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レジ袋有料化の現状と「プラスチックスープ」危機。プラごみの本当の課題とは

LIMO / 2021年9月6日 19時15分

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レジ袋有料化の現状と「プラスチックスープ」危機。プラごみの本当の課題とは

昨年7月1日にスーパーやコンビニなどのレジ袋有料化が始まって1年強。筆者は以前の記事「レジ袋有料化施策に意味はある? プラごみ削減と環境意識の向上につながるのか(https://limo.media/articles/-/18371)」で、レジ袋有料化の本当の狙いは我々のライフスタイルの転換にあることを述べました。

今回は有料化による変化や今後の課題、中でも耳慣れない「プラスチックスープ(プラスープ)」の問題について考えてみたいと思います。

レジ袋辞退率は増えているが…

コンビニ各社の調べによると、「レジ袋辞退率」すなわち買い物をした人のうちレジ袋を購入しなかった人の割合は以下のようになっていると報じられています。

セブン‐イレブン:75%(2020年7月~2021年2月の8カ月間)

ローソン:75%(2020年7月~2021年2月の8カ月間)

ファミリーマート:77%(2020年7月~2021年5月の11カ月間)

日本フランチャイズチェーン協会によると、有料化前のコンビニでの辞退率は25%程度といいますから、この1年間で辞退率は3倍ほど伸びたことになります。

ちなみに、セブン‐イレブンは8か月間で約8000トンのレジ袋を削減、ドラッグストアチェーンのトモズは1年間でレジ袋を約3600万枚削減(CO2排出量2200トンに相当)と発表。レジ袋の国内流通量は2019年の20万トンから、2020年は13万トンにまで減少したといいます。

一方、もともとマイバッグ(エコバッグ)使用の取り組みが進んでいたスーパーでも辞退率が急増。日本チェーンストア協会によると、これまで5割程度だったものが令和2年度には75.3%まで増えたのだそうです。

しかし、無料でレジ袋をもらう機会が減った反面、レジ袋と似た取っ手付きポリ袋の売り上げが有料化前の2倍以上になっているというごみ袋メーカーの調査結果もあります。このように、レジ袋の有料化でプラごみが減ったと簡単に言い切るのは難しく、さらなる検証が必要とされます。

次の問題は、レジ袋以外のプラごみをどう削減するか

筆者自身は以前からマイバッグを利用していたのですが、数年前は少数派でした。しかし、レジ袋有料化後は街なかでマイバッグを使う人を目にする機会がかなり増えたと感じています。

環境省が昨年12月に発表した「レジ袋使用状況に関するWEB調査」(対象:全国の15~79歳男女、2,100サンプル)の結果を見ても、レジ袋有料化でプラスチックごみへの関心が高まり、「マイバッグをさらに使うようになった」という人が75.1%。

また、「ごみの分別を以前より行うようになった」が22.9%、「海の生き物への影響を気にするようになった」が21.5%など、行動や意識が変化していることがうかがえます。

とはいえ、折角のこの機運を次につなげる動きが乏しいように思います。我が国で年間に排出されるプラごみは約900万トン、そのうちレジ袋はわずか2~3%で、環境負荷を減らす効果としては限定的だからです。

環境省の「全国10地点における漂着ごみ調査(平成29年度)」によると、人工物の漂着ごみでは、容積ベースでペットボトル、発泡スチロール、漁具等のプラスチック類の割合が高い地域が多くなっています。

重量ベースでは発泡スチロール、ポリ袋・菓子等の食品包装材、漁具等のプラスチック類の割合が高い地域が多く、個数ベースでは全ての地点でプラスチック類の割合が高く、10地点中6地点でペットボトルの割合が最も多いという結果でした。

最近では新型コロナパンデミックの影響による在宅時間やテイクアウトの増加で、家庭から排出されるプラごみが増加しているとの指摘もあります。したがって、レジ袋以外のプラごみをどう削減するかが次の大きな課題となるわけです。

マイクロプラスチックが漂う海

ところで、「プラスチックスープ(プラスープ)」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? 何とも奇妙な響きですが、これは環境汚染への警鐘を鳴らす造語で、「マイクロプラスチック(マイクロプラ)」が漂う海洋を指すものです。

米国の海洋環境調査研究者チャールズ・モアが、1997年、北太平洋の広大な海域にプラスチックの破片が集中して浮いている姿を見て(太平洋ごみベルト)、著書の『PLASTIC OCEAN』※で「プラでできたスープ」と表現したのがプラスープの出所だとされています。

※日本語翻訳版『プラスチックスープの海』(チャールズ・モアとカッサンドラ・フィリップスとの共著、海輪由香子訳、2012年/NHK出版)

レジ袋を詰まらせて窒息死する海鳥、漁網を飲み込んで死ぬクジラ、プランクトンと間違えてマイクロプラを食べる魚、鳥や魚の胃から発見されるプラ片など、本書は大量のプラごみが海洋を汚染し、海洋生物の大量死につながっている危機を生々しく伝えた警告書といえます。

このマイクロプラの主な発生源は、海洋に流れ出たレジ袋、コンビニの弁当箱、ペットボトル、漁業用のブイや漁網、発泡スチロールなどのプラごみです。それが波などの機械的な力および太陽光(特に紫外線)によって劣化崩壊し、5mm未満のプラ片や粒子になったものを指します。

