介護を担う若者たち。18歳以上の「ヤングケアラー」をめぐる過酷な現状。
LIMO / 2020年12月6日 8時0分
![介護を担う若者たち。18歳以上の「ヤングケアラー」をめぐる過酷な現状。](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_20521_0-small.jpg)
介護を担う若者たち。18歳以上の「ヤングケアラー」をめぐる過酷な現状。
~当事者による、厚労省担当者への取材を交えて~
学校や仕事に行きながら、病気や障害のある親・祖父母・きょうだいなどの介護や世話をしている人たちを「ヤングケアラー」と呼びます。
筆者は30歳過ぎから6年間、認知症の祖母の「シングル(一人で)在宅介護」を行っていました。祖母は現在、精神科病院に入院中。急病時などの緊急対応を、引き続き筆者が担当しています。
最近、「ヤングケアラー」という言葉が、メディアで注目されるようになり、当事者として非常に嬉しく思っています。
ですが、厚生労働省の定義による対象年齢には誤解があるように思うのです。同省の調査対象を、中学・高校生に限定せず、10代~30代に広げるべきではないかと疑問を感じる部分があります。
そこで、厚生労働省の内尾さんに「ヤングケアラー」の定義や、対象となる年齢がなぜ誤解されているか、そして、支援のあり方などを聞きました。
なぜ「18歳未満に限定」と誤解が広がっているのか。
「ヤングケアラー」の対象年齢を、「18歳未満の子供」と限定した報道が増えています。しかし、政府がはっきりとした定義を決めているわけではありません。
よって、18歳未満と同じく19歳以上30代くらいまでを現状「ヤングケアラー」の仲間と呼んでも間違いではありません。
それでは、なぜヤングケアラーの対象が「18歳以下限定」という誤解が広がっているのでしょうか。
「アメリカのNPO団体がヤングケアラーの年齢を18歳以下と定めていて、それが日本でもなんとなく浸透したのではないでしょうか」(内尾さん)。
おそらく、日本のメディア関係者や識者の中にも、誤解をしている人がいるかもしれません。
諸外国における「ヤングケアラー」の定義
アメリカのヤングケアラー支援に取り組むAmerican Association of Caregiving Youthは「精神的、身体的疾患や高齢、障害、何らかの依存症などにより助けを必要とする家族や親せきに多くの支援をしている18歳未満の子ども」と定義しています。
また、オーストラリアでは、「病気や障害、精神疾患、あるいはアルコールやドラッグなどの依存症を抱える家族やパートナー、きょうだい、親せきや友達をケアしている 25 歳以下の若者」とされていて、18歳から24歳のケアラーは「ヤングアダルトケアラー」とも呼ばれています。
さらに、カナダは、そもそも年齢の定義はありません。
このように、ヤングケアラーの対象年齢や定義については、諸外国でも違いが見られます。
【参考】「ヤングケアラーの実態に関する調査研究 報告書(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/04/koukai_190426_14.pdf)」三菱UFJリサーチ&コンサルティング
厚生労働省の実態調査
厚生労働省は、全国の中学・高校生を対象に、ヤングケアラーに関して、相談しやすい環境や負担軽減の支援策の初の実態調査を2020年12月に始め、2021年3月ごろ調査結果をまとめる方針です。今までヤングケアラーに関する公的な調査がなかったことを考えると、これは大きな前進といえるでしょう。
全国の中学校・高校生のヤングケアラーの調査に至った経緯について内尾さんは、「日本ケアラー連盟さんからのご要望や最近の実態をうけて実施することになりました」と話していました。
「10~30代のシングル・ダブル介護者こそ早急な実態解明を」
一方で、中学生・高校生のみに限定せず、10代~30代の学生・社会人にまで対象を広げて、調査を進める必要があるのではないかと筆者は思います。
中でも、「1人」で「1人もしくは複数」を介護する人(=シングル・ダブル介護者)は、経済的や精神的に厳しい環境に追いこまれている可能性があり、筆者もその一人です。
それでは30代の私が、なぜ祖母を在宅介護しようと思ったのか。次は、そんなお話をしていきます。
「アラサー男性」の私が、祖母の介護を決めた理由
では、30代だった私が祖母の在宅介護を引き受けることになった理由や、介護生活の実状をお話していきたいと思います。
理由①家族構成、そして母の闘病
一つ目は、家族それぞれの事情です。我が家は母子家庭なのですが、母親は脳梗塞、大腸ガン、咽頭ガンなどと闘病中。また、きょうだいたちは結婚して家を出ており、筆者以外に祖母をケアする家族がいませんでした。そこで、祖母に一番可愛がってもらった筆者が、手を挙げたわけです。
理由②「お金」の事情
二つ目は、祖母自身に借金があり、施設に預けるのに必要な毎月20万~25万の資金が確保できなかった、という資金的な事情です。
このように、若年介護の背景には、家族や経済的な問題が潜んでいることは少なくありません。さらに、その先に待ち受けていた在宅介護生活は、仕事と両立できるほど甘いものではありませんでした。
在宅介護「さいしょの3年間」
祖母が自宅で転倒・打撲をきっかけに、要介護2から4に上がる、在宅介護の3年間を振り返ってみます。
