日本が主役になれる! CO2を有効活用する”親炭素”技術
LIMO / 2021年4月18日 19時5分
日本が主役になれる! CO2を有効活用する”親炭素”技術
二酸化炭素が原料になる
経済産業省は2020年12月25日、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中で、14の重点分野で脱炭素を推し進めると発表しました。ここで示されているように、脱炭素に向けてやるべきことは数多くあります。
今、「脱炭素」や「低炭素」が叫ばれ、二酸化炭素(CO2)は悪玉のようになっています。その一方、CO2の有効変換・利用を考える意味から、「新炭素」という言葉も生まれています。筆者はこれを、”CO2と親しくする”という意味から「親炭素」と表現したいところです。
前回は『CO2排出削減の救世主的技術、二酸化炭素そのものを回収する方法(https://limo.media/articles/-/22795)』と題して、すでに大気中に排出されてしまったCO2、あるいは、これからもまだ排出されるであろうCO2そのものをどのように回収するのか、その最先端技術を紹介しました。本記事では、経済産業省の14重点分野の一つ、「カーボンリサイクル」に関係して、CO2の有効変換・利用の革新的新技術について解説します。
二酸化炭素を石やコンクリートに変える
CO2を地下に埋め込み、石に変えるプロジェクトが進められています。これは前回記事の「地球化学的循環」で述べた自然界の摂理の人工版(人工岩石化)と考えてもいいでしょう。
スイスの環境スタートアップ企業・クライムワークス社は、アイスランドでこのプロジェクトを展開しています。この施設では、まず周囲の空気を吸引し、粒状の特殊吸収剤フィルターでCO2を吸着させ、CO2を含まない空気を大気中に戻します。フィルターがCO2で飽和状態になれば、近くの地熱発電所からの廃熱を使用して100度に加熱しCO2を放出させ、回収します。
次に、地熱発電所から施設に流れてくる水を利用して、回収したCO2を地表から約2000mの地下に送ります。このCO2が自然の鉱化作用によって、数年かけて炭酸カルシウム(石)に変換されます。したがって、CO2は永久に地下に貯蔵されることになります。
ここで利用した水は、24時間365日稼働する地熱発電所のサイクルに戻されます。この施設は年間4000トンのCO2を大気からろ過することができますが、自然界でその量のCO2を木に吸収させるには8万本の木が必要になるといいます。
昨年9月、ドイツの自動車メーカー・アウディ(Audi)は、この世界最大規模のプロジェクトに参画し、CO2削減に向けて未来のテクノロジーを推進していると発表しました。これにより、アウディはクライムワークス社を通して大気から1000トンのCO2を除去することになり、CO2削減に寄与するとしています。
上記と同じ試みはカナダでも行われています。カナダのカーボン・エンジニアリングのプラントでは、空気を水酸化カリウム溶液に通し、CO2を炭酸カリウムに変え、その後さまざまな処理を行って炭酸カルシウム(CaCO3)つまり石の塊にしています。
炭酸カルシウムを900度で焼成すると(温度は異なりますが、火山の爆発に相当する反応)、酸化カルシウムとCO2が得られます。取り出したCO2を圧縮し、パイプラインを通して地下に埋められています。この試みも地球化学的CO2循環反応を応用したものと言えます。
また、生コンにCO2を封じ込めると、コンクリートの強度が増加することが分かってきました。そもそもセメントは石灰岩(CaCO3)を焼成し製造するもので、その時にCO2が排出されます。そのため、我が国CO2排出の3%はセメント業界が占めています。
三菱商事は、カナダのカーボンキュアと資本提携して、このプロジェクトを進めています。この方法は、セメント製造時に発生するよりも多くのCO2を閉じ込めることが可能とのことです。
さらに、大成建設はセメントを使わず、CO2から作った炭酸カルシウム(石)を用いるコンクリートの製造方法を開発していますが、この方法も脱炭素に寄与する一つと言えるでしょう。
二酸化炭素と親しくする”親炭素術”は現代の錬金術
次に、排出されるCO2を利用する試みを紹介します。排出されるCO2を回収・利用・貯留するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の試みは経済産業省や資源エネルギー庁が中心になって進められており、その早期の実用化が望まれます。
化学的には、排出されるCO2を原料にして、種々の炭化水素(メタン、エタン、エチレンなど)、アルコール(メタノール、エタノールなど)、カルボン酸(ギ酸、酢酸、炭素数の多い脂肪酸など)、ポリカーボネート類のポリマーなどの有用化学物質の合成が可能です。
これは既存の化学、特に「有機合成化学」という分野の力を駆使しなければなりません。この分野は日本が世界のリーダーであり、3人のノーベル化学賞受賞者(2001年・野依良治氏、2010年・鈴木章氏、2010年・根岸英一氏)が出ています。
CO2から有用化学物質を合成するのは現代の”錬金術”とも言える手法ですが、これを「錬炭素術」や「親炭素術」と言ってもいいでしょう。
