セミコン・チャイナが世界最大規模で開催~2年出張できずにいたら分からなくなる中国の変化
LIMO / 2021年5月11日 11時35分
セミコン・チャイナが世界最大規模で開催~2年出張できずにいたら分からなくなる中国の変化
本記事の3つのポイント
3月に中国で半導体産業の国際展示会である「セミコン・チャイナ」が開催された。米中摩擦や半導体の供給不足など話題が多い中での開催となった
中国地場の半導体製造装置メーカーもNAURAやAMECなど頭角を表している
シリコンウエハーやフォトレジストなど材料分野でも存在感を示す企業が出てきた
セミコン・ジャパン(2020年12月にオンライン開催)やJPCA Show(プリント基板の展示会、21年5月末開催予定)の展示会場での開催が中止になり、すでに東京モーターショー(21年秋)までも開催中止が決まっているが、中国では3月17〜19日に上海市でセミコン・チャイナが展示会場で開催された。「米中半導体摩擦」や「中国の半導体国産化」に、「世界的な半導体不足」という新トピックスを加え、話題豊富な展示会となった。
昨年に続き、新型コロナによる渡航制限で日本から出張してセミコン・チャイナを見学することができなかった人たちに向け、今回はセミコン・チャイナで3日間現地ヒアリングした中国の半導体業界の最新状況や中国の国産装置メーカーの動向について報告する。
コロナから復活したセミコン・チャイナ
セミコン・チャイナの出展企業数は19年の約1200社(18年は1116社)、来場者は約10万人(18年の来場者数は9万1252人)をピークに、コロナ禍で開催された20年は出展企業が900社へと25%減少。来場者は4万〜5万人と半減した。
新型コロナの封じ込めに成功している中国では、今年のセミコン・チャイナは昨年よりも出展企業が大幅増えると予測されたが、海外からの渡航制限や14日隔離の規制があるため、海外企業の出展数が回復しなかった。米中対立が激化しており、昨年から米国企業の出展は以前ほど目立たなくなったし、日本企業の出展も減少した。
韓国の貿易促進協会が斡旋して韓国の中小企業が集団で出展する韓国パビリオン(1社あたり1小間規模のブースのグループ出展)は今年、大幅に縮小した。3月は海外からの訪中出張者向けのビザ発給が止まっていたので、今年も出展を断念したという企業が多かった。その結果、今年の出展企業数は横ばいだったが、中国国内からの参加者が増えて来場者は9万人へと大幅回復した。
コロナ対策として、昨年から展示会入場者は個人IDと顔写真の登録が必要になった。外国人である私は、入場手続き時にパスポートのスキャンと顔写真の撮影が行われ、その後は開催期間中の再入場時は入場ゲートに設置されたカメラで顔認証して自由に出入りすることができた。
「NAURA」はエッチング装置と縦型炉など
今年のセミコン・チャイナは、中国の装置メーカーの展示内容の更新ぶりが目立った。出展企業が増えただけでなく、多くの企業が昨年は展示していなかった新開発の装置の実機や模型を展示した。
その中でも特に目立っていたのが、NAURA(北方華創科技、北京市)のブースだ。ちなみに日本の業界人は「NAURA」を「ナウラ」とアルファベット読みするが、正式な発音は英語読みの「ノーラ」で、日本人だけが「ナウラ」と呼んでいる。NAURAの売上高は60億元弱(約1000億円、前年比40%増)。純利益は5億元(約84億円、約50%増)。NAURAの全売上高の約80%が製造装置事業(残り20%はデバイス事業)で、エッチング装置やPVD装置、CVD装置、洗浄装置、縦型炉、エピ炉などを製造している(ただし、半導体以外の装置も含まれる)。半導体製造装置のうち最も生産量が多いのはエッチング装置で、年間およそ100台を生産しているものとみられる。CVD装置やPVD装置の生産数量も多い。マスフローコントローラーなども生産している。
