緊急事態宣言延長なら「被害者」に十分な補償をすべき
LIMO / 2021年3月7日 19時5分
![緊急事態宣言延長なら「被害者」に十分な補償をすべき](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_22303_0-small.jpg)
緊急事態宣言延長なら「被害者」に十分な補償をすべき
緊急事態宣言を延長するなら、多数が少し利益を得て少数が大きな被害を受けるのだから、「被害者」に十分な補償をすべきだ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
緊急事態宣言の負の影響は狭い範囲に集中
緊急事態宣言が発令、延長されると、観光業や飲食店等が非常に大きなマイナスの影響を受けます。本稿ではこうした業種の企業および従業員を「被害者」と記すこととします。
しかし、年金生活者や多くのサラリーマン(サラリーウーマンや公務員等を含む、以下同様)はそれほど影響を受けません。景気が大幅に落ち込めば影響を受ける人も多いのかもしれませんが、さまざまな経済統計を見る限り、多くの人が経済的に大打撃を被っている、というわけではなさそうです。
一方で、緊急事態宣言が出されずに新型コロナが蔓延してしまうと、すべての人が被害に遭う可能性がありますから、多くの人は自分へのリスクを減らすためには緊急事態宣言を延長してほしいと考えるでしょう。
したがって、人々が各自の利益だけを考えて世論調査に回答すると、少数の人は緊急事態宣言に絶対反対、それ以外の多数が賛成、ということになり、「世論は緊急事態宣言に賛成だ」ということになるかもしれません。
そうなると、多数の受益者が罹患のリスクが減る恩恵にあずかる一方で、少数の「被害者」が大きな打撃を受けることになりかねません。
掃除当番を1人に押し付けるのは正義か
筆者は民主主義を否定するつもりは毛頭ありません。日本が独裁国家になるべきだとは決して考えていません。ただ、多数決ですべてを決めるのが正義だと言えない場合もあるので、慎重な検討が必要だ、と考えています。
小学校の掃除当番をホームルームで決める際に、「毎日A君に掃除当番をやってもらおう」という案が出たら、A君以外が全員賛成して、その案が通るかもしれません。
もちろん、民度の高いクラスであれば「それは不公平だから、皆で交代でやろう」という案が通るのでしょうが、皆が利己的に行動すれば、A君がずっと掃除当番をやることになりかねません。
実際の政治でも、理論的には「上位1割の金持ちから巨額の税金をとって、庶民の税金をゼロにしろ」「障害者の福祉の予算を廃止しろ」という法律ができないとも限りません。あくまでも”理論上は”ですが、金持ち以外の庶民、障害者以外の人が全員賛成するかもしれないからです。
筆者は政治学や正義論の専門家ではないので、本稿はこの問題を理論的に探究しようというものではありませんが、緊急事態宣言を考える際にこうした問題も併せて考える必要がある、と主張するものです。
国民全体へのバラマキではなくピンポイントな補償を
幸いなことに、本件は掃除当番の例とは異なり、正義論を持ち出さなくても金で解決することが可能です。多数の受益者が資金を出し合って「犠牲者」に「補償」をすれば良いからです。
政府は昨年、国民全員に10万円を配りました。もしかすると、今年も配るかもしれないと言われています。しかし、そんな金があるのであれば、「被害者」に集中的に配れば良いのです。
それほど困っていない多くの人に広く浅く配るよりも、深刻な影響を受けている数少ない人に配るべきだ、ということに加えて、広く浅く配っても景気対策の効果が薄い、ということもあります。人々は金がないから使わないのではなく、自粛しているから使わないのであって、10万円をもらったら使う、という人は多くないはずですから。
考え方としては、緊急事態宣言でメリットを受ける多くの人から税金を徴収して「犠牲者」に補償をすべきなのですが、新型コロナ不況の最中の増税は避けるとすれば、国債を発行して調達した資金を観光業等に配ることとして、新型コロナ不況から回復したのちに広く国民から税金を集める、ということだと思います。
もちろん、「景気は税収という金の卵を産む鶏」なので、増税のタイミングは景気を殺さないように慎重に検討すべきですが。
民意が正しい情報に基づくことが重要
世論を尊重した政策が採用されるための大前提は、世論が正しい情報に基づいて適切に形成されているということです。
筆者が心配しているのは、世の中には悲観的な情報が出回るメカニズムが働いている、ということです。「新型コロナは怖い」という方が「大丈夫です」というより賢そうに見えるし人々の関心も引ける、ということで評論家は不安を煽るような話をするインセンティブを持っています。マスコミも、不安を煽る方が客の関心を惹けるので、同様のインセンティブを持っています。
そうした「悲観バイアス」を、情報の受け手である国民が十分に割り引いて理解した上で、それでも「新型コロナの蔓延を防ぐためなら緊急事態宣言も止むを得ない」と考えているのであれば良いのですが、バイアスのかかった情報に基づいて判断している人がいないとは限りません。そうした人が少ないことを祈るばかりです。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。ご了承ください。
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