火力発電所などから排出されるCO2を即、有用化学物質に変換できればCO2削減に多大な寄与をすることができます。ただ、研究レベルでは色々なことが可能ですが、用途や需要、コストなどの問題から実用化に至っているケースは多くありません。しかし、脱炭素がこれだけ叫ばれていますので、この分野が急速に発展することは間違いないでしょう。
たとえば、東芝は太陽光発電による水電解から製造した水素と火力発電所の排ガスからのCO2で、メタノールを製造する実証事業を2018年より開始しています。
また、三菱系各社は苫小牧にあるCO2回収設備からのCO2と、製油所から発生する副生水素と水電解により発生させた水素を原料として、メタノールを合成するプラント設置を想定した調査事業を2020年3月より始めています。
一方、アイスランドのCRI(Carbon Recycling International)社は、世界初となるCO2からメタノールを生産するプラントを2012年から稼働させています。
同企業が運転しているプラントは、地熱発電由来の電力で水を電気分解した水素と、地熱発電の随伴ガスであるCO2からメタノールを製造し、「Vulcanol」(火山volcanoとアルコールalcoholからの複合名詞)という商品名で売り出しています。
さらに、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、有機合成化学の技術を駆使し、CO2を出発原料として再生エネルギー由来による水素を用いて、内燃機関向け液体合成燃料を一貫製造する技術の確立に取り組むことを2021年2月22日に発表しました。
このプロセスで製造した液体合成燃料は、将来的に自動車や航空機に供給し、これにより温室効果ガスの大幅削減を目指す計画です。
日本は”親炭素”の主役になれる!
前回と今回の記事で、CO2そのものを直接削減するための回収・貯留・利用技術について紹介しました。知的財産分析をしているアスタミューゼ株式会社によると、我が国の2018年のCO2削減の国外特許申請件数は約1万5000件、2位アメリカの1.7倍と数が多く、日本が親炭素社会を牽引する主役になれると期待できます。
人類は快適な営みを求めて、農業革命、産業革命、情報革命を成し遂げてきました。しかし、この間に増え続けてきたCO2を今度は一転して減らすことが求められ、まさに世界的なエネルギー革命が起ころうとしています。
化石燃料社会からの脱却が求められていますが、そのためには革新的技術開発が不可欠です。そこに人材と資金を投入すべきでしょう。
参考資料
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました(https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012.html)(経済産業省)
アウディとクライムワークス社が大気中のCO2を回収して地下に貯蔵(https://www.audi-press.jp/press-releases/2020/b7rqqm000000wlb9.html)(アウディ・ジャパン株式会社)
CarbonCure:CO2をコンクリートに混ぜる(https://www.wipo.int/ip-outreach/ja/ipday/2020/case-studies/carbon_cure.html)(WIPO:World Intellectual Property Organization)
カーボンリサイクル・コンクリート「T-eConcrete®/Carbon-Recycle」を開発(https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/210216_5079.html)(大成建設株式会社)
経済産業省のCCUS事業について(https://www.env.go.jp/earth/ccs/2_METI_CCUS_200805.pdf)(経済産業省 産業技術環境局 地球環境対策室)
CO2有効利用(CCU)の国内外の動向(2/3)(https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2020/mhir20_ccu_02.html)(みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)
NEDOによる「苫小牧のCO2貯留地点におけるメタノール等の基幹物質の合成によるCO2有効活用に関する調査事業」に採択(https://www.mhi.com/jp/news/20033102.html)(三菱重工業株式会社)
CO2からの液体合成燃料一貫製造プロセス技術の研究開発に着手(https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101410.html)(NEDO:新エネルギー・産業技術総合開発機構)
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