東京エレクトロン出身の日本人や中国人技術者も多数在籍し、中国装置メーカーの中では日本人技術者の数が最も多い。「昨年時点では日本人は十数人いたが、コロナの影響で中国での仕事や移動の不便さから契約延長しなかった日本人も数人いた」(NAURA関係者)。また、日本の装置パーツメーカーとの取引も急増している。あるベンダー企業には「21年は30%増のパーツ納入調達計画を示していたが、すでに今年分の発注が終わっており、装置の種類によってはもっと増える。倍増の勢いなのではないか」と話す。NAURAはとりあえず、22年についても最低でも30%増のパーツ発注を打診しているという。
プラズマエッチング装置の「AMEC」
AMEC(中微半導体設備、上海市)は昨年、上海証券取引所の科創板(中国版NASDAQ)に新規株式公開し、上海市の浦東新区の臨港新区に新工場を建設する。今年2月に杭打ち工事を始め、22年末に工場棟を完成させ、23年からエッチング装置の生産を始める予定だ。既存の長江ハイテクパークの工場と比べて、生産フロアは8倍に拡大する。
セミコン・チャイナでは新型エッチング装置「TWIN STAR」(ICP方式)を展示した。300mm対応機種で、デュアル式チャンバーのユニットを3台まで取り付けが可能。ユニット内の2つのチャンバーを同時、もしくは1つずつ使用することが可能で、真空ポンプなども1台で2つのチャンバーに使用できるため、コスト削減効果がある。
AMECの20年の売上高は22.7億元(約382億円)。製品種が多いNAURAと比べて売上規模は半分以下だが、従業員1人あたりの売上高は3倍と高い。この生産性の差は、国有企業のNAURAと海外帰りの中国企業のAMECの大きな違いとなっている。AMECは昨年、3D-NAND製造のYMTC(長江存儲科技、武漢市)向けに多数のエッチング装置が採用され、YMTCにおける採用シェアを拡大した。
創業者のジェラルド・イン董事長は北京大学で半導体を学び、米国留学からインテルやAMATで開発業務に従事し、60歳の時に中国に戻ってAMAT時代の15人の仲間と上海でAMECを起業した。それから約20年が経過し、中国最大手のエッチング装置メーカーとなった。昨年はTSMC向けに5nmプロセス対応のエッチング装置も出荷し、グローバル市場を相手にする企業になった。
PV用装置から参入の「Leadmicro」
Leadmicro(リードマイクロ、微導納米科技、江蘇省無錫市)は新興装置メーカーで、ALD装置を開発・生産している。名前を聞いたことがなかったという業界関係者も多いだろう。リードマイクロのALD装置はこれまで、主にPERC型太陽電池セルの裏面パッシベーション成膜工程に使われてきた。最近は日本人技術者を招き入れ、今後は半導体製造用のALD装置を開発していく。
中国の人材紹介サイト「前程(51job.com)」を見ると、装置開発プロジェクトエンジニア(大卒、3〜4年の実務経験)で1万〜1.5万元(16.5万〜25万円)の月給を提示している。同サイトで上海に本拠を置くAMECを見ると、工業設計エンジニア(同条件)が1.2万〜1.5万元で似たような水準だが、エッチング工程のエンジニア(大卒、2年の実務経験)は1.5万〜2万元(25万〜33万円)になっている。無錫という場所柄なのか、リードマイクロの給与水準はAMECよりは安いが、中国のエンジニアの給与水準はもはや決して安くはない。近年の装置の国産化の潮流がなおも拡大していく予測から、エンジニア給与は上昇傾向が続くことが予測される。
200mmの中国産ウエハー利用が徐々に開始
セミコン・チャイナでは、材料分野の中国企業の展示も増えた。特にウエハーとフォトレジストの企業が競って展示していた。中国で生産している半導体用国産ウエハーは、300mmでの一部商業利用が始まっているが、多くはテストウエハーでの利用から本チャン用ウエハーのお試し利用という程度にとどまっている。しかし、200mmでは一部の中国ファンドリーなどが実際の生産ラインで量産用に利用され始めている。
