「所有者不明の土地が活用できない」問題を解決する、相続登記の義務化
LIMO / 2021年2月21日 19時5分
![「所有者不明の土地が活用できない」問題を解決する、相続登記の義務化](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_21986_0-small.jpg)
「所有者不明の土地が活用できない」問題を解決する、相続登記の義務化
民法改正等により、相続登記等が義務化されると期待されます。所有者不明の土地が減り、国土の有効利用が可能となる、と筆者(塚崎公義)は歓迎しています。
所有者不明の土地が増加中
現在は、土地を相続しても登記することが義務付けられていません。都会の土地は、よほど相続争いでもしていない限り、相続した人が登記して自分の所有権を主張するのが普通でしょうが、山間部等の土地は登記して所有権を主張するメリットが小さい一方で、登記には手間と費用がかかるので、登記せずに放置する相続人も多いようです。
その結果、各地に「明治時代に死んだ先祖が登記名義人となっていて、現在の所有者を探すためには何十人もの子孫を探し出して聞き取り調査をする必要がある」といった土地が増えているとのことです。
これまでは、生まれ育った土地で暮らしている人々が相続した親の不動産を登記しなかったという事例が多かったのでしょうが、今後は戦後の人口大移動の影響で引越し先がわからない所有者が増えてくることが懸念されます。
高度成長期に農村から都会に出てきた「金の卵」たちが数十年後に親の遺した農地や山林を相続するインセンティブは大きくないでしょうから、登記されない土地が「耕作放棄地」等となっていくのでしょう。
「誰が所有者であるかが登記されていて、活用したい人が所有者から土地を買ったり借りたりできる」ことは重要です。山林や農地として有効に活用されるためにも重要ですが、高速道路を作りたくても用地買収の交渉を誰と行えばよいのか不明だ、ということでは困りますから。
所有者の住所変更により、登記簿上の所有者は存命なのに所有者と連絡が付かない、といった事例も多いようです。これも、結果として同様の問題を引き起こしているわけですね。
相続等の登記が義務化されると期待
法制審議会(法相の諮問機関)は2月10日、相続や住所・氏名を変更した時に土地の登記を義務付ける法改正案を答申しました。 罰則付きなので、今後は所有者不明の不動産は減っていくと期待されます。
すでに発生している相続についても、何らかの措置が採られるならば、所有者不明不動産は急激に減っていくかもしれません。そうでなくとも次の相続の際には登記されるでしょうから、所有者不明不動産が増加傾向から減少傾向に転じると期待されるわけです。
加えて、登記費用等と比較して地価が安い土地等については、相続人が困らないように、不動産について相続を放棄して不動産を国有化してもらうという制度も作るようです。これにより、地価の極めて安い不動産は国有化が進んで行くことでしょう。その方が、治山治水等々の事業がやりやすい、といったメリットもありそうです。
行政の情報の効率的共有が必要
今次改正では、登記官が定期的に住民基本台帳ネットワークシステムに照会するなどして登記名義人の死亡等を把握する、とあります。
登記官が住民基本台帳にアクセスするということは望ましいことではありますが、筆者としてはさらに進んだシステムを期待しています。すべての不動産の登記情報と全ての自治体の住民票情報をオンラインで一体管理するのです。
登記官がすべての住民票情報をオンラインで簡単に見ることができ、すべての自治体が「住民の誰が何処にどのような不動産を登記しているか」をオンラインで簡単に見ることができるようにするのです。
そうすれば、住民から死亡届や住所変更届が提出された時に「あなたは不動産を所有しているので、登記情報の変更届けも必要です」と伝えて登記を促すことができるでしょう。登記しなければ罰則を受けるわけですから、そうした情報は届けを出した住民にとっても有益なはずです。
余談ですが、不動産の所有者が死亡したという情報は、瞬時に税務署とも共有されるべきです。税務署も当然に、上記のオンライン・ネットワークに接続しましょう。
こうして政府の持つ個人情報が様々な行政機関に共有されることに対しては、「気持ち悪い」と考える人もいるようです。しかし筆者は、「個人情報を政府が持つこと」についての気持ち悪さと「政府が持っている情報を効率的に利用するべきこと」は分けて考えるべきだと思います。
「誰がどの不動産を所有しているのかを政府に知られたくない」のであれば、不動産登記という制度を廃止するしかありませんが、それは別の大きな問題を引き起こすでしょう。そうであれば、誰が不動産を所有しているのかを政府に知られること自体は仕方ないと思います。
あとは、「政府の一部署が知った情報を他部署に教えず、セクショナリズムで非効率に政府の仕事を遂行すべき」なのか、「政府の一部署が知った情報は政府全体で共有して効率的に政府の仕事を遂行すべきなのか」という話ですね。前者と後者の比較だとすれば、当然後者だ、と筆者は考えています。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
参考資料
「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(http://www.moj.go.jp/content/001340751.pdf)」(法務省)
<<筆者のこれまでの記事リスト(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>
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