犬にかまれる人の数が減らないニュージーランド…意見が割れるその対策
LIMO / 2020年11月26日 11時0分
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犬にかまれる人の数が減らないニュージーランド…意見が割れるその対策
ニュージーランドでは10月下旬に、痛ましい事件が起きました。生後たった1日の赤ちゃんが犬に襲われ、亡くなったというのです。
ニュージーランドでは病院で出産した場合、安産で、母子ともに健康、自宅に戻っても助け手がいるようであれば、出産後すぐにでも自宅に戻ることができます。おそらくこのお母さんはその条件に合うと判断されたために、自宅に赤ちゃんと戻っていたのでしょう。
庭で赤ちゃんと過ごしていた時に事件は起きたようです。お手洗いに行こうと赤ちゃんから少し目を離したすきに、庭にいた飼い犬2匹が赤ちゃんを襲ったと見られています。なお、生後すぐの赤ちゃんと外に出るというのも、こちらではごく普通のことです。人ごみなどはいけませんが、自宅の庭などはまったく問題ありません。
実は国内では、犬が人をかむ事件が度々起きています。被害者の多くが10歳以下の子どもです。何らかの対策を講じなくてはいけないものの、意見は割れています。
筆者も3匹の見知らぬ犬に取り囲まれた
生後1日の新生児が亡くなった事件を聞いて筆者がまず思い出したのは、10年以上前の経験です。それはまだ、娘が乳児の頃でした。
ある日、外出から戻り、自宅前に車を止め、後部座席から娘が乗ったベビーシートを車の外に出した時のことです。どこからか3匹ほどの大型犬がサッと現れ、ベビーシートを持つ私を取り囲んだのです。大型といっても、がっちりした体格ではなく、比較的細身の犬でした。
筆者は頭の中で「これは大変なことになるかもしれないぞ」と思いました。動物好きなので、この3匹の犬が何もしないと信じたい半面、娘が一緒でしたので、「かむなら私からにしなさい」と頭の中で犬に話しかけていました。
こう覚悟を決めたとたん、犬たちは「なんだ、つまらない」という顔をして、もと来た道を引き返して行ったのです。ほっとしてへたり込みそうになりましたが、何とか玄関までたどり着き、一件落着となりました。
ずいぶん前のことなので、犬種などは覚えていません。でもはっきり覚えているのは、登録済みを示すタグ付きの首輪を着けていなかったことでした。
犬の登録とマイクロチップは、飼い主の義務
昨年初めの時点で、ニュージーランド国内で登録済みの犬の数は全国で56万匹を超えています。登録は、犬が生後3カ月になった時点で、飼い主が住む地方自治体で行います。これはマイクロチップの埋め込みとともに、犬の飼い主に義務づけられています。
では、登録料はどの程度か、人口も犬の数も最も多いオークランド市を例に挙げてみましょう。オークランドでは7月1日から翌年の6月30日までを1年間と考えます。
去勢済みのペット犬の場合、早めに(8月2日まで)支払えば106NZドル(約7600円)で、通常では140NZドル(約1万円)です。妥当な金額と筆者は考える一方で、「たかが登録に100NZドル以上?」と登録しない人もいるようです。
登録された犬には特別なタグが与えられ、首輪に付けていなくてはなりません。筆者を取り囲んだ犬は首輪すらしていなかったので、未登録だったに違いありません。タグは年によって色が違うので、一目で現行のものか、古いものか見分けがつきます。
もし未登録で生後3カ月以上の犬を飼っていた場合は、罰金300NZドル(約2万2000円)が科せられます。また裁判で有罪判決が下った場合は、3000NZドル(約22万円)以下とはいえ、大きな額の罰金が待っています。
なお、ニュージーランドを代表する科学雑誌、『NZメディカルジャーナル』の2019年5月号に掲載された研究報告書では、2004~2014年までの10年間に、犬にかまれてけがを負い、入院しなくてはならなかった人の数は4958人に及んだそうです。単純計算すると、1年に約500人です。