天津市の中環半導体はインゴットの引き上げからウエハー加工、ディスクリートやMEMSのチップ製造、さらに組立・検査までを一貫生産している。昨年は中国の家電大手で液晶パネルと有機ELパネルを内製しているTCLグループの資本傘下に入ることが決まった。今後はTCLの家電向けに電源管理ICなどの生産を増やしていくと予測される。中環半導体の展示ブースでは、200mmと300mm口径のシリコンインゴットを展示していた。天津工場で開発した製造技術を、立ち上げ中の宜興工場(浙江省、200mmと300mmライン)に移植し、年内に稼働させる。
フォトレジストはレガシー半導体対応品を開発
フォトレジストを開発している中国企業も数社に達する。中国政府による半導体製造技術の国産化を目指す「国家02プロジェクト」の指定を受けてフォトレジストを開発しているNATA(南大光電材料、江蘇省蘇州市)は、LED製造用のMO材料を中国で初めて国産化した企業だ。17年からフォトレジストの開発に着手し、現在のところArFドライエッチング対応(193nm波長レベル)のフォトレジスト「NAF903」(90nmノードの半導体製造に使用を想定)を開発した。現在はその先をいく「NAF522」(55nmの半導体製造に使用)を開発している。
中国にはNATAのほかに、ルイホン(瑞紅電子化学品)やファイケム(飛凱光電材料)、シンヤン(新陽半導体材料)、ヘンクン(恒坤新材料科技)など複数のフォトレジストの開発企業がいるが、「以前に複数の国産フォトレジストをテスト評価した経験でいうと、NATAのものが品質レベルが一番良かった」(中国大手ファンドリーの元幹部)という。
来年の新規出展企業はブース確保が超困難
半導体と半導体装置市場は今年から来年にかけて非常に好調に推移すると予測されている。特にそのなかでも中国は成長市場の筆頭格になっている。「新規顧客を獲得するなら中国」と考えている日本の装置や材料、パーツメーカーも多い。さらに、中国で米国技術の排斥傾向が起きていることも日本企業にとっては追い風だ。
来年のセミコン・チャイナは3月23〜25日に開催される(当初のアナウンスでは16〜18日開催予定だったが、変更された)。すでに来年のブース販売は完売しており、キャンセル待ちも100〜150社で打ち切られ、今まで出展したことのないセミコン・チャイナの非会員企業(セミコン・ジャパンの会員企業でもダメのもよう)は来年のブースを手に入れることは極めて難しい状況だ。思い返せば、コロナ前の19年のセミコン・チャイナの時がそうだった。中国はコロナ以前の元の状態に完全に戻ったということなのだろう。
中国の半導体工場の投資案件は相変わらず活発で、日本の装置・材料・パーツ企業にとってはチャンスに溢れた市場だ。しかし、中国の競合社(装置や材料・パーツ)の実力も急上昇し始めた。新型コロナでこの2年間ともセミコン・チャイナを見ることができなかった日本の半導体業界関係者は、「士別三日、即更刮目相待」(士、すなわち立派な男子は常に研鑽を積み向上するもので、3日も会わなければ次会う時は過去の記憶やイメージを捨て、目を見開いて向き合なければならない)という言葉のとおり、22年開催のセミコン・チャイナには今まで以上の注目が集まるだろう。
電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善
まとめにかえて
コロナ禍で渡航制限があるなかで、上海支局長の黒政氏が現地レポートをしてくれました。中国の半導体製造装置メーカーはここ数年実力をつけてきており、大手半導体メーカーの量産ライン向けに一部採用を獲得するケースも出てきました。最先端プロセス向けは引き続き、日欧米の主要装置メーカーが牙城を守っていますが、比較的ラフな工程では中国メーカーが攻勢を強めている印象です。
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