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不動産投資会社にカモられる「サラリーマン大家」の末路

LIMO / 2021年2月14日 19時5分

不動産投資会社にカモられる「サラリーマン大家」の末路

不動産投資会社にカモられる「サラリーマン大家」の末路

 足元は「景気の底が見えない」という状況になっています。2020年10月の時点で完全失業率は3.0%、有効求人倍率は1.04%です。2009年のリーマンショック時の完全失業率は5.5%、有効求人倍率は0.42%。これだけ大変な社会状況になっている現在ですが、数字で単純に比べてみると、それほどひどい状況でもないように思えます。

 ただ、いまの数字はまだ「隠れ数字」が表に出ていないだけともいわれ、本来はもっとひどい社会状況だという指摘もあります。実際、コロナ禍の影響が出るのは、2021年の春以降ともいわれているのです。そんな中でも、飲食業・ホテル業と並んでコロナ禍の影響を最も受けているとされる不動産業の先行きは不透明です。

 2000年代初頭から「サラリーマン大家」という言葉がメディアなどで取り上げられ、いまに至るまで、「サラリーマンの副業としての大家」は、ある種の憧れの存在となってきました。しかし、いま、「サラリーマン大家」という生き方は曲がり角にさしかかっています。

 この記事では、拙著『不動産投資の曲がり角で、どうする?』をもとに、コロナ禍で苦境に立たされている「サラリーマン大家」の状況について、じっくり解説します。

家賃滞納問題で頭を抱えるサラリーマン大家

「曲がり角」という言葉をより端的にいえば、コロナを受けて、「サラリーマン大家は成り立ちづらい」という状況になってきています。その背景について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。

 コロナ禍で緊急事態宣言が出されてから、あらゆる業種・業態で大きな影響が出ています。首都圏の不動産業界では営業自粛が続き、街中の店舗では一人で顧客対応に追われていたりします。そのため、賃貸や売買も相当な規模で取引が減っており、今後、どれだけ影響を及ぼすかは計り知れない状況です。

 不動産投資サイト・ノムコムが2020年6月に発表した「不動産投資に関する意識調査」によれば、回答者の約4割にあたる投資家が「新型コロナの影響を受けている」と答えました。理由としては、「空き室が埋まらなくなった」(約32%)、「賃借人の家賃滞納が増えた」(約29%)などが挙げられています。持っている物件のエリアや規模により、その影響を一概には語れませんが、それなりのインパクトをもたらしていることは事実でしょう。

 とくに「サラリーマン大家」の大半は物件をローンで購入していて、「入居者からの家賃」が返済の原資になっています。その入居者も、ここにきて家賃が払えなくなるケースが散見されるようになりました。賃料が安価な物件ほど家賃の滞納が増えていると聞きます。今後、こうした家賃滞納は増えていく傾向にあると思われます。

「年収が高い人」ほど狙われる不動産投資

 上場企業に勤め、高年収のXさんは、同僚から「節税対策に」と勧められ、新築の投資マンションを買い始めて複数戸を保有しています。そのすべてはローンを組んで購入し、借金の総額は約1億3000万円。年間で130万円の持ち出し金が発生していますが、「節税できるからいいだろう」とあまり気にせず、安易に考えていました。

 ところが、このコロナ禍で家賃滞納や空室リスクも起こり得ることを知り、それが月に10万円以上もあるとは思ってもいませんでした。現実にXさんは、すでに3年間で約400万円の累積赤字となっていました。所得税の還付金でその半額は回収していますが、それでも200万円の累積赤字となり、「何のための投資なのか……と後悔の念を感じている」と話しています。

 このような状態の「サラリーマン大家」は珍しくありません。質の悪い不動産投資会社の口車に乗って、あまり良くない場所で複数戸・複数棟を所有している場合、当然ながら赤字も大きく増えていくことになります。

 物件の立地条件にもよりますが、東京の都心5区(港区・中央区・千代田区・渋谷区・新宿区)を除けば、今後、不動産価値が上昇していくポテンシャルは未知数であり、これ以外の23区や横浜・川崎などの地区は、国による特区指定や都市開発といった要因頼みというのが現状なのです。

 コロナ禍がいつまで続くのか、まったくわかりませんが、東京オリンピック・パラリンピックの開催も不透明ないま、どんなマイナス事態が起こっても不思議ではありません。そんなときに「サラリーマン大家」という在り方そのものが問われるのも必然ではないでしょうか?

