震災時「5000円の弁当」で儲けた店が3カ月で閉店した理由
LIMO / 2020年11月30日 11時0分
震災時「5000円の弁当」で儲けた店が3カ月で閉店した理由
小さな会社・自治体の「SDGs」活用法
新型コロナウイルス感染症は、未だに終息の兆しが見えないどころか、日本でも感染者数や重症化数が増えている状況です。また、日本は自然災害の多い国でもあります。地震・台風・水害・土砂災害・火山噴火などに幾度となく見舞われ、今後もこのような災害が発生するリスクが高いとされています。中小企業や自治体のトップは、有事の際のリスクマネジメント戦略を定め、全体共有を徹底しておく必要があります。ダメージを受けてからでは、動きが停滞してしまいかねません。
書籍『儲かるSDGs』の著者で、コンサルタントとして阪神大震災や東日本大震災の被災企業・自治体とも数多く仕事をしてきた三科公孝さんは、「コロナ禍を乗り越える方法は、震災復興からも大いに学ぶところがあります」と話します。
この記事では、同書をもとに、三科さんに具体的な事例を挙げてもらいつつ、「リスクマネジメントに強い組織づくり」を解説してもらいました。
「人が困る稼ぎ方」は死んでもやってはいけない
奇しくも私は、阪神淡路大震災や東日本大震災、2014年の木曽・御嶽山(おんたけさん)噴火といった危機に直面したクライアントとお仕事をさせていただく機会がありました。新型コロナウイルスの流行は、それらとも異なる文字通り未曾有の事態ではありますが、2020年以降の日本社会にも、過去からの学びが通用する要素は数多くあると考えています。
まず、当然の話ではありますが、強くお伝えしたいのは、自分たち以上にコロナ禍に苦しむ方々の、足元を見るような商売をしてはいけないということです。
阪神淡路大震災が起きた1995年、船井総合研究所に勤めていた私は、震災の直前に兵庫県神戸市の中心街・三宮に開業して被災してしまったカフェのコンサルティングを担当することになりました。
まだ駆け出しだった私は、どうにか難を逃れた店主ご夫婦の家に足を運び、今後の戦略について話を重ねました。1つしかないお店が被災したので、打ち合わせ場所もご自宅しかなかったのです。JR芦屋駅から徒歩5分のはずのお宅の近くは、潰れた木造家屋が並び、焼け野原のようになっていました。ある日、そんなご自宅で、奥様が教えてくださったのが、「1個5000円の弁当」のお話です。
その弁当を売っていたのは、あるお肉屋さんでした。店は芦屋や三宮からは離れており、地震の被害が少なかったようで、本来は1個400~500円くらいで売っていただろう弁当を、震災のダメージが大きい場所に出向き、1個5000円で売っているというのです。
芦屋については、「関西でも有数の高級住宅街」というイメージをお持ちの方もおられると思いますが、当然ながらごく普通の住宅も多く、資産家だけが住んでいる地域ではありません。ただ、その値段でも弁当は次々に売れたそうです。
しかし、それから3カ月ほど経ったとき、奥様がそのお肉屋さんが閉店したと教えてくれました。芦屋の人々は「あんな店、地元だったら絶対に買わない!」と憤っていたそうですが、そのお肉屋さんは地元近辺でも5000円で弁当を売っていたらしく、実際に地域の人たちに相手にされなくなったというのです。
混乱期にこそ、まっとうに
それとは正反対に、混乱期にまっとうな行動を取ったのが、宮城県に本社を構え、2020年で創業100周年を迎えたお茶の井ヶ田(いげた)株式会社(以下「井ヶ田」)です。
井ヶ田は和風スイーツの販売や食事の提供をする「喜久水庵(きくすいあん)」という店舗を展開しています。1998年に発売された抹茶生クリーム大福「喜久福」は人気を博しており、お笑いコンビ「サンドウィッチマン」のお二人も大好きで、「喜久福親善大使」を務めるほど愛されている商品です。
2000年代の井ヶ田は、喜久福の人気を受けて拡大戦略を取っており、2006年ごろから、私も店舗の売上アップのコンサルティングをさせていただくご縁を得ました。2010年には出店数が50店舗を突破し、若い才能がどんどん抜擢されて、20代の若い店長のみなさんがそれぞれの店舗を運営していました。
そして迎えた2011年3月11日、東日本大震災が発生。
