つい地雷を踏んでしまう人のための「共感力・信頼感」のレッスン
LIMO / 2021年8月31日 18時35分
つい地雷を踏んでしまう人のための「共感力・信頼感」のレッスン
プロコーチが教える「心の知能指数」の高め方
「その気持ち、わかるよ」。励まそうとして「わかる」といったつもりが、逆に「あなたに私の気持ちがわかるわけがない!」と、心を閉ざされてしまった。
「上司からの指示がイマイチ……別のやり方の方がいいのでは?」と思った時、建前で「わかりました、ひとまずやってみます」と答えるものの、結局は「ひとまずって何だ! 不満でもあるのか!」と、むしろ怒られてしまった。
こんな経験はありませんか? 相手を気遣おうとしたのに、かえって怒らせてしまう人は、「共感」や「信頼」とはどのようなものなのか、誤解をしている人が多いように思います。もし、真の意味で相手に「共感」し、信頼関係を築いていくことができれば、仕事も日々の生活も、今よりもずっと充実したものになるはずです。この記事では、拙著『心の知能指数を高める習慣』より、「共感力」と「信頼感」を高める方法についてお伝えします。
「共感」するのに人の気持ちが「わかる」必要はない
「共感」と聞いて、「私は人の気持ちがわからないから……」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、そう思っても大丈夫です。実は、共感において、必ずしも人の気持ちがわからければいけないということはありません。重要なのは、相手に共感できている事実よりも、むしろ、相手のことを理解しようとする態度を持っていることなのです。
現在、地球上には、70数億人の人間がいますが、誰ひとりとして同じ人間はいません。たとえ双子であっても、違う経験をするし、違う性格、違うものの見方を持っています。だから、いくら自分に近い感覚を持っている人でも、いつも共感できるとは限らないのです。
ここで大事なことは、相手の気持ちをきちんと理解しようとする態度を持つこと。「わかる。わかる」ではなく、「わかりたい。わかりたい」という他者理解への態度なのです。
この態度を持つ習慣ができてくると、おのずと相手への理解を深めるための質問をし、相手の話をきちんと聴こうとするようになります。
人は、自分や自分のしていることに興味関心を持って、話を聴いてくれる相手に心を開こうとします。「わかる。わかる」の共感があるかどうかにかかわらず、個々の違いを越えて、相手が「わかりたい。わかりたい」とこちらのことを一生懸命に理解してくれようとしている姿勢に対して、心が開かれていくのです。
本当の意味での共感力があるかどうか
もっといえば、「わかる。わかる」の状態は、話している相手よりも、どちらかというと共感している自分自身に意識がいっている状態です。
相手の本当の気持ちをきちんと理解することなく、こっちが勝手に共感できていると思って、「その気持ちよくわかります」と伝えてしまうような場合、相手との間に心の橋はかかりません。
一方、「わかりたい。わかりたい」は、自分自身よりも、話している相手へより意識が行っている状態です。言ってみれば、共感的に理解をしようとする態度がより深い状態なのです。これは、本当の意味での共感力がある状態と言っていいでしょう〈別図版1参照〉。
共感力が高まってくると、相手のことを「わかりたい。わかりたい」という態度を取り、生きてきた環境や文化の違い、人種の違い、男女の違い、年齢の違いなどを越えて、相手との心の橋をかけることができるようになってきます。
共感力は、ダイバーシティという、これからのビジネスで重要度がさらに増してくるテーマにも必要とされる力なのです。
コミュニケーションにおける4つのモード
さて、人間関係において、人はさまざまなモードになります。代表的なものを挙げると、本音で接するのか、建前で接するのか。そして、ポジティブに接する(積極的な働きかけをする)のか、それともネガティブに接する(消極的な働きかけをする)のか。
一番望ましいのは、本音でポジティブなモードです。自分も相手も尊重しながらこのモードに入ると、いわゆる「アサーティブ」な状態になります。
アサーティブとは、相手の気持ちを尊重しつつ、自分の意見や要望を率直に主張できる状態のこと。自分の独りよがりなエゴを押し通そうとする態度ではなく、自分と相手の双方のため、あるいは双方の共通の目的のため、という視点を持って、率直で前向きな主張をすることです。
人との関係においては、このモードに入る割合を増やしていきたいのです。
たとえば、上司から仕事の進め方の指示があり、その進め方に何らかの理由で気乗りがしない状態だとします。そして、自分では別の進め方のほうが、成果が上がる可能性があると感じています。そんなとき、各モード別に考えると、こんな答え方になります。
・本音でポジティブ
「ご指示をいただいたAという仕事の進め方は、自分にはうまくできないと感じています。できればBのやり方で進めさせていただけませんか?」
・建前でポジティブ
「ご指示をいただいたAという仕事の進め方で、何とかがんばります」
・本音でネガティブ
「ご指示をいただいたAという仕事の進め方は、自分にはうまくできないと感じています。ちょっとキツいですね。この進め方」
・建前でネガティブ
「ご指示をいただいたAという仕事の進め方で、とりあえずはやってみます」〈別図版2参照〉
本音で付き合うことが本当の信頼関係を築く
本音でポジティブでは、「うまくできないと思う」という本音を伝え、「できればBのやり方で進めさせていただけませんか?」とこちらの要求もしっかりと伝えています。
建前でポジティブでは、本音を抑えながらポジティブに応えるという感じで、自分の気持ちに正直になっていない状態です。
本音でネガティブでは、本音はきちんと伝えるものの、ネガティブな印象を残す言葉で締めくくっています。
建前でネガティブは、本音も伝えず、やる気の薄い言葉を放ってしまっています。
