「身銭を切る」株式投資は最高の金融教育~座学セミナーはお金のムダ?
LIMO / 2020年10月30日 21時0分
「身銭を切る」株式投資は最高の金融教育~座学セミナーはお金のムダ?
日本人は金融リテラシーが低いと言われます。筆者は全くそんなことはないと思いますが、金融庁あたりも国民の金融知識を向上させたいと考えているようですし、商魂たくましい民間業者では金融教育ビジネスをどんどん拡大しています。授業料は決してお安くないようですが…。
そこで今回は、金融知識は独学で身につけるべきとの観点で、株式投資が最も効率のいい勉強方法であることを論じたいと思います。
就職後、すぐに株を購入
筆者の父親と祖母が株式投資(以下、株)をしていたこともあり、高校生あたりから株には興味を持っていました。
とはいうものの、当時でもまともに株を買うには最低100万円程度のお金が必要です。そんなお金は持っていませんでしたから、日経新聞の株式欄をチラ見したり、ラジオ日経(かつてのラジオ短波)の株式実況放送を小耳に挟んでいたりしていました。専門用語もよく分かりませんでしたが、“株はこうやって儲けんるんや”と面白がっていた記憶があります。
その後就職をするのですが、入社後は初ボーナスで株を買うことを決めていました。というのも、経済動向や企業業績を理解するには株を買わないとお話にならないと考えていたからです。当時インターネットはありません。情報源は日経新聞か会社四季報、そして口コミです。
口コミは噂レベルのものから、インサイダー的な情報まで玉石混交でした。もっとも、新入社員にインサイダー情報がもたらされるわけはなく、「(民営化後の)NTT株は儲かる」といった既知で他愛もないものが伝わってくるだけでした。
ちなみに、民営化したNTTは1987年2月に株式公開し、初値1株160万円というとんでもない価格で取引されました。今では、1株2230円前後と低迷しているのですが(10月26日現在)。
もちろん、新入社員が160万円も用意できるわけはありませんから、NTT株は買えません。その代わり、当時の住友金属工業株(住金)を1000株ほど買いました。安い株しか買えませんでしたので、15万円くらいの投資です。それでも、一丁前の投資家になった気分になったものです。
株は当てずっぽうで買うわけではない
今では鉄鋼株に人気はありませんが、当時はバブル直前の土地ブーム。湾岸エリアに広大な土地をもつ鉄鋼株や倉庫株はかなり有望だったと思います。その中でも1番手ではなく3番手あたりの銘柄を買ったのです。もちろん理由があります。
筆者なりの分析では、住金は(1)資産財務内容良好、(2)製品競争力あり(シームレスパイプ)、(3)住友グループ企業という看板という3点から「買い」と判断し、すぐに数倍になると思い込んでいました。
ところが、住金株は全く上がりませんでした。(1)から(3)まで間違いではなかったのですが、ひとつ見落としていたことがあったのです。それはその株自体の人気です。
明るい業界展望や土地ブームは確かにあったのですが、こと住金は人気がなく、日経平均株価がバンバン上がる中、うんともすんとも反応しませんでした。結局、内容は良くても人気がなければ上がらないと悟ったわけですが、将来のことは誰も分かりません。突然人気化することだってあるわけです。買ってみないとわからないことはたくさんあります。
負け惜しみではありませんが、人気化する株の特徴をもっと深く洞察し、業績予想を磨いていけば少なくとも大負けすることはない、というのが筆者の株からの学びです。
残念ながら、住金株はほぼチャラで売ってしまいました。その後2012年10月に、住金は新日鉄と合併したのです。結局、住金を最後まで持ち切ればよかった、というオチでした(泣)。
株を通して世の中を見る目を養う
さて、今の時代、金融知識はスクールの座学や動画で学んだりするのが主流のようです。しかしながら、これだけは断言できます。実戦以外の経験や知識で、金融リテラシーを向上させることはできません。
なぜなら、座学は忘れますし、試験に合格したとしても次の瞬間からその内容は忘れ始めます。一方、身銭を切って損得を経験する株は、それと引き換えにかけがえのない学びが身につくものです。
株は上場企業3728社(東証、2020年10月21日現在)から、儲かる株を掘り当てるゲームです。ただし、数十万円を出して、サイコロ転がしのごとく銘柄を選ぶわけにはいきませんから、当然対象銘柄を絞り込んで投資するわけです。ここは真剣勝負にならざるを得ません。
他業種のことは全くわからなくても、自分の勤務先と同業種のことなら伸びている企業や売れている製品情報などはすぐに分かるでしょう。財務情報を知りたければ、その会社のウェブサイトでIR情報を見ればすぐ分かります。そのうち、開示内容次第で買いか売りかのポイントも分かるようになります。
こうしたプロセスを経て株を購入し、上がった下がったで一喜一憂しつつも、それでも粘り強く保有しながら儲けを出すのが株です。そして副次的に、様々な投資戦略や株以外の投資対象、金利動向、政治経済動向などについて必ず興味を持つようになってきます。
今は11月3日の米国大統領選が最も関心の高いところだと思いますが、実戦派と座学派では、こうした情報に対する感度が大きく異なるのです。株は他人事を自分事に置き換える作用もある、というわけです。
自己投資を「生き金」に
金融知識を身につける必要があるのはなぜでしょうか。実はそんなものなくても、本当は問題なく生きていけるのです。ですが、それは儲かるか否かといった短絡的なことではなく、世の中を渡るための知恵なのです。甘い儲け話には乗らない、金融詐欺には引っかからない等、自己防衛するための手段です。
残念ながら、株ですぐには儲けられませんし、儲けた人の反対側には必ず損をした人がいます。手金でそうしたことを理解するのも学びの一部です。
長々申し上げましたが、実戦でしか真の金融リテラシーは身に付かない。このことを忘れないでほしいと思います。
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