年齢別では、5歳以下の子どもの割合が最も高く、5~9歳が続きます。子どもたちは主に頭や首に、大人の場合は上肢・下肢にけがを負うことが多いそうです。つまり、子どもの方が大人よりはるかに深刻で、命を落としかねないけがを負うというわけなのです。
1年間に犬にかまれた人は約1万4000人
ニュージーランドには、アクシデント・コンペンセーション・コーポレーション(ACC)という事故補償制度があります。対象は、ニュージーランド人、海外からの旅行者の両方で、国内で突発的にけがをした場合の医療費をカバーするものです。
ACCの統計によれば、2016年1年間に犬にかまれるけがをしたという請求は 約1万4000件 。 また同年1年間で犬によるけがに対し、ACCが支払った額は400万NZドル(約3億円)近くに及んだそうです。
2001年からの請求件数を追ってみると、2003年に約8000件といったん減少しましたが、その後は増加の一途をたどっています。 2006年には初めて1万件を上回り、 約1万400件に。2012年には約1万2060件、2015年には約1万3100件といった具合です。
この研究を行ったオークランド市内のミドルモア病院に勤務する形成外科医のザック・モアヴェニ医師は、病院では毎日のように犬にかまれた人の手当てをしていると、オークランドの地方紙『ニュージーランド・ヘラルド』に話しています。
ちなみに、ニュージーランドとは環境が異なるので単純比較はできませんが、参考までに日本の場合を記すと、環境省の統計(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r01_3_3_1.pdf)での犬による咬傷事故件数(全国計)は平成30年度で4249件でした。
犬種の指定をめぐる議論
国内には犬の管理方法や違反した場合の刑などを定めた、「ドッグ・コントロール法1996年」があります。この法律は2003年、当時7歳だったキャロライナ・アンダーソンさんがアメリカン・スタッフォードシャー・テリアに襲われたのを機に修正され、特定の犬種の輸入禁止、「危険」とされる犬種、「人間に害を及ぼす」とされる犬種が指定されました。
キャロライナさんは、「顔の傷は永久に残り、また精神的にも大きな影響を受けた」と言います。また、2014年には、キャロライナさんの事件当時の年齢、つまり7歳の女の子が同様の被害に遭っています。
その時18歳になっていたキャロライナさんは、日刊紙『ニュージーランドヘラルド』紙からこの事件に対するコメントを求められ、まだ野放しになっている危ない犬種を取り締まるべきと話しています。
一方、モアヴェニ医師は法改正で取り締まる犬種を増やしても、あまり意味はないのではないかと法改正に疑問を持っています。結局はどんな種であっても絶対攻撃的にならないという保証はないというのです。
このへんのところを獣医に尋ねてみますと、それまで犬がどのように人間に扱われてきたかが、犬の行動に反映されるということでした。
「ドッグ・コントロール法1996年」では、地方自治体と飼い主が犬の管理について各々責任を負うことが決められています。地方自治体は犬をリードから離し、のびのびと走り回れる場所や時間を確保しています。中には、犬専用の「ドッグパーク」を整備しているところもあります。
また、犬のトレーニングスクールも数多くあり、飼い主は犬がまだ子犬の時に参加し、専門家にしつけを徹底してもらいます。スクールでは、とびぬけて恥ずかしがり屋だったり、よく吠えたりと問題がある犬の特別訓練も行われています。
また人間側にも教育が必要と、キッズ・セーフ・ウィズ・ドッグというグループなどは、学校を訪問して、子どもたちに直接、犬と安全に接する方法を教えたり、保護者や教師に子どもを守ってもらうための方法を身に付けてもらったりし、犬にかまれる事故が起こらないよう尽力しています。
犬にかまれる事故を減らすための第一歩は教育にありそうです。それも犬だけでも人間だけでもだめ。共に楽しい暮らしを送るためには、犬にも人間にも努力が求められています。
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