コロナのおかげでホエールウォッチングができる!? 海外旅行者が消えたことの”恩恵”とは
LIMO / 2020年12月20日 11時0分
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コロナのおかげでホエールウォッチングができる!? 海外旅行者が消えたことの”恩恵”とは
ニュージーランド観光業の今
「クジラなんて見たことあるんじゃない? ツアーがどこかから出てたよね?」
ニュージーランドから一時帰国して、日本の友人とおしゃべりしていると、ニュージーランドについてのこんな質問に遭遇することがあります。
「いやいや、ないのよ。ツアー料金が結構高くてね……」と筆者は正直に答えます。
ホエールウォッチングをはじめとするニュージーランドのアクティビティは、海外でもよく知られています。しかし、海外からの旅行客が体験し、感動を思い出に帰国するこうしたアクティビティは、ニュージーランドの住人にとっては「高嶺の花」なのです。
海外旅行者頼みの観光業界はピンチ
ニュージーランド国内の観光業者はかなり強気のビジネスを展開しているといってもいいでしょう。ツアーにしても、アクティビティにしても、料金設定は海外からの旅行者向けといって間違いありません。
しかし、新型コロナウイルスのパンデミックにはかないませんでした。コロナ対策である国境封鎖で、海外からの旅行者が入国できない現在、こうした海外からの旅行者頼みだった同業界は大打撃を受けています。
12月はニュージーランドでは夏の始まりとされています。学校は中旬までに終業となり、クリスマスがやってきて、夏休みに突入。つまり観光のベストシーズンを迎えます。しかし、今年はコロナの影響で、例年と事情はかなり違います。3月20日に始まった国境封鎖は約9ヵ月経った今も継続中だからです。
コロナ以前、2019年3月までの1年間に、GDPに占める海外からの旅行者の国内消費額の割合は約4.4%でした。政府はこれを国にとって重要な財源として捉えています。しかし、無期限で続いている国境封鎖で海外旅行者からの収入が途絶えた今、観光業者の頼みの綱は国内在住者のほかいないのです。
観光局も国内旅行者向けにキャンペーンを展開中
政府が運営するコロナ情報専門のウェブサイト内には、観光に触れているページがあります。観光についてのトップページにいくと、「シー・ヨア・オウン・バックヤード(自分の家の裏庭を覗いてみて)」という言葉に迎えられ、ニュージーランド政府観光局のウェブサイトが紹介されています。
観光局は通常、「100%ピュア・ニュージーランド」を標語に、海外からのビジター向けに観光プロモ―ションを行う組織です。しかし、現在のターゲットは国内旅行者。
在住者向けのキャッチフレーズは「ドゥ・サムシング・ニュー(何か新しいことをやろう)」で、国内旅行を計画する人に「バケット・リスト」、つまり「死ぬまでにやっておきたいこと」と称し、数々の旅行プランを紹介しています。
アートから自然までの多岐にわたる分野を網羅し、観光スポットやそれらを見に出かける際に参考にしたい旅行プランが並んでいます。
地方にある32の観光局も各々、国内在住者向けに地元を売り込んでいます。たとえば、筆者が住む北島西岸部に位置するタラナキ地方のキャッチフレーズは「ジャスト・アラウンド・ザ・コーナー(角を曲がったところ:すぐそこに)」。
標高2518メートルのタラナキ山からタスマン海に面する黒砂のビーチまで車で1時間もかからずに移動でき、山と海の魅力を同日のうちに楽しめることを売り込んでいます。
また北島中央部にあたるルアペフ地方では、標高の高い山脈が連なるルアペフから、先住民マオリの文化が感じられ、温泉がわき出るロトルアを経て東海岸のギズボーンに至るまでの町々が協働して、居住者に旅を売り込もうとしています。それが「ゲット・アウト・モア・NZ」(もっと出かけようニュージーランド)キャンペーンです。
ホエールウォッチングが子ども無料に! 目白押しのディスカウント
観光局のこうした動きに呼応し、ツアー催行会社など個々のビジネスも集客に熱心です。中でも、日頃は高いといわれている料金のディスカウントを行うところが多いようです。
ロックダウン明けの5~6月には、ジップラインが10NZドル(約740円)、国立公園内の山々を見わたせる絶好のスポットに位置し、1930年代のクラシックで贅沢な雰囲気で知られるホテルが1泊70NZドル(約5200円)、キャンピングカーのレンタルが1泊29NZドル(約2100円)といった破格の値段の商品も飛び出しました。
自宅とその周辺だけに行動範囲が限られたロックダウンに疲れた人々が、久々に「お!」と明るい気持ちになれるニュースでした。
筆者が日本の友人に料金が高いと話していたホエールウォッチングツアーも同様。内外で有名な、南島の東海岸の町カイコウラから出ているものです。
正規料金は大人1人120NZドル(約8900円)か、150NZドル(約1万1000円)で、子ども料金は均一で60NZドル(約4400円)。筆者の家族、大人2人と子ども1人で参加するとしたら、合計300NZドル(約2万2000円)もしくは360NZドル(約2万7000円)にもなる計算です。
しかし、今、提供されているディスカウントを利用すれば、大人1人96 NZドル(約7100円)、子どもは無料。筆者宅なら192NZドル(約1万4000円))で済みます。これなら「参加してみようかな?」という気になろうというものです。
海外旅行者と国内旅行者の旅費の差は年間9550億円以上
クリスマス休暇を目前に、家族のもとに戻ったり、旅に出たりするために、実際多くの人が航空機や宿泊施設などに予約を入れています。
ただ、この程度では海外旅行客が来られないギャップを埋めることはできないと、政府観光局のスティーブン・イングランド・ホール最高責任者は指摘します。海外旅行者が国内で使う旅費と在住者の旅費との差は年間130億NZドル(約 9550 億円)にも及ぶというのです。
一方、企業・技術革新・雇用省(MBIE)の国内支出データによると、在住者は国内旅行をしたり、これまでにやったことのないアクティビティに参加したりすることで、ニュージーランドの景気回復に貢献していることが確認されました。
たとえば7月にあった2週間にわたる学校の休み中、国内全地方で訪問者の増加が確認され、中には前年同月比20~50%もアップした地方もあったそうです。
また政府観光局も、観光業の景気回復に関するシナリオ・モデリングを用いた分析で上向きの傾向があることを見出しています。来年1月には国民による消費が前年比で最大18%以上を見込める可能性もあるそうです。
コロナ以前のことを考えると、ここまで国内を旅しやすいのは、国境封鎖が解除され、海外旅行客が戻ってくるまででしょう。まだ気づいていないニュージーランドの魅力を探しに行く時間はまだもうちょっとありそうです。
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