バイデン政権は財政赤字を放置するか? MMT理論の危険性
LIMO / 2020年11月23日 20時0分
バイデン政権は財政赤字を放置するか? MMT理論の危険性
日本の財政は破綻しないと筆者(塚崎公義)は考えていますが、それでもMMTは危険だと思います。まして、基軸通貨国のMMTは大変迷惑だ、と筆者は考えています。
新型コロナ不況への対応として、各国政府は巨額の財政支出を行なっています。それにより財政赤字が増えて、政府が破産する可能性が高まる、インフレになる、等と心配している人もいるでしょうから、数回にわたって財政を考えるシリーズを組むことにしました。今回は第4回です。
米国の新理論MMTは画期的だが危険
米国でMMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)と呼ばれる理論が話題になっています。自国通貨建てで国債を発行するなら、借金が返済不能になることはあり得ないのだから、インフレにならない限り財政赤字を気にしなくて良い、という考え方です。
新型コロナ不況への対策によって各国の財政赤字が巨額化するにつれて、再び注目を集めるようになっていますし、民主党左派が支持していることから、バイデン政権がこのまま成立すればMMTが一定の影響力を持つかもしれません。
主流派経済学からは厳しい批判を受けていますが、「日本は財政赤字が巨額だけれどインフレになっておらず、MMTの成功例と言える」などと言っているようです。
筆者は、日本の財政は破綻しないと考えているので、景気を危うくしてまで緊縮財政を焦るべきではない、という点ではMMTと似ています。
しかし、それでも無理なく緊縮財政ができるなら、そうすべきだと思います。財政赤字が大きいと、インフレになった時にそれを加速するリスクがあるからです。
具体的には、10年後に少子高齢化で労働力不足が深刻化してからの増税は、失業を増やさないので、積極的に実施すべきだと考えています。その点については拙稿『増税は10年後に!「巨額赤字で財政は破綻する」が誤りである理由(https://limo.media/articles/-/19422)』をご参照いただければ幸いです。
MMTはインフレを起こす発火装置ではなく加速させる燃料
超金融緩和時の財政赤字というのは、大胆に単純化して言えば、政府が日銀から借金をして財政支出を行なうことですから、人々が大量の紙幣を持つことになります。もっとも、人々がインフレ懸念を持たなければ、その紙幣は老後のための貯蓄として銀行に預けられるだけで、インフレにはなりません。それが現状です。
ところが、人々がインフレを予想するようになると、「値上がりする前に買おう」という「買い急ぎ」の動きが出てきます。
財政支出を増税で賄っている場合には、人々がそれほど金を持っていないので、買い急ぎをしたくても少ししかできませんが、MMTの場合には人々が大量の金を持っていますから、大量の買い急ぎが出てきて大幅なインフレになりかねないのです。現金で持っていない場合でも預金を引き出せば良いので、同じことです。
日本でもインフレのリスクあり
日本は世界の中でインフレが起きにくい国ですが、それでもインフレのリスクはあります。一つは少子高齢化による労働力不足によって賃金が上がり、インフレになる場合であり、もう一つは南海トラフ大地震等によるインフレです。
新型コロナ前には、すでにわずかですが物価は上がっていましたから、新型コロナ不況が終われば、ふたたび少子高齢化による労働力不足で賃金が上がり、インフレになる可能性は十分にあるでしょう。これがある時「買い急ぎ」を誘発する可能性は否定できないでしょう。
南海トラフ大地震の可能性も決して小さくないと言われていますが、その場合には復興資材の値段が10倍以上になると思われます。そんな時に人々が大量の資金を持っていたら、買い急ぎが殺到してインフレが一気に加速してしまいかねません。
海外でのMMTは海外は日本以上に危険
上記のように、日本に於いてもMMTは危険ですが、海外に於いてはさらに危険です。そもそもインフレ率が日本より高い国が多いですし、人々の行動も異なる可能性があるからです。
日本人は慎重なので、インフレになった時に「老後のための貯金が目減りしてしまったから倹約して貯金しなければ」と考える一方で、海外の人は「インフレなら買い急ぎしなければ」と考える可能性があるわけです。
こうしたことを考えると、海外でのMMTは危険ですから避けるべきでしょうが、本稿が特に問題とするのは基軸通貨国である米国のMMTです。
米国のMMTは他国の迷惑
普通の国がMMTを採用し、インフレにならなければその国の国民が喜び、インフレになればその国の国民が困るわけですが、米国の場合はそうではありません。
米国がMMTを採用してインフレにならなければ米国民がメリットを享受するだけで、他国民へのメリットは決して大きくありません。
一方で、米国がインフレになると、厳しい金融引き締めが行われますから、世界中の国が困ります。米国の通貨であるドルは世界中の貿易や投資に使われているからです。
つまり、米国のMMTは諸外国にとっては「メリットは小さいが、酷い目に遭うリスクは十分ある」という迷惑な政策なのです。ぜひ、思いとどまってほしいと思います。
まあ、米国大統領選挙に選挙権を持たない筆者が何を言っても、所詮は「雑音」なのでしょうが(泣)
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>
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