テレワークでみえた「格差と限界」 実は恐ろしい世界が待っている
LIMO / 2021年2月21日 20時5分
テレワークでみえた「格差と限界」 実は恐ろしい世界が待っている
緊急事態宣言の延長が決定して、「出勤者7割削減」が求められていますね。決め手となるのはテレワークの導入・推進。現状は、多くの人々がテレワークを実際に体験して、その評価を巡って戸惑っている状況ではないでしょうか。
今回はいまの日本のテレワークの実態や、テレワークによって日本の働き方がどのように変わっていくかを考えていきます。
テレワークできるのは大企業だけ!?
まず、いまのテレワークの実態を見ていきましょう。昨年(2020年)12月6日にパーソル総合研究所から、新型コロナ第3波/感染拡大期のテレワークの実態調査結果が発表されました。調査期間は11月18日~23日で2万人規模の調査です(対象:正規雇用1万9946人/非正規雇用2973人)。
まず、正社員のテレワーク実施率は全国平均で24.7%。5月25日の緊急事態宣言解除(全国)直後は25.7%でしたので、1ポイント減少しています。ちなみに内閣府の調査では27.7%から21.5%と低下しています。
特筆すべきは、企業規模別の実施率です。従業員1万人以上の企業では45.0%。これが100人未満では13.1%。その差は実に約3.4倍。5月時点の調査では約2.7倍の差でしたから、企業規模による差が広がっています。
やはりテレワークは大企業中心に進んでいるようですね。ちなみに、業種別にテレワーク実施率をみると「情報通信業」が一位で55.7%となりました。
非正規雇用のテレワークは進んでいない
次に非正規雇用のテレワークの実態をみていきます。正社員のテレワーク実施率が24.7%であるのに対して、非正規雇用の実施率は15.8%。その差は8.9ポイント。4月調査時点(4月10日~12日)の10.9ポイント差からは改善されましたが、やはり格差があるようです。
これも5月調査(5月29日~6月2日)では7ポイントの差まで改善されていたのですが、やはり揺り戻しが起きているようです。
非正規雇用のテレワークが進まない要因としては、派遣契約の改定や、セキュリティポリシー(派遣社員のPC持ち出し禁止)、派遣社員の労務管理などがあげられます。やはり正規雇用と非正規雇用という制度の違いがテレワークの進捗を阻害していると考えられます。
続いてテレワークの「地域別」「年収別」の差を見ていきます。こここからは昨年12月に調査がおこなわれた内閣府の調査結果を参照します(令和2年12月24日発表)。
同調査によると、東京23区内の12月のテレワーク実施率は42.8%。これに対して地方圏では14%。就労者の年収別では700万円~1000万円未満が41.2%、1000万円以上が51.0%。ちなみに300万円未満では12.7%。見事なまでに年収と比例していることがわかります。
ここまでを見るとテレワークが「大企業」×「都市部」×「高収入層(正社員)」で進んでいることがよくわかります。これは多くの人々がもっている実感と、ほぼ重なるのではないでしょうか。
「出勤者7割削減」なんて絶対ムリ
さて。ここからは「出勤者7割削減」について考えていきます。
まず「出勤者7割削減なんて辞めた方がよい」と主張しているのが、ノンフィクションライターの窪田順生氏。窪田氏によれば、「テレワークに向いている国/向いていない国」があると言い、日本はきわめて「テレワークに向いていない国」のとのことです。
その最大の要因は日本固有の企業カルチャー「ホウレンソウ」。これは報告・連絡・相談のことですよね。筆者も遠い昔、新入社員の時に習った記憶があります。話が脱線しますが、自分が覚えているのは「ホウレンソウ」と、いまから思うとパワハラ推奨のような「鬼十則」だけです。ちょっと懐かしいですね。
窪田氏の主張に戻ると、この「ホンレンソウ」も外資系企業でやるとほぼ100%NG。「なんでそんなどうでもいいことまで報告するの?」「それくらい自分の頭で考えられないの?」と嫌味を言われてしまうとのこと。
この日本特有の労働カルチャーが、テレワークの普及を阻んでいるのではないか。つまりホウレンソウとテレワークは水と油というほど相性が悪いというのが窪田氏の主張です。
この「ホウレンソウ阻害説」は筆者も一理あると思います。いずれにしろ、日本のテレワークが進まない最大原因はテクニカルな問題ではなく、日本企業のカルチャーにあるのではないかと多くの調査が示唆しています。
テレワークのその先の世界とは
最後に少し大きな視点で考えてみます。テレワークは「大企業」×「都市部」×「高収入層」で加速しています。このレイヤーで進行しているもうひとつのトレンドが「ジョブ型」の働き方です。
日立製作所、資生堂、富士通、KDDIなどが、職務を明確にして年齢や年次を問わずに適切な人材を配置する「ジョブ型」への移行を加速させています。
要は日本型の働き方は、もう限界で、グローバルなカタチへの変貌を迫られているのが実情である気がします。テレワークへの順応を求められるのも、日本型の働き方への決別の意味でとらえることもできます。
ここで窪田氏の主張する「そんなことは日本企業にはムリ」というのは、その通りだと思います。たしかに「全ての日本企業」ではムリでしょう。しかしながら、できない企業は市場退出するしかない時代も、そう遠くはないのかもしれません。
どうも日本では、そのような話がタブーになっている気がします。たとえば経産省の言う「DX/2025年の崖」問題も、本来“崖"と言うならば、そこから転げ落ちる(市場退出する)企業が多数あってもおかしくありません。それでこそ、社会の新陳代謝が進むのでは、とも思います。
もしかするとテレワークは、そのような新しい世界の入り口なのかもしれませんね。いろいろと煩わしく慣れないテレワークですが、「順応するしかないか」と思う今日この頃でした。
参考資料
第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/telework-survey4.html)(パーソル総合研究所)
第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/20210119/shiryou3-1.pdf)(内閣府)
「出勤者7割削減」なんて無理な呼びかけは、やめたほうがいい理由(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2101/26/news056.html)(ITmediaビジネスオンライン)
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