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日本の海洋資源「燃える氷・メタンハイドレート」から水素を造る

LIMO / 2021年5月8日 18時35分

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日本の海洋資源「燃える氷・メタンハイドレート」から水素を造る

菅首相は4月22日、地球温暖化対策推進本部で日本の2030年度における温室効果ガス削減目標を引き上げ、30年度の排出量を13年度比で46%削減し、同時に「50%削減の高みに向けて挑戦を続ける」と発表しました。

「脱炭素」「カーボンニュートラル」「カーボンゼロ」に向け、官民の動きが加速していますが、経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の14の重点分野を含め、やるべきことは数多くあります。

これに関して最近、筆者は本メディアに6つの記事を執筆しましたが、その中の1つが『次世代エネルギー「水素」利用の技術開発はここまで進んでいる(https://limo.media/articles/-/22534)』。水素の製造方法については同記事などで述べたとおりですが、今回は海底に眠っている”燃える氷”、メタンハイドレートを用いる水素製造の試みについて解説します。

メタンガスがどうして氷に?

氷のようなメタンハイドレートが炎を出して燃える様子を、テレビで見たことがある方も多いでしょう。このメタンハイドレートとはいったい何でしょうか?

メタン(CH4)は、炭素の数が1個の最も単純な炭化水素(炭素と水素からできている化合物、ガソリンなどの燃料)で、常温常圧で気体です。ちなみに炭素数2個はエタン(C2H6)、3個はプロパン(C3H8、プロパンガス)、4個はブタン(C4H10、卓上コンロやライターのブタンガス)・・・と続きます。

一方、ハイドレートとは水和物のことで、水分子を含む物質です。

一般的にガスハイドレートとは、低温かつ高圧の条件下で水分子が作る12面体、16面体、20面体のケージ(かご)の中に、炭化水素ガスがゲストとして取り込まれたシャーベット状の固体物質で、代表的なものがよく知られたメタンハイドレートです。

ガス分子が水分子から作られるケージの中に取り込まれるのは不思議な現象ですが、見た目は氷に似ているメタンハイドレートの重量の15%はメタンガス、85%は水です。

メタンハイドレートはどこに存在?

メタンハイドレートはシベリアなどの永久凍土の地下、数百〜1000mの堆積物中に存在することもありますが、そのほとんどは海底に存在しています。

海底のメタンハイドレートには、砂層型と表層型という2種類のタイプがあり、砂層型は大陸棚がより深い海底へとつながる海底斜面内の水深500〜1000mの地下数十から数百mに存在します。

日本近海は世界有数のメタンハイドレート埋蔵量を有し、砂層型は本州(西日本)、四国、九州の太平洋側に埋蔵域が集中しています。この調査は2001年に始まっています。

表層型は2013年に調査が始まり、日本海側、水深500m以上の海底の泥の中に塊状で存在しています。新潟県上越沖の集積地では、メタンガス換算で約6億立方メートルと、日本の天然ガス消費量の約2日分の埋蔵が確認されています。なお、同様の地質構造は国内に1742か所あるとのことです。

こうした日本のメタンハイドレートの資源量は、メタンガス換算で「12.6兆立方メートル、日本で消費される天然ガスの100年分以上と推計されている」とする記事もあります(「120兆円の価値がある日本のメタンハイドレート。もう石油はいらない?(https://diamond.jp/articles/-/88366)」ダイヤモンドオンライン2016年3月24日)。

日本近海のメタンハイドレート採掘に期待

メタンハイドレートは天然ガスの原料として前述のように調査が進んでいましたが、政府は2月の総合資源エネルギー調査会で、水素の製造や、ひいてはアンモニア製造の原料としてメタンハイドレートを活用することにも言及しました。

従来は砂層型の採掘開発研究が進んできましたが、近年になってより浅い表層型の調査が進んでいます。しかし、その採掘技術はまだ確立されていません。

三井海洋開発は、石油などを海底から効率的に吸い上げる技術を開発し、海上に設ける浮体式生産設備を提供する世界的企業ですが、本年度に他社に先駆け、メタンハイドレート採掘実験に着手すると報じられています。メタンハイドレートを採掘後、吸い上げてメタンガスを抜き取り、海底パイプラインで陸上の基地に輸送する計画です。

この採掘技術の開発には、海底鉱物掘削の技術を有する三菱重工業グループの三菱造船も乗り出しており、掘り出したメタンハイドレートを船に吸い上げることを計画しています。

水素を安価に製造する

新エネルギーとして注目される水素を製造する方法は、石油や天然ガスに含まれるメタンなどの炭化水素を水蒸気と反応させて水素と二酸化炭素に分解する方法(水蒸気改質法)が主力です。

この方法は、すでに技術的に確立されていますが、我が国は石油や天然ガスを輸入しなければなりませんので、その安定確保や価格面、また地政学リスクという問題がありました。

一方、メタンガスは石油や石炭に比べ燃焼時の二酸化炭素排出量がおよそ半分であるため、地球温暖化対策としても有効な新エネルギー源であるとされ、また、水素製造のプロセスで発生する二酸化炭素が少ない利点を持っています。

3月22日に経済産業省から発表された「今後の水素政策の課題と対応の方向性中間整理(案)」において、政府は水素の導入量を2050年に2000万トン程度に拡大する方針を示しています。

しかし、そのためには価格を現状の1ノルマル立方メートル(大気圧下、0℃の体積)あたり100円程度を、将来的には20円に引き下げなければならないようです。ここに日本近海に豊富にあるメタンハイドレートを活用できるようになれば、水素の安価な供給も実現可能になるでしょう。

まとめ:メタンハイドレート採掘の意義

メタンハイドレート採掘の意義については上述のとおり、燃料としてだけではなく、水素製造の原料として使えることにあります。水素によるエネルギー獲得手段は、現状ではコスト競争力はないかもしれませんが、ここに今から投資しておくことは、中長期的に我が国にとって大きな財産になるのは間違いありません。

メタン自体は強力な温室効果ガスでもあり、同量の二酸化炭素の21〜72倍の温室効果をもたらすとされています。火山ガスであるメタンは、世界最大の火山帯である日本列島および近海から常に大量に放出され続けていることに加え、気温が上昇すれば海底や永久凍土中のメタンハイドレートからメタンが放出されることも懸念されます。

そこで、二酸化炭素排出量の少ないメタンハイドレートを採掘し、積極的に燃焼させるか、水素製造に使うべきだとする意見もあります。メタンハイドレート採掘、その利用については現時点では商業化されていませんが、政府のメタンハイドレート開発実施検討会の計画が早急に進むことを期待しましょう。

参考資料

メタンハイドレートの開発に関する検討状況(報告)(https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/shigen_kaihatsu/pdf/003_03_03.pdf)(経済産業省/資源エネルギー庁、2017年2月)

今後の水素政策の課題と対応の方向性中間整理(案)(https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/suiso_nenryo/pdf/025_01_00.pdf)(経済産業省、2021年3月22日)

表層型メタンハイドレート開発への取り組み(https://www.modec.com/jp/business/newbiz/methane_hydrate.html)(三井海洋開発)

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