勤続30年の銀行員が見た「金ピカ社長の失敗と復活」
LIMO / 2021年1月3日 19時15分
勤続30年の銀行員が見た「金ピカ社長の失敗と復活」
人生の逆境から立ち上がれる人とは?
2021年が明けました。いつもなら晴れやかな気分で迎える新年ですが、今年は新型コロナの収束が見えない中、やり場のない不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。
かく言う私は勤続30年の現役銀行員です。これまで仕事を通して、それこそ数え切れないくらいさまざまな人を見てきました。そうした人の中には、なぜかお金のほうから寄ってくる人(https://limo.media/articles/-/15134)と、反対にお金が逃げていってしまう人(https://limo.media/articles/-/19508)がいることは、以前の記事で紹介してきました。
一方で、お金も人付き合いも上手くいっていた人生なのに、一瞬の気の緩みや油断で、道をそれたり、転んでしまったりすることもあります。ただ、大事なのはその後にどうやって立ち上がり、軌道修正していくかということなのかもしれません。今回はそんなお話です。
「全身金ピカ」社長との出会い
これは、私が若手行員の頃に出会ったお客様のお話です。ここでは、この方をAさんとしましょう。
Aさんはもともと板前で、経験を積みながら資金を貯め、お馴染みさんとの人脈を築いたうえで独立したそうです。私が銀行の融資担当として出会った頃には、会社は複数の飲食店を経営するまでに成長し、Aさんは現場からは離れて経営に専念していました。そんなAさんの第一印象は「全身金ピカ」でした。
「全身金ピカ」とは文字通り、私が出会った当時のAさんの格好は、上から下まで全身金装飾だったのです。
腕には金のチェーンブレスレット、太さは山梨県名物「ほうとう」くらい
時計も高級ブランドの金とダイヤ装飾
ネックレスも金、太さはやはり「ほうとう」並
小脇にはブランドのセカンドバッグ
会うたびに、バッグは違うブランドのもの、金のアクセサリーもどんどん増えていきました。
個人の服装や趣味を他人がとやかく言うべきではありませんし、ましてやお客様なので黙っていましたが、内心では「やりすぎだなぁ…」と感じていたものです。
「金ピカ」の理由とは?
そんなある日、Aさんとの会話の中で、なぜ全身金ピカに着飾るのか、その理由が明らかになりました。
Aさんいわく「オレが金ピカになれば、それを見た若い連中が、自分も頑張れば社長みたいにお金持ちになれるかも?と希望が持てるからだよ」と。
もしかしたら、それがすべてではなく、単に自分が着飾りたいだけだったかもしれません。しかしその頃は私も若く、素直に感動してしまいました。なぜなら、その頃の私も「若い連中」の一人だったからです。
「金ピカ」が増えるほど会社は傾いていった
一方で、以前からAさんを知る支店長からは、独立当時は自分も板前として調理場に立ち、銀行にも仕事着のまま来店していたと聞いていたので、何とも言えない複雑な気持ちも感じていました。
その後も担当として定期的にお会いしましたが、Aさんの「金ピカ」は会うたびに増えていきます。そして、それと反比例するように会社の業績は少しずつ傾いていき、ついには深刻な状態に陥っていったのです。
最終的には、それまでの蓄えと店舗の売却で何とか最悪の事態は回避できたものの、このままではいけないと、Aさんも再び板前として現場に戻ることになりました。すると、今度は会うたびにアクセサリーは減っていき、ついには独立当時のように仕事着で銀行に来店されるようになっていきました。
会社の復活を確信した支店長
そんなAさんは私に対し、少し恥ずかしそうに「もう、若い衆の見本にはなれないなぁ」なんて話していましたが、その様子を見ていた支店長は、私にこう言いました。
「初めて銀行に来た頃と同じ板前の格好に戻った。いいか加藤、あの会社はきっと立ち直るぞ」
当時の私には、支店長の言葉が何を意味しているのかはわかりませんでしたが、本当にその通りになったのです。
Aさんが現場に戻ってから、会社の業績は徐々に持ち直していき、規模を縮小したときに去っていった従業員もAさんの元に戻ってきました。そして、以前の隆盛にはほど遠いですが、着実に会社は回復していったのです。
今、振り返ると、Aさんが復活する原動力になったのは、次のようなことではないかと思います。
失敗しても腐らずに、素直に反省し改善できる柔軟性
解雇した従業員に頭を下げられる真摯な姿勢
自分のダメなところを認める勇気
「もう若い衆の見本にはなれない」と恥ずかしそうに笑っていたAさんですが、私たちはAさんの失敗に向き合う姿勢にこそ学ぶことがあるのではないでしょうか。
おわりに
人は誰もが苦境や失敗を経験しますが、それを悔やむだけでは何も得られません。そこからどう軌道修正するか、ここが大事です。
一度は道を逸れて転びそうになっても、人は立ち上がり、また歩くことができる…それを目の前で見ることができた貴重な経験でした。年を重ねた今、自分も少しは人間観察できるようになったと思えるのは、この経験があったからです。
昨年1年間がどんな年だったかは人それぞれですが、なかには「こんなはずじゃなかった」と苦々しい思いを抱えている方もいるかもしれません。新しい年に向けて自分自身を改めて振り返ってみる際に、何か少しでも参考になることがあれば幸いです。
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