あなたが上司の立場だったら、これらを聞いて、どう感じるでしょうか? 建前でポジティブなモードの人は、とりあえず動いてくれるので、マネジメント側としては一見楽に感じます。
一方、本音でポジティブな人は、上司としてちょっとやり取りが大変な場合もありますが、実はこちらの方が、仕事の成果をより上げてくれる可能性が高いでしょう。実際のところ、本音でポジティブな人に対してのほうが、頼もしさを感じたり、仕事を信頼して任せることができると感じたりするのではないでしょうか。
日本の社会は建前社会と言われています。実際、会社や組織においてのコミュニケーションを見渡してみると、この「建前でポジティブ」のモードになってしまう人がかなり多いように見受けられます。
本音を言うことで、相手から「立場をわきまえないやつ」とか「図々しいやつ」、「生意気なやつ」と思われるという、「どう思われるか?」の恐れが、つい建前でコミュニケーションをしてしまう要因のひとつです。
しかし実際は、相手が体裁を取り繕うのをやめたときほど、私たちはその人の言葉を信じやすくなり、連帯感が増し、相手をおもんぱかる気持ちも出てきます。体裁を取り繕うのをやめて本音で付き合うことが、うわべだけでなく、本当の信頼関係を築くことために肝心なことです。
コツは「事実と評価を切り離す」こと
「理屈はわかるけど、実際、いろいろなしがらみの中で、本音でポジティブにはなかなかなれないよ」とおっしゃる方もいると思います。そこで、本音でポジティブな方向に自分を持っていけるやり方をご紹介します。
まず相手との間に起こっている事実をしっかりと捉えることが肝心です。「ファクトをしっかりと捉える」というのは、ビジネスにおいても大事なことで、事実と評価をごちゃ混ぜにしてしまう人は、適切な判断を下すことができないので、仕事がうまくいく確率が低いことも想像がつくでしょう。
では、「評価をせずに事実を捉える」というのは、具体的にどういうことなのでしょうか? 先に挙げた、上司から仕事のやり方の指示があったケースを例に取りましょう。自分の感情をきちんと表現しているのはどれでしょうか?
(1)ここできちんと自分の意見を言えないようでは、ダメだと思う
(2)自分のやり方を押し付けてくる上司は強引だと感じる
(3)上司から提示されたのが、自分に合ったやり方でないことに焦っている
(1)は自分に対して思っていることです。感情を表現してはおらず、「ダメ」という言葉で、自分に対する評価をしています。(2)も「感じている」と言っていますが、実は感情表現ではなく、「強引だ」という上司に対しての批判を言っています。(3)は「焦っている」ということがこの人の感情です。これが正解です。
この焦りの感情の奥には「このやり方をやってうまくいかなかったらどうしよう」という恐れの感情があります。自分に対しての評価や相手に対しての批判ではなく、「焦っている」というのが、今、自分が持っている感情であることが明確にわかると、少し客観的になっていきます。
このときの焦りは、上司から指示された仕事の進め方では、自分はうまくできないという恐れから来る焦りです。この感情が教えてくれる、自分が必要としていることは、「自分に合ったやり方で、安心しながら仕事を進められること」です。
ですから、これを「ご指示をいただいたAという仕事の進め方は、自分にはうまくできないと感じています。できればBのやり方で進めさせていただけませんか?」と、必要としていることを本音でポジティブに相手に要求すればいいのです。
そして、この場合の事実は、本音でポジティブに答えたほうが、上司側からしてもあなたに頼もしさを感じたり、信頼して仕事を任せることができるという印象になったりするということです。
なぜなら、本音でポジティブな態度は、「自分の体裁を守れるか?」というような恐れを越える勇気を持って、上司(相手)との共通目的である「仕事の成果」や「仕事の達成」に対して、より真摯に向き合う態度だからです。
コミュニケーションの仕方を変えれば、仕事も人生もうまくいく
「どうしてこんなに人を怒らせてしまうんだろうか」と、思い悩む必要はありません。今回ご紹介したように、コミュニケーションに対する考え方と、気持ちの伝え方を少し変えるだけで、人間関係はうまく回り始めます。
「すべての悩みは対人関係の悩みである」といったアルフレッド・アドラーの言葉にあるように、対人関係の悩みが減れば、自ずと仕事も楽しくなり、清々しい気持ちで毎日を送ることができるはずです。ぜひ、今回ご紹介した方法を日々の生活の中で役立てていただければと思います。
■ 三浦将(みうら・しょうま)
人材育成・組織開発コンサルタント/エグゼクティブコーチ
株式会社チームダイナミクス 代表取締役
英国立シェフィールド大学大学院修了(MSc : Master of Science 理学修士)。認知心理学、アドラー心理学、コーチングコミュニケーション等を基にした独創的な手法で、リーダーシップ研修、チームビルディング研修、習慣力研修などをはじめ、国内外の企業の人材育成をサポートしている。エグゼクティブコーチとして、企業経営層やオリンピック日本代表アスリートなど、クライアントのさらなるステージアップを次々に実現している。累計30万部を超える習慣力シリーズ『自分を変える習慣力』『相手を変える習慣力』(クロスメディア・パブリッシング)など、著書多数。
(https://www.amazon.co.jp/gp/product/4295405884/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4295405884&linkCode=as2&tag=cmpubliscojp-22&linkId=d6751bc1e460240cb84d3c14372232f3)
三浦氏の著書:
『心の知能指数を高める習慣(https://amzn.to/3j1T59t)』
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