尾身提言に「日本型すり合わせ」の極致を見る。分断を恐れる国の限界
LIMO / 2021年7月3日 19時35分
尾身提言に「日本型すり合わせ」の極致を見る。分断を恐れる国の限界
先月6月18日の尾身会長の東京五輪への提言。そして、そこからの一連の動き。皆さんは、どう思ったでしょうか。自分は、もともと五輪ギライの開催懐疑派のため、ある種、傍観者的に眺めていました。尾身会長提言の感想としては、タイミングも内容も“よく調整して、段取りを踏んでるなぁ"といった印象でした。
今回は五輪開催へのプロセスについての雑感と、「もしアノ時に・・・」という“タラレバ話"です。
尾身会長提言は「日本型すり合わせ」の極致
尾身会長の東京五輪への提言ですが、やはり6月18日というタイミングは決定的に遅すぎましたよね。あらためて考えると、そのタイミングから根本的な議論ができるわけないと思います。
尾身会長の「パンデミックで五輪は普通でない」発言は6月3日の参院厚生労働委員会。18日の提言でも、当初は「五輪の開催の有無を含めて検討してください」といった文言が含まれていたと報じられています。しかし、菅首相がG7で国際的に五輪開催を表明、「意味がなくなった」として内容を削ったと言われています。
やはり“段取り"的な流れを感じますよね。尾身会長の“普通はない"発言の直後に、田村厚労相の“自主的な研究発表"発言もありました。アレもうがった見方をすれば、厳しめのところに球を投げ込んで、世間の反応をみて、その後の段取りを調整している気も。
結局、専門家も政治家も自分の職分に忠実で、あらかじめ定められた大きな目標に向けて、見事な“すり合わせ"をしているという印象でした。
なぜワクチンありきの五輪にしなかったのか
自分は五輪ギライの開催懐疑派ですが、それでも“やるならチャンとやった方がいい"とは思います。「世界への約束だから」という意見も、話の筋道としては理解できます。
最近、素人考えで思うのは、なぜ「ワクチンありきの五輪」にしなかったのかということです。実は、かなり以前に菅首相が「ワクチン接種、五輪の前提にせず」と、その方向は打ち消しているのですけれども。
「ワクチンありきの五輪」というのは、いまでも選手の約8割がワクチン接種済と言われていますが、これを100%にする。ワクチンが足りない国には、たとえば選手団分のワクチンを日本が提供する。ボランティアの方々も含めて関係者・報道陣もワクチン接種が前提。さらに有人観客試合にするならば、観客もワクチン接種者に限定です。
もちろんワクチンは万全ではないし、厄介な人流問題もありますが、リスクは低減する気がします。さらに素人感想を続ければ、あの“バブル方式"もよく分かりません。
バブルと言うならば、本来的にはバブルのなかで検査も医療も完結すべきでは。いまの五輪選手の濃厚接触者判定をバブルの外の日本の保健所がおこなう体制は、“ムリかも"とも思えるのです。
首相の「ワクチン接種、五輪の前提にせず」発言は今年(2021年)1月21日の衆院本会議の代表質問時でした。このへんのタイミングが基本方針策定のタイムリミットだった気も、ちょっとします。
分断を恐れる国ニッポン
1月の 「ワクチン接種、五輪の前提にせず」発言時に、首相は「ワクチンを前提としなくても安全・安心な大会を開催できるよう準備を進める」とも言っています。「そんなこと可能なの?」と思ったのを憶えています。
現在のコロナ対策は、ザックリ言ってしまえば“ワクチン頼み"です。別に日本だけでなく、世界中がそうだと思います。では、なぜ、ワクチンありきの五輪と言えないのかということです。
邪推にすぎませんが「なぜ五輪だけが特別扱いなのか。なぜ国民より五輪関係者のワクチン接種を優先するのか」という声が怖かったのかもしれません。結局、東京五輪は日本国民が一丸となって、喜び、そして熱狂するイベントであるべきという“信仰"が強すぎるのです。
そもそも、五輪推進派の人々にとって五輪は特別なものだと思うのです。ですから、その“特別性"を言語化して説明してくれればよいのですが。
前提として全日本国民が同時にワクチンを打てるわけではありません。今でも、医療従事者から始まって、高齢者へと優先順位は存在します。これに誰も文句を言いませんよね。
つまり五輪関係者にワクチンを優先する理由(大義)を説明すればよいだけだと思うのですが。もちろん議論は紛糾するでしょうし、最近のバズワード“分断"が発生したかもしれません。ただ、そういうことを恐れていると、事態は結局、泥沼化するということだと思います。
「日本人なら分かるでしょ」はもう通用しない
一連の流れのなかで党首討論もありました。あの時の首相の5分におよぶ半世紀前の“東京五輪回顧談"には、多くの人と同様に呆然としました。
アレが首相の強い希望だったのか、スピーチライターの意図なのか、非常に興味があるのですが、ベースにあるのは五輪の価値は「日本人なら分かるでしょ」という構造だと思います。
自分としては「日本人なら分かるでしょ」というような感覚は、もう絶滅に向かっている気がします。話が飛びますが、たとえばバブル期入社の企業戦士と就職氷河期世代の間には、確実に価値観の分断がある。
日本という国は同調圧力の裏返しとして、“過剰な分断を煽るな"という風潮が強いとも思うのですが、それがそもそもの間違いの気もします。分断を前提として、だからこそ、データに基づいたチャンとした議論が必要なのだと思います。
結局のところ、「すり合わせ」も「カイゼン」も、確かな大きな目標がある時代限定の手法だったのかもしれません。
最後に自分が五輪ギライの理由です。もう国をあげて盛り上がるイベントなんて古臭いと思います。もう、つくられた“大きな物語"は不要かと。各種スポーツの世界大会があればよい。「いや、五輪は人類の財産だ」というのであれば、ギリシアで固定開催した方が整合性がある気がするのですが。
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