「働けるうちは働きたい」シニア世代のお金事情~高齢社会白書から
LIMO / 2021年9月5日 20時15分
「働けるうちは働きたい」シニア世代のお金事情~高齢社会白書から
内閣府が全国の60歳以上の男女を対象に行った「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(令和2年度)によると、経済的な理由で日々の暮らしについて「困っていない」(「困っていない」と「あまり困っていない」の合計)と感じている人の割合は全体の3分の2近い63.6%。
いま老後を送っている世代と現役世代では時代背景が大きく異なるため、一概に比較することは難しいですが、筆者も含め多くの現役世代が老後のお金に不安に感じているのとは対照的な結果ではないでしょうか。
では、シニア世代の所得や資産は実際どのくらいあるか、今回は内閣府が各省のデータをもとに作成した「令和3年度版高齢者白書」から、高齢者のお金事情を見てみましょう。
高齢者世帯の平均所得金額は?
まずは所得について。「高齢者世帯」の年間所得平均は312.6万円で、全世帯から高齢者世帯と母子世帯を除いた「その他の世帯」の平均664.5万円の約半分ほどです。ちなみに「全世帯」では552.3万円です。
また、世帯人数が少ないほど生活コストが割高になることを調整して算出された「等価可処分所得金額」の平均でも、全世帯が290.0万円のところ高齢者世帯は218.5万円。その他の世帯の313.4万円の7割ほどになっています。
(注1)厚生労働省「国民生活基礎調査」(令和元年)のデータによる平成30(2018)年1年間の所得。
(注2)高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、またはこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯。
(注3)等価可処分所得:世帯の可処分所得(所得から税金や社会保険料などを除いたもの)を世帯人員の平方根で割ったもの。
所得階層別分布と中央値は?
全世帯と高齢者世帯の所得階層別分布を見てみると、高齢者世帯では「150~200万円未満」が最も多く、300万円未満の世帯で約6割を占めています(図表1参照)。
また、先述のように高齢者世帯の所得平均値は312.6万円ですが、中央値は255万円(全世帯の中央値は437万円)です。平均値は極端な値に影響されやすいため、数値を低いものから高いもの(あるいはその逆)へと順番に並べたとき、ちょうど真ん中にくる中央値のほうがより実態を反映していると考えられます。
そして、公的年金・恩給を受給している高齢者世帯では、所得の全てが公的年金・恩給という世帯が約半数(48.4%)になっています。老後も働くシニアが増えてきてはいるものの、大半の高齢者世帯では老後の収入源の柱は公的年金であることに変わりはないようです(図表2参照)。
高齢者世帯の貯蓄額・負債額は?
次に、高齢者世帯の資産について見ていきます。二人以上の世帯で(以下、すべて同様)世帯主の年齢階級別の貯蓄現在高と負債現在高を見ると、貯蓄現在高は年齢が高くなるにつれ増加し、60代で2330万円と最も多くなります。一方、負債現在高(ほとんどが土地・住宅にかかる負債)は30代の1395万円をピークに減少していきます(図表3参照)。
貯蓄額から負債額を引いた「純貯蓄額」は、世帯主が30歳未満の世帯で▲523万円、30代▲666万円、40代▲48万円、50代1052万円、60代2080万円、70歳以上2183万円。住宅ローンを返し終わるまでは負債が貯蓄を上回る状態が続くことがわかります。
一方、持ち家率は、年齢階級が高くなるほど増加し、60~69歳世帯で91.9%、70歳以上の世帯では92.2%ですから、老後の高齢者世帯の多くは自宅を所有していることになります。
また、貯蓄現在高の分布を二人以上世帯全体と60歳以上の世帯で比べてみると、貯蓄額が少ないグループと多いグループで差が大きいのが見て取れます。
2500万円以上の貯蓄を有する世帯では、世帯主が60歳以上の世帯が32.0%で2人以上世帯全体の22.3%を約10ポイント上回っています。逆に貯蓄が300万円未満の世帯では、60歳以上世帯は15.8%で、2人以上世帯全体の22.0%より6ポイントほど少ないという結果です(図表4参照)。
ちなみに、貯蓄現在高の中央値※は、世帯主が60歳以上の世帯が1506万円で、全世帯の1033万円の約1.5倍になっています。
※貯蓄「0」世帯を除いた世帯を貯蓄現在高の低い方から順番に並べたときに、ちょうど中央に位置する世帯の貯蓄現在高。
働けるうちはいつまでも働きたいと考える高齢者
最後は、定年退職後の就業についてです。労働力人口に占める65歳以上の割合は年々伸びており、2020年には13.4%になっています。ちなみに、10年前の2010年は8.8%でした。
また、内閣府による高齢者への意識調査で、現在収入のある仕事をしている60歳以上の人に何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいかと聞いたところ、約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答。70歳くらいまでもしくはそれ以上という回答と合計すると約9割で、高齢者の就業意欲の高さがうかがえる結果となっています。
男性は60歳を境に非正規雇用が一気に増加
男女別、年齢階級別に就業状況を見ると、男性の就業者の割合は55~59歳で91.3%、60~64歳で82.6%、65~69歳で60.0%。女性は55~59歳で72.8%、60~64歳で59.7%、65~69歳で39.9%となっています。
ただし、役員を除く雇用者のうち非正規の職員・従業員の比率を見ると、男性は55~59歳で10.6%ですが、60~64歳で46.7%と、60歳を超えると一気に非正規雇用の比率が上昇。65歳を超えると約7割が非正規雇用になります(図表5参照)。
一方、女性の場合は、55~59歳で60.2%、60~64歳で74.9%、65~69歳で84.1%と、60歳未満でも非正規雇用の比率が約6割あるため、男性に比べると上昇率は大きくありませんが、やはり60歳を境に非正規の職員・従業員の比率が高まります(図表6参照)。
おわりに
高齢社会白書にまとめられたデータでは、高齢者世帯の約6割は年間所得300万円未満となっています。とはいえ、現在の高齢者の持家率は9割以上で(二人以上世帯)、かつ老後に必要な貯蓄を保有していることも示されています。
そして、年々働くシニアが増えており、その多くは非正規雇用ではありますが、老後に生活費を稼ぐことも可能になっています。現役世代にとって将来はやはり不安かもしれませんが、本記事で老後のお金まわりについてのイメージを少しでも掴んでいただき、今後のマネープランの参考にしていただけたらと思います。
参考資料
令和3年版高齢社会白書(全体版) (https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/pdf/1s2s_01.pdf)(内閣府)
2019年 国民生活基礎調査の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf)(厚生労働省)
家計調査年報(貯蓄・負債編)2019年(令和元年)貯蓄・負債の概要(https://www.stat.go.jp/data/sav/2019np/gaiyou.html)(総務省統計局)
労働力調査 令和2年(https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf)(総務省)
外部リンク
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