不動産投資会社が転売でピンハネする「三為」の問題

 サラリーマン大家の流行と破綻の背景を語る上で欠かせない点のひとつに、不誠実な不動産投資会社が転売でピンハネする構造である、「三為(さんため)」と呼ばれる問題があります。業界では、「第三者のために契約を行う転売業者」を略して、「三為業者」という呼び方をするのですが、これは「儲かるビジネススキーム」として、広く使われているのです。

「三為」専門の不動産投資会社は、「レインズ」などの不動産サイトに掲載されている物件や仕入れ専門業者から底値で買い、買った価格に少なくとも2~3割を乗せて、サラリーマンや医者など、エンドユーザーである第三者に転売するというのが基本的な仕組みです。

 一般的に不動産物件を購入した場合には、買主に所有権の移転登記をする必要がありますが、「三為」の場合には、自社の所有権移転登記を省略して、エンドユーザーに転売してしまいます。

 また、買主は通常なら登記費用や不動産取得税を払う必要がありますが、「三為」の場合は省略された取引のため、自社で登記費用や不動産取得税を払うことはありません。エンドユーザーに高値で転売すれば、ピンハネした分はまるまる儲けとなるのです。

その不動産投資会社は「三為業者」か?

 仮にあなたが不動産投資をするとします。これから取引しようと考えている不動産投資会社が「三為」なのかどうかは、ぜひとも知りたいところですが、実際のところ、素人が見極めるのは難しいものです。ただ、取引した不動産の登記簿謄本を見て、元の所有者から最後の買主に所有権移転がなされていれば、その間にいる不動産投資会社は「三為業者」であることがわかります。

「三為業者」である不動産投資会社を介して買った物件は、市況の実勢価格からはるかに乖離しているため、高値掴みをすることになります。しかも、物件の管理と賃貸借も「三為業者」によるスキームが使われていて、買った人は儲からない仕組みになっていることが多くみられます。

 つまり、「三為業者」から物件購入すれば、購入価格でピンハネされ、物件を貸し出す際に賃料などもピンハネされてしまうので、儲かるはずがないのです。不動産投資をする場合は、「業者選定」によって明暗が決まってしまうため、その業者に対する評判などは事前にきちんとチェックされたほうがいいでしょう。

カモられ続ける公務員や大手企業の会社員たち

 おそらく、「サラリーマン大家」と称する人の大半は、この「三為」スキームで不動産投資会社から物件を買っていると思われます。そして、カモにされているのは、公務員や大手企業などに勤めている高収入の会社員が大半です。

 なぜこうしたスキームに騙されてしまうのかというと、

「不動産=不労所得」
「ほったらかしで、楽できる投資」
「借入=資産」

といった、「業者トークの罠」にはまってしまっているのです。そこは「濡れ手で粟」をつかみたいという、投資家の欲望そのものが反映されているのかもしれません。

 不動産の世界は、株式などと違って「公開情報」が少なく、はっきりとした指標での判断はプロにしかできません。また、いまは有料で確認できるようになりましたが、その土地の「収益還元率」などの実勢数値も、素人には簡単に辿り着くことができないのです。

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それでも「サラリーマン大家」になりたい人へ

 つまり、サラリーマン大家たちは、「何も武器を持たずに素手で闘っている」ようなものです。もし、本気で不動産投資を考えるなら、ご自身が不動産投資をできる環境にあるのかどうかを冷静に判断すべきでしょう。

 仮に自分で投資判断がつかない場合は、有料にはなりますが、セカンドオピニオンなど専門家から助言をもらうなどして、いま不動産投資をすべきかを判断したほうがよいでしょう。また、先行きを考える意味では、次の3つの点は最低限、考慮すべきです。

1.人口減少問題
2.空家問題
3.インバウンド需要

 そもそも不動産投資は「中長期の視点」を持って行うべきです。視点のひとつは「所有する物件を中期的にバイアウトする」という出口戦略であり、もうひとつは「長期で保有し続けインカムゲインを最大限に狙いにいく」という戦略です。ものさしは単独ではなく、複数持つべきで、そのあたりのバランス感覚も問われます。

 また、私の持論になりますが、不動産における「投資」の価値には、売却益やインカムゲインといった数字上の価値だけではなく、そもそも私たちが快適に暮らすための「使用価値」があります。ですから、マイホームを購入するということも、長期で見た場合、「投資」という枠でとらえられます。そのように不動産投資の枠組みを広げて考えれば、投資の選択肢は無数に存在し、「不動産投資会社」の一択ではないはずです。

 

■ 寺岡 孝(てらおか・たかし)
1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅コンサルタント。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、これまでに 2000件以上の相談を受けている。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWebメディアに住宅・ローン・不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』『不動産投資の曲がり角で、どうする?』など。

 

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