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株主重視のROE経営は危険で迷惑。コロナ不況でわかった日本型安全経営の価値

LIMO / 2020年11月30日 10時0分

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株主重視のROE経営は危険で迷惑。コロナ不況でわかった日本型安全経営の価値

ROE重視経営は倒産を増加させ、企業にとって危険であると共に、銀行や取引先や日本経済等に多大なリスクを押し付ける、と筆者(塚崎公義)は考えています。

ROAを重視すべき

企業の経営を評価する指標としてROAとROEが有名です。ROAというのはReturn on Assetsの略で、ROEというのはReturn on Equityの略です。

ROAは、利益を資産額(バランスシートの左側)で割った値です。資産を利益に効率的に結びつけているか、ということですね。同時に、バランスシートの右と左は等しいので、ROAは利益を「純資産(自己資本とも呼ぶ)と銀行借入の合計」で割ったものでもあります。つまり、「株主と銀行から調達した資金を用いて効率的に稼いでいるか」ということでもあるわけです。

これは重要なことで、会社の経営者が全力で取り組むべき課題だと言えるでしょう。株式会社は利益を稼ぐことが最大の使命なのですから。

一方で、ROEというのは利益を純資産(バランスシートの右下)で割った値のことです。株主から調達した資金を効率的に利益につなげているか、ということですね。株主にとっては、これが最も重要ですから、「株主重視経営」というのはROEを高めることだ、と言えるでしょう。

しかし、これはそれほど難しいことではありません。財務部長が銀行から借金をして自社株買いをすれば良いからです。

数値例で見てみましょう。A社とB社は全く同じビジネスをしているとします。利益は2、総資産は100、ROAは2%です。A社は、銀行借り入れを行わず、すべての資金を株主から調達していますから、ROEも2%です。B社は負債90、純資産10です。

A社が銀行から90を借り入れて、それで自社株買いを行うと、自己資本が10、負債が90となり、B社に変身できるわけです。銀行借入の金利が1%だとすると利益は1.1に減りますが、ROEは11%に高まります。分子の利益が約半減する間に分母が9割減となるからです。

こうした取引により、確かに株主の投資額に対する利益は増えているので、株主は喜んでいるでしょうが、それは世の中にとって大きな迷惑なのです。

企業が倒産すれば多方面に迷惑

A社が20の損失を被ったとしても、自己資本が20減るだけで何も起こりませんが、B社が20の損失を被ると債務超過に陥り、倒産する可能性が高まります。資産を全部売っても負債が返せない状態になるので、銀行が不安になって返済を求めてくるからです。

会社が倒産すると、従業員が路頭に迷いますし、銀行も損失を被ります。納入業社も売り先が減ってしまいますし、下手をすれば売掛金を失いかねません。

日本経済にとっても損失です。企業が倒産すると、まだ使える設備機械がスクラップされてしまったり、企業が持つノウハウや信用といった目に見えない「資産」が雲散霧消してしまうからです。

株主が自分の利益を追求することで、他人に迷惑をかける可能性が高まるわけです。つまり、「株主重視経営としてROEを高めることは良いことだ」ということは言えない、ということです。

銀行が弱い立場だとROE重視が進む

企業の自己資本比率が低下すると株主は高いROEを享受できるわけですが、もう一つ株主が享受できるのがリスクの軽減(リスクの銀行への押し付け)です。

株式会社には株主有限責任の原則というものがあり、会社が純資産以上の損失を被っても株主は追加の負担を求められることはありません。つまり、会社が借金を返せなければ、その分は銀行が損失を被るというわけです。

会社が儲かった時は株主が利益を受け取るのに、会社が大損をすると銀行が損をするわけです。そして、何円以上の損だと銀行が損を被るのか、という境目が純資産額なのです。

したがって、企業が銀行から借金をして自社株買い(あるいは配当)をするということは、株主から銀行にリスクを移転する行為なのです。

そうしたことを考えると、本来であれば銀行は、自己資本比率の低い借り手、たとえばB社のような企業に対しては高い金利を要求すべきです。倒産する可能性が結構高く、銀行が損失を被る可能性があるからです。

たとえば金利が2%より高ければ、B社は赤字になりかねませんから、増資によって資金を調達して銀行借入を減らすでしょう。そうなれば、銀行は安心して金を貸せるようになるわけです。

もっとも、今は企業の資金需要が弱いため(新型コロナの影響は除く)、銀行間で貸出金利引き下げ競争が行われており、「自己資本比率が低い借り手には高い金利」などと言い出しにくい状況です。「それなら、他の銀行から借りる」と言われかねないからです。

ちなみに、本来であれば労働者も、B社よりA社に入社すべきですし、納入業社もB社にはA社より高い値段で売るべきなのですが、こちらもなかなか理屈どおりには行かないようです。

新型コロナで怖さを認識したはず

幸い、日本企業は「内部留保をため込んでいる」「現預金を積み上げている」という批判を受けるほど安全重視の経営をしているところが多いようです。終身雇用制で従業員の雇用を守ることを重視する日本企業は、倒産への警戒感が強い、という要因もあるのでしょうね。

それに対して批判をしている人々は、新型コロナで売上高が急減して倒産が激増しかねない現状を、どう考えているのでしょうか。

批判者はともかくとして、企業経営者の多くが新型コロナ不況を経験して、安全経営の重要さを再認識し、過度にROEを重視しない経営方針を再確認していると期待しましょう。

それから、銀行が自己資本比率の低い借り手に対する貸出の怖さを再認識し、今後は高い金利を要求することを決意した、と期待しましょう。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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