「お金の心配」をしながら亡くなる患者も…コロナ禍で浮き彫りになった、アメリカの「過剰な医療行為」と迫られる変革
LIMO / 2020年12月5日 20時45分
「お金の心配」をしながら亡くなる患者も…コロナ禍で浮き彫りになった、アメリカの「過剰な医療行為」と迫られる変革
コロナ禍では医療機関に足を運ぶことをなるべく避けようとする人が増えています。定期的な検査や治療も先延ばしにしがちです。それによって大きな病気を見逃してしまい命取りになってしまうケースもあるようです。しかし逆に、特にアメリカでは、「今まで過剰だった医療行為を見直すきっかけにもなった」と専門家は指摘します。
またコロナパンデミックは、「高額で複雑」と悪名高いアメリカの医療機関を経営困難に追い込み、様々な変革を迫ることにもなっているようです。
医療機関の言い値に逆らえない患者
筆者は6月に定期検査を行った際、ある血液検査をすすめられました。数値をみるだけの検査で、特に不調を感じていたわけでもなかったのですが、「しばらく検査していないから」という医師のすすめもあり、とりあえず検査を受けることにしました。
幸い結果は特に問題もなかったのですが、翌月、請求書をみて驚きました。2年前に同じ病院の別の施設で検査した時は45ドル(約4,700円)だったのですが今回は360ドル(約3万8,000円)だったのです。「インフレでは説明できない!」と、当然病院に抗議。消費者サービスのようなところを通して抵抗もしました。しかし悔しいですが、結局払うことになりました。
アメリカでは医療システムの複雑さによる請求間違いや納得のいかない請求はよくあることで、筆者もその度に時間とエネルギーを消耗しクタクタになりながらも、なんとか修正させてきました。
しかし今回は間違いではありませんでした。同じ病院でも「施設規模が違えば、値段も変わるのだ」と、約8倍だろうが「確認しない患者の自己責任」と鼻で笑う病院とそれを許す国の医療制度にはつくづく辟易します。
過剰な医療行為と「施設使用料」
そもそも、「この検査は必要だったのか」と考えました。以前からアメリカでは高い医療費だけではなく、必要のない検査やこじつけ診断による治療、手術、薬の処方などの過剰ともいえる医療行為が問題視されています。
ある調べによれば、過剰な医療行為によりアメリカの患者たちが支払う無駄な医療費は年間約2,000億ドル(約19億1,500万円)だそうです。また、過剰な医療行為の医療ミスで障害を負うことになったり、死亡する人が年間約3万人もいるというのです(※1)(https://money.cnn.com/2017/05/20/news/economy/medical-tests/index.html)。
特に最近は無駄な医療行為だけではなく、「ファシリティフィー」という、医療そのものではない管理費まで請求書に含まれているという話をよく聞きます。筆者の場合も、前回は診察室と採血ルームだけのこじんまりした施設でしたが、今回はERもある大きめな施設で検査を受けたことで、8倍も値上がりしたのです。
要するに、ある程度の規模の検査施設にはそれなりの管理費がかかるから、と場所代(施設使用料)が取られるということです。「次回からは近所のカフェか我が家にきて採血してくれ」と言ってやろうかといつまでも根に持ち、どこかの大統領のように往生際の悪い筆者です。
医療機関の変革が迫られる
話がそれましたが、実はコロナ禍で医療機関は過剰医療行為だけではなく、不透明で高額な費用などの「医療機関の経営方針」の変革が迫られているようです。
コロナ禍では多くの人が医療機関を避けるようになりました。感染を恐れていることはもちろんですが、失業し医療保険も失ったという人が多いのはアメリカならではの問題です。
“British Medical Journal”に掲載した医学研究をまとめた論文の中(※2)(https://www.bmj.com/content/370/bmj.m2752)で、オーストラリアのボンド大学のレイ・モイニハン教授らは、「アメリカでは、医療機関に足を運ぶ人が半分になった」と述べています。それにより、心臓病など深刻な症状がありながらも見逃してしまい、亡くなったケースも少なくないといいます。
その一方で、定期検査や医師とのアポイントメントを延期したことで、過剰な医療行為による危害を免れた患者もいるようです。また患者自身が、今までの検査や診断が過剰だったのでは?と見直すきっかけにもなっているようだということです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最前線で働く医療従事者が、寝る間もないほどCOVID-19感染患者の手当てで大忙しの一方で、こうした一般患者の病院離れが顕著となり、最も儲かる手術や検査が半減してしまっているようです。これにより、多くの医療機関は経営困難に陥っているといわれています。また、コロナ禍で広まった「診察のオンライン化」が定着することで、患者の選択肢が広がり競争も激しくなっているようです。
フォーチュン誌では、同社が開催した今後の医療機関を議題にしたバーチャル会議の意見をまとめています。「コロナ禍でのこうした医療機関の困難は、今までの古い経営方針を改め、透明性の向上や医療費の軽減という消費者(患者)の要望に耳を傾け、より多くの人々が必要とする医療を提供していくことに集中するよう方向づけることになった」との意見があります(※3)(https://fortune.com/2020/07/09/coronavirus-hospitals-changes-impact-medicine-health-care-covid-19/)。
患者への治療や費用の透明性の向上、経済的な負担の軽減は個人的にはまだ実感していませんが、今後そうなることを願うところです。
あるアメリカの看護師が、毎日COVID-19で亡くなる患者を看取るなかで「医療費支払いの心配をしながら亡くなる人をみるのが、なにより辛かった」と話しているのをどこかで読みました。つくづく日本の医療保険制度は恵まれていると思う今日この頃です。
参考
(※1)CNN BUSINESS“Needless medical tests not only cost $200 billion, they can do harm”(https://money.cnn.com/2017/05/20/news/economy/medical-tests/index.html)
(※2)Ray Moynihan, assistant professor, Minna Johansson, director, Alies Maybee, patient partner, Eddy Lang, professor, France Légaré, Canada research chair in shared decision making and knowledge translation “Recovering health systems can prioritise genuine need” the bmj(https://www.bmj.com/content/370/bmj.m2752)
(※3)FORTUNE “4 ways the coronavirus pandemic will change hospitals”(https://fortune.com/2020/07/09/coronavirus-hospitals-changes-impact-medicine-health-care-covid-19/)
外部リンク
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