週2回:朝9時~夕方位までデイサービスを利用
週2回:30分程度ヘルパーを利用(買い物や掃除、身支度などの支援)
月2泊3日:ショートステイを利用
当時は、このような介護サービスを利用していました。逆をいうと、それ以外の時間、一人でずっと祖母のケアを行っていたということです。
デイサービスの日は、祖母を送り出してから2~3時間の仮眠をとり、祖母の帰宅前に、掃除、夕食の準備、そしてオムツなどの日用品の買い物を済ませ・・・。祖母の帰宅後は、話を聞いたり、オムツを替えたり、テレビをみながら一緒に夕食をとったりして過ごしていました。
夜間の介護は本当に骨が折れます。祖母が「腹へった、飯食わせ」と笑いながら、2時間に1回ぐらい起きてくるのですから・・・。私が夜、本当にゆっくり休めたのは、月2泊3日、祖母がショートステイのお世話になっている間だけでした。
ようやく私が仕事を再開できたのは、在宅介護5年目になってから。シングル・ダブルの在宅介護者は、フルタイムで働くことは不可能でしょう。
自ら手をあげる「ヤングケアラー」は少ない。
内尾さんは、
「自らヤングケアラーと手をあげる人が多くなく、実態把握に苦労していますが、10代~30代の方の介護者の方の支援は重要な視点ととらえています。検討課題の一つです」と回答。
現在、家族介護慰労金という介護制度がありますが、条件が大変厳しく現実離れしているといわざるをえません。
〈家族介護慰労金の支給条件〉
• 要介護4または5の認定者及び介護中の同居家族
• 世帯が「住民税非課税世帯」
• 通算90日以上の入院をしていない
• 1年間、介護サービスを利用していない
少子高齢化は着々と進んでいます。介護施設は慢性的な人手不足が続いており、在宅介護を余儀なくされるケースはさらに増加することが確実です。
今後、若者のシングルやダブル在宅介護者への早急な公的金銭的支援が不可欠といえるでしょう。
参考にしたい「諸外国のケアラー支援策」
今後、若年介護者に向けた金銭面での支援策を検討していく上で、諸外国の制度は参考になると思います。
イギリス
介護休暇:緊急事態時で合理的な期間。
家族介護者の急速:自治体がサポートプランと予算案作成 。
現金給付:介護者1人あたり1週間約9000円。働きながらの介護者にも支給有。
オーストラリア
介護休暇:家族の病気や死などで、10日間+α(常勤の他パートタイマーも対象)
家族介護者の急速:介護者の緊急事態に、24時間の問い合わせ窓口で対応
現金給付:介護で就労不可の場合、月10万支給。2 週間 単位の所得保障、就労 の有無に関係なく受給可。
ドイツ
介護休暇:介護休業や時短短縮の無利子貸与。2年間(終末期ケアは別に+3ヶ月)
家族介護者の休息:要介護2以上デイケア・ナイトケア・ショートステイ利用可。
現金給付:要介護2以上の現物給付の代替として、要介護度に応じた額を支給。(約4~11万円)
※三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「家族介護者支援に関する諸外国の施策と社会全体で 要介護者とその家族を支える方策に関する研究事業(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2020/04/koukai_200424_7.pdf)」より筆者作成
ご覧のように、イギリス・オーストラリア・ドイツは、介護者に対し充実した支援制度があるのがわかります。
現金給付でみると、オーストラリアは就業が不可の場合、月10万円が支給されます。また、ドイツは、要介護2以上の介護者には、要介護者の介護度に応じて4万から11万円ほど支給されるほか、無利子の貸与制度があります。
さいごに
「ヤングケアラー」を18歳未満に限定されると、それ以上の当事者たちの心に孤立感が生まれる可能性もあります。
そもそも、年齢に関わらず、介護を行う側の人々には継続的な支援が必要であることはいうまでもありません。
先述の諸外国のように、介護する側の人を支援する、包括的な体制が整うことが望まれます。さらには、介護が離職に直結しやすい、シングル・ダブル在宅介護者にフォーカスを当てた支援策が打ち出されることを願っています。
「在宅介護をして損をする」、そんな日本の社会保障制度の見直しが今求められていると、筆者は感じています。
【参考】
「ヤングケアラーの実態に関する調査研究 報告書(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/04/koukai_190426_14.pdf)」三菱UFJリサーチ&コンサルティング
「家族介護者支援に関する諸外国の施策と社会全体で 要介護者とその家族を支える方策に関する研究事業(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2020/04/koukai_200424_7.pdf)」三菱UFJリサーチ&コンサルティング
「介護手当に、介護休暇も…日本も見習いたい“ケアラー先進国(https://news.yahoo.co.jp/articles/5a19bbaf8fccc2374cf1026fefbeaf0237ec74bd?page=2)」女性自身 Yahoo!ニュース
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