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最高級宮崎牛を市価の半額で。”おうち和牛”は定着するか

LIMO / 2021年2月4日 19時5分

最高級宮崎牛を市価の半額で。”おうち和牛”は定着するか

最高級宮崎牛を市価の半額で。”おうち和牛”は定着するか

「あんずお肉の工場直売所」の挑戦

新型コロナウイルスの影響で、飲食業界は大きな打撃を受け続けています。それはメディアでたびたび報道される店舗だけでなく、飲食店に食品を販売する卸売業者や生産者も同様。コロナとの戦いはまだまだ長引くとの見方から、飲食業界全体が大きな転換を強いられていると言っても過言ではありません。

そんな中、食肉加工卸業や外食店舗経営を行うアトム株式会社(本社:福岡県)は1月末、福岡を中心に展開する「あんずお肉の工場直売所」を東京・勝どきに都内初出店。なぜコロナ禍の今、都内に新たな直売所をオープンできるのか、そして窮地に陥っている畜産業界の現状について同社代表取締役の花田利喜さんに詳しく話を伺いました。

海外輸出と高級店頼みになっていた和牛

アトムはとんかつ店やステーキ店を各地に展開するのみならず、食肉卸や食肉販売、食品加工などさまざまな事業を行っています。

中でも食肉専門店として高級和牛の宮崎牛を販売する「あんずお肉の工場直売所」は、昨年12月に那珂川店(福岡県)、フランチャイズ店の御殿場店(静岡県)と鶴見店(神奈川県)を、そして今年1月末には勝どき店(東京都)をオープンさせるなどコロナ禍でも好調な営業ぶりを見せているそう。

しかし、和牛の需要は新型コロナウイルスの影響で激減してしまったことも事実。花田さんによると、和牛はこれまで海外輸出とインバウンド需要による高級な鉄板焼き屋やすき焼き店、しゃぶしゃぶ店などが主なマーケットでした。それがコロナの影響で輸出は激減。さらに飲食店での消費が急激に冷え込んだことで、昨年は危機的状況に陥ったといいます。

「2000年代にBSE問題があったときも、宮崎県内では30%もの業者が廃業したほど厳しい状況でした。しかし今回のコロナ禍はそれ以上に厳しい。もともと畜産業界では飼育農家の高齢化が進んで後継者不足が問題となっていましたが、それがコロナと重なったことで『これ以上続ける体力がない』と廃業している小さな生産者は少なくないと思います」(花田さん)

花田さんによると、和牛は子牛を1頭80万円ほどで買って飼育を始め、そこから食肉として市場に出せるようになるまで約2年間エサを食べさせ続ける必要があるそう。特に危機的状況に陥っているのは、ホテルのレストランや高級店など特定の取引先に特化して生産を行っていた業者だと言います。

コロナの影響で相場が下がっている

こうした状況を背景に、農林水産省は昨春から卸売り業者が小売り業者などに和牛を販売した場合、1キロ当たり1000円の奨励金を交付する補助をスタート。また、和牛の販売業者が販売促進のためにイベントを行う際には費用の50%を政府が負担する取り組みも始まり、全国各地で和牛の需要を促すイベントが数多く行われてきました。

こうした支援によって、学校給食に和牛が提供されたり、スーパーの棚にお手頃価格で和牛が並んだりといった流れがあります。

「今はコロナの影響で相場も通常の2割ほど下がっているので、和牛を手軽に食べられるタイミングです。今年の6月に海外輸出が解禁される見通しがあると言われているので、その頃には政府の補助もなくなり、相場も元に戻るかもしれません」(花田さん)

同社は海外事業所も展開し、和牛を海外向けに販売してきましたが、コロナの影響で事業方針を転換。特にアメリカにおいては現地のお店に卸すのではなく、スーパーでの販売にシフトしました。和牛の人気はアメリカでもとても高く、ニューヨークでの小売販売事業はコロナ禍においても大幅に売上を伸ばしたそうです。

あんずお肉の工場直売所 東京・勝どき店

上述の「あんずお肉の工場直売所」は、一般の人が最上級A5ランクの宮崎牛を市場価格の約半額で購入できると言います。その理由は、スーパーにはできない牛の一頭買いをしている強みに加え、アメリカ輸出分と日本での販売分の差別化が図れていること。

「アメリカではバラや肩ロースは売れず、売れるのはステーキ部位がメイン。アメリカ輸出で残った分を日本の直売所で売るなど、適材適所の販売ができるので安く提供できています」(花田さん)

一般家庭での和牛需要はまだまだ伸びる

最後に花田さんは「これからは外食産業1本だけでやっていくのはあまりにもリスクが高くなってしまった」と話していました。外食産業がコロナ前のような状態に100%戻ることは難しく、戻っても70%ほどではないかと予想しているといいます。

「コロナの影響で、自宅でおいしいものを食べる流れが定着しました。これはコロナが収束に向かっても継続されるでしょう。今回のコロナを契機として和牛の一般家庭での需要はまだまだ伸びると見越しています。外食よりもお手頃な価格で和牛を家で食べる動きがもっと盛り上がれば、消費者にとっても生産者にとってもメリットがあると思います」(花田さん)

実際、同社では2021年中に7店舗もの「あんずお肉の工場直売所」の出店が決まっているそう。海外事業を手掛ける強みを活かし、日本における和牛のおうち需要を盛り上げる動きを活発化させていくと花田さんは意気込みます。

コロナ禍をきっかけにお手頃価格で食べる機会が増えた和牛。花田さんが期待を込めるように、今後、和牛の一般家庭消費は定着するのでしょうか。

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