国債、円が暴落したとき、日本政府に起きる大逆転
LIMO / 2021年1月4日 19時5分
国債、円が暴落したとき、日本政府に起きる大逆転
財政赤字が拡大していますが、国債が暴落しても日本政府が破綻することはなさそうです。破綻必至の瞬間に何が起きるか、筆者(塚崎公義)なりにシミュレーションしてみました。
日本国債の格下げが暴落の引き金に
近未来の東京金融市場の話です。日本政府は巨額の借金を抱えていましたが、投資家たちが日本国債を買ってくれるので、日本政府の国債発行には特に問題はありませんでした。日本人投資家にとって、為替リスクのない資産の中で一番安全なのが日本国債だったので、彼らは「消去法的に」日本国債を買っていたのです。
しかし、平和は永遠には続きませんでした。202X年X月X日、日本国債の格付が投機的に引き下げられたのです。機関投資家の中には投機的格付の債券に投資しないと決めているところも多いので、巨額の国債が自動的に売りに出されました。
国債の価格は市場の需給で決まりますから、投資家たちが国債の売り注文を出せば、国債価格は暴落します。
最初の売りは、「各社の担当者が社内規則を守った」ことによる売りでしたが、「そうした売りが出ると値下がりするだろうから、先に売っておこう」という思惑による売りも大量に出ました。
国債が暴落しても、持っている人が損をするだけで、発行した日本政府が損をするわけではありません。しかし、新しい国債を発行しても誰も買ってくれない事態に陥れば、問題は深刻です。
日本政府は財政が赤字なので新しい国債を発行しなければ歳出が行えませんし、既発の国債も満期に償還できなくなってしまうでしょう。日銀に紙幣を印刷させて歳出や償還費用を賄うことは、理論的には可能ですが、それは禁じ手です。
そこで人々は、「新発国債が発行できなくなって日本政府は破産するだろうから、既発国債は紙くずになるだろう」と考えるようになり、そうした売り注文も増えてきました。まさに、売りが売りを呼び、暴落が止まらなくなったのです。
日本政府は必死に国債を買い支えましたが、額面100円の国債が30円にまで値下がりしてしまったのです。
財政破綻の思惑から円も暴落
日本政府が破産すると、その子会社である日本銀行の発行している「日本銀行券」も紙くず同様になるかもしれません。
人々はそう考えて、紙幣を手放そうとしました。スーパーへ行ってリンゴやミカンを買う人も増えましたが、価格が高騰する前に売り切れてしまいました。インフレになるには、いま少し時間が必要だったのです。
一方、金融市場ではドルの値段が急騰しました。こちらは価格が需給を敏感に反映して瞬時に変動するので、実物よりも価格高騰が素早く起きるのです。
そこで、円が暴落(外貨が高騰)しました。日本政府は必死に介入しましたが、1ドル100円だったドルが短時間のうちに300円にまで値上がり(円は値下がり)してしまったのです。
人々は深い溜息をついた
金融市場というところは、売りが売りを呼ぶと一層大きな売り注文が出てくるところです。「日本政府は倒産を免れることができない」と人々が確信すると、日本国債と日本円にますます大量の売り注文が殺到しました。
投資家たちは、深い溜息をつきました。自分が被った巨額の損失への溜息と共に、かつて「日本経済は世界一だ」とはしゃいでいたバブル期を思い出しながら、日本という国の成れの果てを嘆いていたのです。
国債と円を空売りしている投機家だけは、値下がりを続けている国債と円の相場をみつめながら、笑いが止まらないといった表情を隠そうと必死でした。「この世の終わり」に笑顔は不似合いだったからです。
しかし、人々が本当に深い溜息をつくのは、その後の日本政府の記者会見を見た時だったのです。
まさかの勝利宣言
日本政府の記者会見を世界中が固唾を飲みながら見つめていました。会見は、財務大臣によるものでした。破産を宣言するのかIMFの軍門に下るのか、内容は不明でしたが、敗北宣言であることだけは、誰も疑っていませんでした。
しかし、冒頭の一言は意表を突いたものでした。「皆さん、嵐は過ぎ去りました。我々は勝利しました」というのです。
「日本政府は、1兆ドルを超える外貨準備を持っていました。過去の為替介入の際に、円高ドル安を阻止するために買ったものです。平均単価にすると1ドル100円程度でしょう。それを本日、1ドル300円で売ることができました。それにより、現金300兆円を得ることができました」。
「日本政府は、額面1000兆円の国債を発行しています。それを本日、額面の3割の価格で買うことができたので、ドルを売って得た300兆円を使って買いました。結果として1000兆円の発行済国債を、簿価100兆円の外貨を使って買い戻すことができたのです」。
「いまや日本政府は、発行済の国債をほとんど買い戻し終えたので、実質的に無借金です。完全に健全な政府です。格付も戻るはずですし、国債価格も円相場も戻るでしょう。あとは、残骸の整理だけです」と言うのです。
投資家は死屍累々
投資家は、大損を被りました。特に国債を空売りした投機家は悲惨でした。市場に出回っている国債はほとんど残っていないので、国債を買い戻そうにも何円で買い戻せるか見当もつかなかったのです。最悪の場合には、財務省に頭を下げて額面より高い値段で売ってもらう必要があるかもしれません。
投資や投機は自己責任ですから、投資家や投機家の倒産が続出しても、それは政府の知ったことではありません。しかし、何事にも例外はあります。
多くの銀行が倒産すると金融システムが崩壊しかねないのです。そこで政府は、銀行の倒産を防ぐ手立てを考えました。それが財務大臣の言う「残骸の整理」です。
政府は銀行から額面100円の国債を受け取って代金30円を支払いましたが、それに続いて現金70円を渡して銀行の株券を受け取りました。銀行に増資をさせてそれを政府が引き受けることによって、売却損によって減ってしまった銀行の自己資本70円を穴埋めするためです。
発行された株券は特殊なもので、所有者は株主総会での議決権は持っておらず、銀行が将来利益を稼いだ時は70円で買い戻すという条件の付いたものでした。「無議決権優先株」という名前だそうです。
こうして、国債価格も円相場も何事もなかったように元どおりになり、銀行も元どおりの健全性を取り戻したため、金融危機も起こりませんでした。一部の金融関係者を除き、人々は何事もなかったように日常生活を続けたのでした。
経済評論家からは、「日本政府の借金が円建てで良かった。借金がドル建てだったら、ドル高円安になったことで破産が確定していたことだろう」という声が聞かれました。外国通貨建ての借金が通貨危機によって返済できなくなって破産した国や企業は過去に多数ありましたからね。
本稿は、以上です。なお、本稿はシミュレーションであって筆者の予想ではありません。また、本稿の内容は筆者の個人的な考えであり、筆者の属する組織その他の考えではありません。ご了承ください。
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