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なぜ過酷な仕事であるほど「共感」の力が重要なのか?

LIMO / 2021年5月22日 20時15分

なぜ過酷な仕事であるほど「共感」の力が重要なのか?

なぜ過酷な仕事であるほど「共感」の力が重要なのか?

 社会には一般的に「過酷」とされる業界があります。生命保険の世界も、そのひとつです。お客さまの事故や病気への備えのサポート、そして「遺されたご家族が生活に困らないようにしたい」というご家族への愛情をお届けする、とてもやりがいのある仕事ですが、働く人にとっては決して優しい業界ではありません。

 保険営業の仕事は、完全歩合制で、契約をいただけなければ収入を得られない、とても厳しい世界です。私が勤めていた外資系生命保険会社でも、何人もの方が夢と希望を抱いて飛び込んできましたが、その多くが理想と現実の違いを知り、去っていきました。

 この記事では、拙著『人生を変えた共感力』をもとに、人が辞めない仕組み作りのため、そして会社を成長させ続けるために必要な「共感力」について、私の経験を交えながらお伝えします。保険業界の話ではありますが、他の業界での会社経営にも何かご参考になればと思います。

会社と社員の成長の秘訣は、「共感」の力

 私は、先ほどお伝えしたような業界の現状を変えたいと考えて、会社を興しました。当社の特徴は、世界的に「成績優秀」と評価された保険営業員しか入会できない組織「MDRT」に、営業社員約1700名のうち、約630名の社員が入会していることです。そしてその9割は、当社に入社してから基準を達成しています。MDRTとは、世界中の生命保険・金融サービス専門職のトップクラスメンバーで構成されるプロフェッショナルの組織です。卓越した商品知識を持ち、厳しい倫理基準を満たした人のみ会員になることができます。

 こうお話しすると「優秀な方ばかり採用しているのだろう」「さぞかし厳しい会社なのだろう」と想像されるかと思いますが、当社は創業当初から「採用基準なし」を貫き、離職率も業界平均を大きく下回っています。これは、第一にはお客さまのおかげですが、社員たちの成長の証でもあり、その成長の根底には、人を想いやる「共感力」という理念の存在があります。

 私が最初に「共感力」を意識するようになったのは、新卒で入った信用金庫時代です。営業として担当の企業や約200の個人宅に伺っていましたが、中にはどうしても相性が合わないお客さまもいて、怒鳴られたり、人格否定に近いことを言われたりすることもありました。そのお客さまにお会いするのは気が重く、会社に行くのも億劫になるほど、精神的に追い詰められた気持ちになっていました。そのときに身に付けたのが、「相手の思考や価値観を知り、相手に合わせて自分をチューニングする力」です。

 当初は、自分が我慢すればいいと考えていましたが、ある日、「営業を仕事としていくなら、すべての人から好かれなければいけない」と考えを改め、たとえ相性が合わないお客様でも、こちらから合わせていく努力をするようになりました。相手の情報を集めたり勉強したり、あるいは趣味や興味を聞き出して、自分も同じものに興味を持ったりする。相手の思考や価値観に可能なかぎり共感することは、怒鳴られるよりもずっと楽だと気づいたのです。

 この経験が、他人に共感する大切さに気づかせてくれました。

辞めていく社員にも、その後の人生がある

 ただ、せっかくそうして関係性をつくっても、たった3、4年で転勤や異動により担当者が代わっては意味がありません。このシステムに疑問を持った私は、お客さまとのより長期的な関係を求めて、外資系の生命保険会社に転職しました。しかし、保険営業の世界こそ、冒頭でお伝えしたような過酷な世界でした。

 一流といわれる金融機関に勤めていた人ですら、うまくいかずに再度転職したり、生活が困窮してしまい消費者金融に手を出したり、自己破産してしまったりする状況でした。

 社員が辞めても、会社はまた別の人を採ればいいと考えるかもしれませんが、辞めた人たちにもその後の人生があります。私も、そうして心ならずも辞めていく人を何人も見て胸を痛めていました。そのため、自分の部下を持ったとき、「この人たちだけは絶対に成功させてあげたい」と思い、そうすることは彼らだけでなく、そのご家族の人生も守ることにもつながる意味のある仕事だと考えたのです。そこで、この業界の仕組みを変えたいと考え、起業しました。