若き店長たちは自主判断での対応を迫られました。通信会社では電話やメールが集中し、回線はパンク。連絡手段が断たれた状況が地震発生以降続いていました。その状態で、彼らはどんな判断をしたのでしょうか。
自らの判断で適切に動いた店長たち
被災し、その上どこにも連絡がつかない。
本部の社員・スタッフたちも総出でフォローに回りますが、当時50店舗を超える全店舗を回れる状態にはありませんでした。本部と工場の状況把握などの対応でフル回転です。本部スタッフから各店舗へも電話・メールはつながらず、地震と津波の影響もあり、車を使った移動もままなりません。
そんな状況下で、店長たちは自主判断でお客様と従業員を避難させます。津波に呑まれた喜久水庵・多賀城本店の店長は、すぐ近くにあるイオン多賀城店の屋上から、海を指して何かを叫ぶ方に気づいて津波を察知し、お客さまを連れて歩道橋の上に避難します。店舗は波に呑まれましたが、人的被害を免れました。
その後、店舗が無事だった喜久水庵の店長の多くは、お店に残る要冷蔵のお菓子を避難所に寄付しました。誰の指示も受けていない状態で「電気が止まった状態で、明日になれば廃棄に回さざるを得ないお菓子も、いま食べていただければ被災者のお役に立てる」と考えたのです。
お茶の井ヶ田の喜久福は、現在は地元のみならず、宮城をはじめ東北でも人気のお土産物となっています。多くのファンに支えられ、そこまでの人気商品になった背景には、美味しさはもちろんですが、震災時の喜久水庵で働くみなさんの行動・機知もあったといえるでしょう。
トップの「普段の言葉」こそ混乱期の力となる
このように、井ヶ田が震災を経てより広く知られるきっかけとなったのは、何十とある店舗の、若き店長たちの自主判断による行動でした。なぜ、そんな行動ができたのか知りたいと思った私が、店長さんたちにお話を伺ったところ、その理由は、日ごろからの経営者の「言葉」にありました。
当時の第3代社長・今野克二氏は、つねづね「有事の際に優先すべきは人命であり、お客さまの命、スタッフの命が最優先である」と考え、それを日ごろからスタッフにも繰り返し伝えていたそうです。店長たちは言うまでもなく仕事熱心です。店舗のことは気になったものの、「それでも『人命が第一だ』と店には戻らなかった」と教えてくれた方もいました。
電話やメールはもちろん、いまのようにLINEなどのチャットツールもないような状況で、「経営者が日常的に発信していたメッセージ」が、店長のみなさんの素晴らしい判断と行動を生んだわけです。
現在のように、チャットツールが充実している状況でも、緊急時は通信そのものができない可能性もあります。コロナ禍の現在はすでに有事とも言えますが、これからまたさらに、異なる問題が起こらないとも限りません。そんな状況下で、トップがこのような強いメッセージを発し、それを組織全体で共有できる体制づくりは非常に重要になるはずです。
■ 三科 公孝(みしな・ひろたか)
株式会社ノウハウバンク 代表取締役。1969年山梨県生まれ。立命館大学文学部哲学科を卒業後、株式会社船井総合研究所を経て2000年より現職。中小企業の集客・売上アップ・販路開拓などの企業活性化プロジェクト、地域資源活用によるヒット商品開発や観光集客・PRなどの地方創生プロジェクト、研修・講演活動などを行う。企業・官公庁・公的団体など組織形態を問わず、実践的で確実に売上・集客につなげるコンサルティング手法に定評があり、特に近年は全国でSDGsに関する講演・セミナーを行っている。
(https://www.amazon.co.jp/gp/product/4295404705/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4295404705&linkCode=as2&tag=cmpubliscojp-22&linkId=cd09690f45a421cbcec616979d18486e)
三科氏の著書:
『儲かるSDGs ――危機を乗り越えるための経営戦略(https://amzn.to/38pAGOQ)』
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