63や炭素14といった放射性同位体が検討されている。炭素14は半減期が5730年であることから特に有望視されている。

宇宙探査機などに搭載

 原子力電池は1970年代から宇宙探査機、人工衛星、ペースメーカーなどで採用されてきた。宇宙探査機ではNASAのボイジャー、カッシーニ、ユリシーズ、ガリレオなどに搭載されている。その理由は、太陽光や水素といったエネルギーがなくても電気を得ることができるため。加えて、寿命が著しく長いことから惑星や衛星の長期探査に最適だ。先述の宇宙探査機はプルトニウム238を使用していることから今でも稼働中で、今後100年以上動くことになる。ペースメーカーでは超小型化したものを心臓に埋め込んでいる。

 ただし、原子力電池を搭載した人工衛星が事故を起こし、プルトニウム238が地上に落下したことから原子力電池の危険性が指摘されるようになった。これにより、太陽電池へのシフトが進んだ。ペースメーカーにしても、リスクが高いことからリチウム電池などに代替されている。

核廃棄物からC14を抽出

 一方、IoT化や自動車の電動化などが進むなか、原子力電池は再び脚光を浴びている。注目されている1社が英アーケンライト(Arkenlight、英ロンドン)だ。同社はブリストル大学のトム・スコット教授らの研究グループがダイヤモンド電池の実用化を目指して設立したスタートアップだ。

 同社は当初、ニッケル63を使ったダイヤモンド電池を開発し、その動作を実証した。その後、より効率の高いC14に取り組んできた。

 特徴的なのは、原子炉の減速材に使われる核廃棄物であるグラファイトブロックからC14を抽出する点。同社によると、グラファイトブロックの表面にはC14が集中しており、熱処理によりC14を気体化し、それを減圧・高温下でダイヤモンドに形成できるという。また、ダイヤモンドとなったC14の外側を、放射線を出さないダイヤモンドで包むことで、放射線を外に出さない工夫をしている。英国では累計9万5000tのグラファイトブロックが積み上がっており、これらを有効利用できるとしている。

 一方で、短所は出力密度が低い点。従って、電動車などの高出力用途には向かず、もっぱらIoTデバイスやペースメーカーといった省電力デバイスが中心になる。

 同社は24年の量産化に向けて製造プロセスを確立中。なお、γ崩壊を利用した原子力電池の開発も進めている。

 米スタートアップのNDB(米カルフォルニア州プレザントン)も核廃棄物から抽出したC14を利用したダイヤモンド電池「Nano Diamond Battery」を開発している。

 今年9月、同社はローレンス・リバモア国立研究所およびケンブリッジ大学それぞれと実証実験を行い、いずれも充電効率40%を達成したと発表(従来は15%)。カギとなったのがCVD(化学気相成長)などによる高純度化プロセスで、これにより出力を上げることに成功した。なお、ダイヤモンド表面にPVD(物理気相成長)でダイヤモンドを被覆することで放射性物質を外部に出さない構造としている。

 用途としては宇宙探査機、飛行機、電気自動車(EV)、電車、スマートフォン(スマホ)、ウエアラブル機器、ペースメーカー、IoTセンサーなど、電力を消費するすべてを想定している。スマホで9年、EVで90年の使用が可能としている。最終的には寿命2万8000年を目指している。同社は商用品のプロトタイプを開発中で、年内にも顧客に提供していく予定だ。

機器本体より長寿命

 全固体電池、リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池といった化学反応により充放電する蓄電池は数年で劣化する。これに対し、原子力電池は半減期により100年以上使用できる。これは人間の寿命、さらには機器本体の寿命を超えることにもなる。蓄電池を交換するよりも、先に機器本体を交換することもあり得る。

 ただし、普及するにはハードルが高いのも事実。原発事故などにより原子力のイメージは悪く、社会に受け入れられないのも想像できる。今後いかに安全性をアピールできるかが普及のカギとなる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

まとめにかえて

 ポストリチウムイオン電池を巡る開発競争は依然として混沌としています。全固体電池が有力視されていますが、以降も続々と有力候補が出てきており、まさに本命不在の状況といえます。今回取り上げた原子力電池は長寿命を武器に、新たな市場を開拓することができるのか、注目されるところです。

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