日本的下請け制度が毎回入札の部品調達より合理的な理由
LIMO / 2021年3月28日 12時35分
日本的下請け制度が毎回入札の部品調達より合理的な理由
下請け制度は、毎回入札で部品を調達するより合理的で、下請けにとっても発注側にとってもウイン-ウインの関係だ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
毎回入札は、低価格でもコストが大
企業が部品を調達する時、下請けを決めておいて毎回同じ部品メーカーから調達する場合と、毎回入札して最安値で落札した部品メーカーから調達する場合があります。
米国では毎回入札が合理的だと思われているようですが、日本では下請けからの調達が多いようです。日本では労働力も終身雇用ですし、部品も下請けからですし、長期安定的な取引が多いようですね。
直感的には「最も安いところから買うのが合理的だ」と思えますが、日本で下請けが一般的であることを考えると、そうとも言い切れないのでしょう。今回は、その理由を考えてみましょう。
すぐに思いつくのが「入札するにはコストがかかる」ということですね。加えて、落札した部品メーカーと種々の打ち合わせをする必要もあるでしょう。毎回使っている下請けならば、入札の手間も不要ですし、打ち合わせも「前回どおりで」の一言で終わりですから。でも、理由はそれだけではありません。
情報の非対称性がコストを生む
他人がウソをついているか否かを知ることは容易ではありません。将来は技術が進歩して完璧なウソ発見機ができるのかもしれませんが、それまでの間は相手がウソをついているのか否かを見破る工夫、あるいは相手がウソをつかないための工夫が必要でしょう。
相手の部品メーカーが納期や品質を守る業者であるか否かは、調達する企業にとって極めて重要な問題です。その観点からは、毎回入札は危険なのです。
毎回入札で調達すると、落札した部品メーカーが納期を守るか否か、品質が良いか否か、知ることが困難ですから、時として「はずれ」を掴んでしまうかもしれません。
購入するのが独占企業であれば、部品メーカーが「今回の納入先に嫌われたら、今後は商売ができなくなる」という恐怖心を持つでしょうから、真面目に納期や品質を守ろうとするでしょう。
しかし、そうでなければ「毎回多くの企業が入札しているから、今回の企業に嫌われても、別の企業に売れば良い」と考える部品メーカーも出てくるでしょう。
場合によっては、悪徳業者に「安値で落札して粗悪品を売りつけようという」というインセンティブを持たせてしまう可能性さえもあるでしょう。
その点、下請けであれば、「10年に一度、下請け企業の見直しをするので、次回の見直しで取引を打ち切られないように、しっかりやってほしい」と言われれば、真面目にやらざるを得ないでしょう。
下請け企業が設備投資を行ないやすい
部品メーカーとしては、今後も安定的に受注できるとわかっていれば、安心して設備投資に踏み切ることができますが、そうでなければ「今期は受注できたが、来期は受注できないかもしれない。設備投資をするのはリスクだから、手作業で作ろう」ということになりかねません。
そうなると、下請け企業は安心して設備投資を行なって安くて品質の良い部品を納品することができるのに、入札で勝った企業は手作業で高くて品質の悪い部品を納品することになりかねません。
そう考えると、下請け制度は発注側にとっても下請け側にとっても都合の良い、ウイン-ウインの関係の関係だと言えるでしょう。
製品開発も容易に
下請けを使わないメーカーが新製品を開発する際には、自分で部品の設計図を描いて作ってみて、成功したら部品の入札をするわけです。入札を見てから部品メーカーは「自社でも作れるか、コストは何円か」を検討し、応札し、落札し、それから製造ラインの準備に取りかかるわけです。
一方で、下請けを使うメーカーであれば、部品メーカーと共同で開発を進めることができるので、下請けメーカーの技術レベルや得意分野に配慮した開発ができる上に、製品開発が終了した直後から下請けメーカーは部品の製造に着手できるわけです。
給与の格差等々は問題かも
ところで、企業はなぜ部品を自分で作らずに下請けメーカーに発注したりするのでしょうか。下請けメーカーが儲かるなら、自分で作ればその分も儲かるはずなのに。その理由はおそらく、給料の格差と固定費抑制だと思われます。
最近は少しずつ変化しつつありますが、基本的な発想として日本企業と従業員は「会社は家族」という意識を持っていますので、会社の中はできるだけ平等が良いと考えています。年功序列賃金などは、その典型でしょう。
そこで、「作るのが簡単な部品は賃金の低い下請けメーカーに作ってもらって購入する」という発想が出てくるのでしょう。自社で作ると、部品製造ラインの労働者にも同じ賃金を支払う必要が出てくるので、それを避けよう、ということですね。
もしかすると、固定費を抑制してリスクを避ける、という意味もあるのかもしれません。下請けを使っていれば、景気が悪くなって注文が来なくなった時に、部品の仕入れを止めれば良いからです。自社生産の場合には、設備機械の減価償却費や人件費などが必要ですが、それが不要だ、というわけです。
ただ、これは単なる「下請けにリスクを押し付けている」というわけではありません。下請け企業も、リスクだけ押し付けられたのでは倒産してしまいますから、景気の良い時には十分儲かるような価格設定を要求するはずです。
そうだとすれば固定費の抑制には、好況時と不況時の収益の振れを縮小する効果はあったとしても、長い目で見れば損得には余り影響しないのかもしれませんね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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