日本の「ジョブ型雇用」は定着する? 導入に前向きな企業の目的とは
LIMO / 2021年7月25日 18時35分
日本の「ジョブ型雇用」は定着する? 導入に前向きな企業の目的とは
世間では、これからは“ジョブ型雇用だ"と、けっこう騒がしいですよね。たしかに、日立製作所、資生堂、富士通、KDDIなどの大手企業が、職務を明確にして年齢や年次を問わずに適切な人材を配置するジョブ型雇用への移行を加速させています。
実際のところ、日本企業のジョブ型雇用はどこまで進んでいるのでしょうか。最新レポートからみてみましょう。そして、ジョブ型雇用の世界に向けたサバイバル術も、少しだけ考えてみます。
57.6%の企業がジョブ型雇用導入に前向き
今年(2021年)6月25日にパーソル総合研究所から「ジョブ型人事制度に関する企業実態調査」が発表されました。この調査は企業規模300人以上の日本企業に勤める「経営・経営企画」「総務・人事」担当者で、自社の「人事戦略・企画」あるいは「人事管理」の動向を把握している者が対象です(全740名/20〜60歳男女)。
まず、一番気になる点、ジョブ型雇用の導入意向ですが、ジョブ型の導入状況・見通しをたずねたところ、57.6%が「導入済み」または「導入検討中(導入予定含む)」と回答。28.5%の企業は今後も「導入しない」としています。
過半数の企業が、ジョブ型雇用の導入に前向きの姿勢を示しています。個人的な感想としては“日本企業は想像以上に前向きだな"という印象です。では、導入/非導入の理由を見ていきます。
導入目的は「成果に合わせて処遇の差をつけたい」が多い
ジョブ型雇用を導入済み、または導入検討中の企業に導入目的を聞くと、「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」が最も多く65.7%。2位は「戦略的な人材ポジションの採用力を強化したい」(55.9%)、3位は「従業員のスキル・能力の専門性を高めたい」(52.1%)が、いずれも過半数の企業で挙げられていました。
一方で、ジョブ型を「導入しない方針」と回答した企業の理由としては、「今の人事制度が自社のビジネスに適合的だから」が57.3%と最も多く、「導入のメリットよりもデメリットが多いと思うから」(31.8%)、「導入のノウハウや知識が無いから」(26.1%)という答えが続きました。
ここで興味があるのは、企業がジョブ型雇用に積極的/消極的と分かれる、その違いはどこにあるのか、ということですよね。
レポートの分析紹介を続けると、ジョブ型導入済み企業には「職務給・役割給導入」の傾向が強く、「脱・年功主義的」な制度運用がなされていること。また、過半数の企業が「ほとんどの職務」に対して職務記述書を積極的に作成しているとのことです。
日本では職務記述書の作成がジョブ型雇用の障壁になっているとも言われていますが、当レポートへの回答企業全体では「ほとんどの職務に対して作成」している企業が35.3%であるのに対し、ジョブ型導入済み企業では54.9%と20ポイント近く高くなっていました。
導入検討企業はグローバル志向でIT化を重視
ジョブ型未導入企業のうち、「導入を検討している企業(検討企業)」と「今後も導入しない方針である企業(非志向企業)」の比較もレポートでは分析されています。検討企業はグローバル志向の傾向が強く、中途入社者の高い離職率に対する課題があるほか、デジタル化・IT化を重視している特徴などが見られるとのことです。
これは、多くの人が感じている実感通りの結果ではないでしょうか。ジョブ型雇用への転換は、ある種、時代の必然の流れとも言えますし、グローバル企業ではなおさらそうでしょう。業種や国境を超えて優秀なグローバル人材を採用するには、これまでの日本独特の雇用を見直さざるを得ないのかもしれません。
ただ日本において、ジョブ型雇用の浸透が急加速するかと言えば、若干のギモンはあります。ジョブ型雇用が進めば、労働市場はより流動化するはずですが、日本の場合「整理解雇4要件」に代表される判例法理が強固に確立されています。
本来的には、ジョブ型雇用の社会実現には、企業ごとの人事システムの刷新と同時に、解雇規制緩和や、それに対応する社会保障制度を含めた社会インフラの構造変革が重要なファクターになります。日本がそれらを含めて、根本的に変革するまでに、どのくらいの時間がかかるのか。
“いまさらジョブ型なんてイヤだよ"と思っている中高年の方々は、ご安心いただいてよいのかもしれませんね。やはり、前述の社会構造を含めた変革というのは、とてつもなく時間がかかりそうな気がします、日本では。
仕事のデキる派遣社員を目指すということかも!?
最後に、ジョブ型雇用の世界に向けたサバイバル術を少しだけ。よく、ジョブ型雇用のウェブ記事等のコメント欄に“正社員を廃止して、みんな派遣にするっていうことでしょ"というような意見が書き込まれています。
ジョブ型雇用への否定的な意見として書かれているわけですが、結構、的を得ている気もします。日本の派遣社員は総人件費の圧縮という「雇用調整弁」として機能しつつ、実はジョブ型雇用の先駆けの存在でもあったとも思えるのです。
自分がいる広告やウェブ業界の事例にすぎませんが、この業界の会社には正社員より“仕事のデキる"派遣社員が結構、たくさんいる。ですから、あなたが正社員で、あなたの職場にも優秀な派遣社員がいたら、その彼女(または彼)を参照するというのが、ジョブ型社会のイメージトレーニングになるのかもしれませんね。
日本の場合、正規/非正規の賃金格差が欧米と比較して、圧倒的に大きいという問題がありますが、これも“日本型・同一労働同一賃金"で解消を目指しています。さらに、近年の大手企業を中心に急加速する早期退職プログラム。これも、“非ジョブ型の中間管理職"はもう要らないとも解釈できます。
ジリジリとではありますが、日本がジョブ型社会に向けて進んでいるというのは確かだと思います。そのような社会が、どのようなビジョンを持つのか、メッセージ化して発信できる政治家が本来いれば良いのになあ、とも思う今日この頃でした。
参考資料
ジョブ型人事制度に関する企業実態調査(https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/activity/data/employment.html)(2021年6月25日、パーソル総合研究所)
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