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「普通の人」でも成果が出せる持続可能な仕組みをつくる

 保険営業に限らず、どんな業界でも、努力が足りない人は脱落していきます。私もそれを当たり前だと信じ、血のにじむような努力をしてきました。しかし「努力できること」もひとつの才能です。人には人それぞれの才能があり、脱落していった人たちは、自身の持っている力を発揮できなかっただけなのです。

 本当に必要なのは、「社員の実力や才能を完全に発揮してもらうための仕組み」です。人には、その人なりの努力や成長の仕方があります。他人のやり方を画一的に強制するのではなく、経営者が、社員の考えや成長したい気持ちに寄り添い、その障害を取り除くなどの支援をすることが重要です。そのことにより、社員は実力を存分に発揮し、お客さまを全力でサポートすることができる。これを実現することこそが、経営者の本来の姿です。

 また、一部の例外的に優秀な人を基準にした仕組みでは、誰もついていけませんし、長く続けていくこともできません。営業担当が頻繁に変わってしまえば、お客さまにとってもご迷惑になります。

 社会の圧倒的多数は、「普通の人」です。つまり個人の才能や努力に頼るのではなく、あえて「普通の人」を基準としたビジネスモデルを構築し、「普通の人」でも成長できて成果を挙げられる持続可能な仕組みが必要です。それこそが社員にとってもお客さまにとっても必要だと考えたのです。

 当社でもこの考え方を取り入れ、さまざまな工夫をしています。その際にヒントとなったのは、次のような視点です。

・社員が負担に感じていることを会社が請け負えないか

 保険営業にとって最大の難関は「顧客探し」です。お客さまとお会いできないことには仕事が始められないため、わずかな時間も惜しんで電話をかけ続けます。しかし、そのほとんどは徒労に終わるため、「普通の人」は続けることが困難です。そこで当社では、「顧客探し」を会社が行い、お客さまのご希望に合わせて適切な営業社員をマッチングするシステムを取り入れています。顧客探しのための努力やストレスに耐えることは、営業社員の本来の仕事ではなく、それよりも専門性の向上に集中し、「顧客にベストな商品を提供すること」に専念してほしいと考えています。

・社員に成長の機会を創出できないか

 保険営業は完全歩合制であるため、毎日の出社を義務づけていない会社がほとんどです。ですが「普通の人」は、自由な働き方に甘えて怠けてしまいます。そこで当社は、あえて週に一度の全体朝礼を開き、出社してもらうようにしています。出社することによって働くリズムができるだけでなく、朝礼ではノウハウを惜しみなく伝え、同僚とは顔を合わせ情報交換する場となり、社員同士にとって良い学びの機会になっています。

 ほかにも、各々がお客さまと自分の成長に真に向き合えるよう「成績の順位づけをしない」仕組みをとったり、全社員のスキル向上のため、営業に欠かせない基本行動を楽しく学べるイベントとして「ロールプレイング大会」を開催したり、いつでもノウハウや営業に役立つツールを確認できるよう「自由にアクセスできる研修データベース」をつくったりと、徹底して「普通の人」の気持ちに共感し、仕組みを構築しています。どれも、保険業界では「非常識」と思われるようなものだと思います。しかし、この仕組みこそが社員の成長の原動力となり、共感する力を培うきっかけとなるのです。

 社員が本質的ではない業務に忙殺されていたり、個人の自制心や向上心に頼っていたりする会社は多いのではないでしょうか。厳しい業界であるからこそ、会社は目の前のお客さまや社員の気持ちに「共感」して、業界の慣習や自身の成功体験にとらわれない、自社にとって最適な仕組みを構築したいものです。こうした考え方は、保険業界以外の会社でもお役に立つかもしれません。

 

■ 黒木 勉(くろき・つとむ)
 株式会社FPパートナー 代表取締役社長。MDRT、TOT(Top of the table)終身会員。信用金庫、外資系生命保険会社において、常に営業トップの業績であり続けた自らの成功体験を再現すべく、保険代理店として独立。営業社員の多くを業界トップクラスへと送り出している。またお客様のあらゆるお金の相談にのるサービス「MONEY DOCTOR」も運営。徹底した社員の成長支援、お客様ファーストを貫く経営姿勢は、「お客様へ一生涯にわたるファイナンシャルプランニング・保険サービスの提供」を実現するという信念に基づく。過酷な保険営業において、常に好業績を記録し続ける経営手腕は高く評価されている。現在は会社経営者であり、1900名以上の営業社員を率いる現役トップセールスマンとしても活躍中。

 

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