「鬼滅」があっても年間興行収入が約半減。映画業界の早期回復は困難か
LIMO / 2021年2月17日 11時35分
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「鬼滅」があっても年間興行収入が約半減。映画業界の早期回復は困難か
2020年の映画興行収入は前年比▲45%減
コロナ禍でイベントや娯楽が大苦戦する中、昨年(2020年)の日本国内における映画興行収入は約1,433億円となり、過去最高を記録した前年(2019年)から▲45.1%減という記録的な減少となりました。また、1,433億円という数字は、現在と比較可能な記録が残る2000年以降でも最低となっています。
2015年以降の実績は以下の通りです。カッコ内は前年比。
2015年:2,171億円(+4.9%増)
2016年:2,355億円(+8.5%増)
2017年:2,285億円(▲2.9%減)
2018年:2,225億円(▲2.7%減)
2019年:2,611億円(+17.4%増)
2020年:1,433億円(▲45.1%減)
劇場の一時休業や最大収容人数の削減が直撃
2020年の興行収入激減の要因は、新型コロナウイルスの感染拡大に尽きます。感染拡大が顕著となった昨年3月以降、多くの劇場が長期間の一時休業を余儀なくされ、昨年春に発出された第1回目の緊急事態宣言解除後も、いわゆるソーシャルディスタンス確保のため、客席は実質半減となりました。
また、洋画を中心に大作の公開延期が相次いだことも痛手だったと言えましょう。そして、昨年末からのコロナ第3波襲来で緊急事態宣言の再発出など、かつて経験したことのない逆境が続いています。
さらに、観劇中の飲食が全面禁止になった劇場も数多くあり、ポップコーンや清涼飲料水など利幅の大きい販売も落ち込んでいます(観客から見れば非常に割高な飲食物、興行収入には含まず)。今後もこのような状況が続けば、閉館に追い込まれる劇場が続出する事態になるかもしれません。
「鬼滅の刃」が唯一の明るいニュース
一方、こうしたコロナ禍にもかかわらず、スーパーメガヒット作が誕生しました。ご存知の通り、昨年10月16日に公開となった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(以下、「鬼滅の刃」)は、あっという間に歴代興行収入のトップとなり、現在も上映中です。
何しろ、不滅の金字塔と言われていた「千と千尋の神隠し」の記録をわずか2カ月で抜き去ったのですから、その人気ぶりがわかります。
ちなみに、歴代興行収入の上位10作品は以下のようになっています(2000年以降~、2021年2月7日時点)。
第1位:「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(2020年) 372億円(注:上映中)
第2位:「千と千尋の神隠し」(2001年) 317億円
第3位:「タイタニック」(1997年) 262億円
第4位:「アナと雪の女王」(2014年) 255億円
第5位:「君の名は。」(2016年) 250億円
第6位:「ハリー・ポッターと賢者の石」(2001年) 203億円
第7位:「もののけ姫」(1997年) 202億円
第8位:「ハウルの動く城」(2004年) 196億円
第9位:「踊る大捜査線 THE MOVIE 2」(2003年) 174億円
第10位:「ハリー・ポッターと秘密の部屋」(2002年) 173億円
「鬼滅の刃」の昨年における興行収入は、2カ月半(10月16日~年末)で約325億円でしたから、全体に占める割合は約23%となり、1つの作品としては破格の数字です。しかも、劇場の最大収容人数を削減した中での結果ですから、驚異としか言いようがありません。
逆に言うと、「鬼滅の刃」が貢献しても前年のおおよそ半減という事実を鑑みると、コロナ禍で映画業界がいかに苦境に陥っているかが理解できます。「鬼滅の刃」の貢献度が低下する今年(2021年)以降の映画業界はどうなっていくのでしょうか。
昨年まで好調が続いてきた映画業界
コロナ禍で壊滅的だった昨年の印象が強いものの、2019年まで映画業界は好調が続いていたことを忘れてはなりません。前述した通り、2019年の興行収入は過去最高を記録し、直近5年間はいずれも2,000億円を超えています。
特に、2019年は、大手映画館が揃って入場料を引き上げ(例えば、TOHOシネマズが映画鑑賞料金を1,800円から1,900円へ+100円値上げ、一般料金)、10月からは消費増税による影響を受ける等、厳しい環境下だったにもかかわらずです。
こうした好調をもたらした最大の要因は、相次ぐ人気作品の登場です。
実際、前掲した歴代トップ10に入るメガヒット作品はなかったものの、「天気の子」(2019年、歴代13位)、「アナと雪の女王2」(2019年、同18位)、「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年、同19位)、「美女と野獣」(2017年、同22位)などの“準”メガヒット作品が数多く登場しました。
一方で、リピート客を増やそうとした業界の努力も見逃せません。現在、映画館では様々な割引サービスを実施しています。レディース・デーやレイトショーの割引はすっかり定着しました。また、ポイントカードシステムも広く普及しており、無料観劇など様々な特典を受けることができます。
さらに、IMAXデジタルシアター(注:日本は2009年から導入)に代表される映画館の“ハイテク化”も一因と言えそうです。こうした高性能上映による鑑賞は、家庭でのDVD鑑賞では決して味わえない臨場感があります。高性能上映の料金はやや高めに設定されていますが、それでも人気は衰えないのが実情のようです。
楽観論は禁物、どん底から復活した過去の経験を活かせ
振り返ってみると、戦後の日本では映画は庶民の娯楽として人気を博し、1950年代に黄金期を迎えました。しかし、カラーテレビの普及とともに客足が遠のき、一時は斜陽産業の代名詞として使われたのも事実です。また、結果論になりますが、映画産業はその黄金期の成功体験にどっぷりと浸ってしまい、営業努力を怠った側面があったことも否めません。
それでも、人気作品の登場や関係者の努力により、映画産業はどん底から這い上がってきました。その成果が2019年の過去最高記録だったと言えるのではないでしょうか。
そして、残念ながら「好事魔多し」の典型例となってしまったのが2020年だったのです。国内でもようやくワクチン接種が始まろうとしていますが、足元のコロナ禍が急速に収束するかどうかわかりません。
また、仮に一定程度の収束が実現した後も、いわゆる“新生活様式”や“3密回避”が続くため、劇場では最大収容人数の削減維持を要求されるでしょう。劇場がかつてのような超満員になるまでには、数年単位の時間がかかると考えるのが妥当です。
少し大袈裟な表現になりますが、今回のコロナ禍は映画産業にとっては60年ぶりの試練です。元々、娯楽産業というのは、いったん客離れが始まるとそれが雪崩式に続き、なかなか元に戻らない性質があるからです。
しかしながら、映画産業にはどん底から復活した経験があります。今まさしく、映画産業に携わる全ての人が知恵を出し合って危機を回避することが重要です。“コロナ禍が収まれば大丈夫”という楽観論は禁物だと考えるのは筆者だけではないと思われます。こうした点に注意しながら、今後の映画産業の動向に目を向けていきたいと考えています。
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