そして我が国は、1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量が米国に次いで2番目に多いとされているのです(UNEP国連環境計画報告書「Single-Use Plastics: A Roadmap for Sustainability」2018年)。リサイクルの仕組みや手法も進化してはいますが、海に流れ出してしまったプラごみがあることを示す調査があります。

マイクロプラ汚染。海は使い捨て社会のゴミ捨て場

今年(2021年)3月下旬、房総半島沖約500キロの水深6000メートルの海底で大量のプラごみが見つかったと、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究チームが発表しました。

プラごみの密度は、1平方キロメートルあたり4561個。大量のポリ袋のほか、風船、歯磨き粉のチューブ、昭和59年に製造されたチキンハンバーグの袋も見つかるなど、自然界で分解されず、環境中にいつまでも残り続けるプラごみの厄介さを改めて感じさせます。

また、多摩川河口のハゼ、貝類、蟹などの生物からマイクロプラが検出されたり、鎌倉の海岸では2018年、死んだシロナガスクジラが打ち上げられ、その胃の中から大量のプラごみが見つかったこともニュースになりました。

さらに、プラごみにはプラを柔らかくして加工しやすくする可塑剤(食品用ラップフィルムが柔らかい理由)、紫外線でプラが壊れないようにする紫外線吸収剤、燃えにくくする難燃剤などの添加物が広く使われ、それらの中には、環境ホルモンと呼ばれる種類の化学物質が含まれます。

こうした添加剤が食物連鎖を通して人類にまで影響を及ぼすことを懸念する声もあります。マイクロプラスチック汚染の研究者である東京農工大の高田秀重教授によると、海鳥が食べていたプラスチック片から、紫外線吸収剤や臭素系難燃剤などの添加剤が検出されたといいます。

また、こうしたプラスチックから添加剤が移行して、海鳥の体内に蓄積することはすでに確認されているため、上記の結果とあわせて、食べたプラスチックから溶出した添加剤が、海鳥の体内に蓄積する実態が明らかとなったとされています。

環境ホルモンを溶出するプラスチックを、海洋生物が食べることによる漁業資源への影響も懸念されるところです。

増えすぎてしまったプラごみの削減に向けて

なぜ、これほどまでにプラスチックが使われてきたのか、それは、便利で豊かな生活を求める人類の飽くなき欲望と、化学研究や化学工業の進歩による化学物質の豊富な供給が結びついた結果だと言えます。

現在利用されている多種類の合成樹脂や高分子化化合物は、そのほとんどが1930年代に発見されています。ちなみに、レジ袋のポリエチレンは、1933年にイギリスのICI社によって発明されたものです。それ以後、人類はひたすら便利なプラ物質を作り、使うことだけを考えてきたと言っても過言ではないでしょう。

一方、ポリエチレンなどは夢のような化学物質ともてはやされ、世界中で広く使われてきたものの、そのあまりにも多い使用量によって、地球に害をなす「ごみ物質」に変貌してしまったのも事実。

こうした”夢の化学物質”が、その後、人類、動物、地球に害を及ぼすとして消え去った例は過去にも数多くあります。この点は機会があれば別の稿で述べたいと思います。

では、増えすぎてしまったプラをどう削減するのか。大きな課題を人類は背負ってしまったと言えます。プラに頼らない社会を創るには、我々消費者の意識改革はもちろんのこと、メーカーや政治、行政を含めた総力戦の取り組みが必要です。

外食産業ではプラの食器から紙や木製などに切り替える動きも出始めていますが、たとえばペットボトル飲料もメーカー側が紙パックやアルミ缶への切り替えを進め、消費者側もそれを選ぶ意識が必要になるでしょう。

マイバッグがこれだけ浸透したのですから、マイボトルへの転換を誘導する仕掛けづくりも有効と思われます。50年以上前の量り売りには戻れないにしても、スーパーやコンビニなどでボトルに注ぐ形での販売はできないものでしょうか。

プラごみによる環境汚染は、化学の進歩による災害「化学災」と呼べるかもしれません。今後、使い捨てプラの過剰な使用を抑制し、二酸化炭素の排出量や海洋プラごみを削減することが環境保全には不可欠です。

レジ袋有料化は、生活のなかで「使う必要がないプラ」を減らすという意識改革につながっているようです。何気ない買い物ひとつが地球環境にどのような影響を与えるか、考え直さなければいけないことは多いでしょう。

参考資料

令和2年11月レジ袋使用状況に関するWEB調査(http://plastics-smart.env.go.jp/rejibukuro-challenge/pdf/20201207-report.pdf)(環境省)

全国10地点における漂着ごみ調査(平成29年度)等の結果について(https://www.env.go.jp/press/files/jp/112531.pdf)(環境省)

房総半島沖の水深6,000m付近の海底から大量のプラスチックごみを発見(https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20210330/)(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

Single-Use Plastics: A Roadmap for Sustainability(https://www.unep.org/ietc/ja/node/53?%2Fresources%2Fpublication%2Fsingle-use-plastics-roadmap-sustainability=) (UNEP国連環境計画報告書 2018年)、プラスチックを取り巻く国内外の状況 第4回資料集(http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-04/y031204-s1.pdf)(環境省)

海鳥が食べたプラスチック片から添加剤を検出(https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2019/20190819_01.html)(東京農工大学)

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