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企業の現預金に課税しても「賃上げや設備投資」にはつながらない

LIMO / 2021年9月19日 18時45分

企業の現預金に課税しても「賃上げや設備投資」にはつながらない

企業の現預金に課税しても「賃上げや設備投資」にはつながらない

企業の現預金に課税しようという案が出ていますが、それで賃上げや設備投資を誘発することは困難だ、と筆者(塚崎公義)は考えています。

高市氏は現預金への課税を検討している模様

自民党の総裁選挙に高市早苗議員が名乗りを上げています。同氏は企業の現預金への課税も検討しているようなので、それについて筆者の考えを記してみました。ただし、本稿は「現預金への課税」というキーワードに反応したもので、同氏を支持するわけでも批判するわけでもありませんので、あしからず。

ちなみに、「財政再建のために増税が必要だ」「不況期に課税するのはケシカラン」といった議論は別途行うとして、本稿では仮に「現預金に課税された税金分は、同額を消費税の減税(または増税の見送り)に使う」ということにします。

企業が現預金を持ちすぎている可能性は大

日本企業は莫大な現預金を持っています。おそらく、適正な水準を大きく上回っているのだろうと思います。もっとも、適正な水準がどこであるのかというのは難しい問題です。現預金を減らせば、企業の利益率は上がるけれども倒産の可能性が高まるからです。

現預金の適正水準については、投資家は低くても構わないと考え、経営者は高い方が良いと考える傾向にあるわけですが、これについては別の機会に論じることにします。

とりあえず本稿では、日頃の取引に必要な水準プラス資金繰り倒産を防ぐために必要な水準ということにしておきましょう。

バブル崩壊後の長期低迷期、日本企業は投資機会に恵まれませんでした。一方で、利益の方はそれなりに稼げていました。儲かったら賃上げをするという日本的経営が見直され、企業は株主のものだから儲かったら株主に配当するか内部留保するという企業が増えてきたからです。

そうした中で企業は余剰資金を大量に抱えていますが、銀行借入の金利は低いので、企業としては急いで返済するインセンティブが乏しく、一方で銀行は貸出先が不足しているため融資残高を減らしたくないという強い意向を企業に伝えているので、企業は余剰資金で借入を返すこともせず、現預金に積み上げてあるということでしょう。

そこに目をつけて、現預金に課税すれば企業が余剰資金を賃上げや設備投資に使うだろうという発想は、当然あり得ると思います。しかし、結論から言えば、そうはならないでしょう。

現預金に課税したら余剰資金は何に使われそうか

現預金に課税すれば、現預金は大幅に減るでしょう。余剰な部分は借金の返済に使われるはずです。借入金利が低くても、銀行が難色を示しても、税金を払うのは嫌でしょうから。

必要な現預金も、形を変えて保有されるかもしれません。たとえば、満期まで保有する目的で国債を保有しておき、万が一の場合には当初の目的を変更して売却して資金繰りに充てるというわけですね。

満期まで保有する目的で長期国債を保有すれば、それは財務諸表上は固定資産に計上されるため、現預金課税の対象から外れるわけですが、万が一の時にはいつでも売れるので資金繰り倒産を防ぐという目的は果たせるからです。

もちろん、一定の現預金は残さざるを得ませんが、それは必要だから残すのであって、必要最小限の金額にとどまるはずです。

現預金を賃上げや設備投資に使わせるのは困難

現預金に課税をしても、企業が現預金を賃上げに使う可能性は低いでしょう。現預金を使って賃金を100円上げれば利益が100円減りますが、それによって現預金が100円減っても納税額は数円しか減らないからです。

上記のように最近の企業は安易には賃上げをせず、株主への配当等を優先しているわけで、現預金への課税が賃上げを誘発するとは考えにくいと思います。

労働力不足で賃上げをしないと労働力が確保できないとか、インフレで労働者の生活が苦しいから賃上げを要請されたといった場合には、賃上げがやむを得ない選択肢として浮上するのでしょうが、その場合には現預金に課税してもしなくても、賃上げが実施されることになるわけで、現預金課税の効果とは言えませんね。

設備投資の方は、まだ可能性があるかもしれません。現預金を使って期待利益率がマイナス1%の設備投資を100万円実施すれば、利益は1万円減りますが、それによって現預金が減り、納税額が数万円減るかもしれないからです。

しかし、上記のように借入金を返済したり長期国債を保有したりすることで現預金が容易に減らせるのであれば、わざわざ期待利益率がマイナスの設備投資を実施する企業があるとも思われません。

ちなみに、期待値マイナスの投資と記しましたが、儲かる確率の方が少しだけ高いけれども経営者が臆病(慎重?)なので、失敗した時のリスクを嫌って投資しないといった案件を含みます。

現預金課税によって皆が一斉に現預金を用いて設備投資をするようになり、それが景気を押し上げて企業経営者の投資マインドを強気に転換させてくれれば良いのでしょうが、なかなかそこまで設備投資が盛り上がることは期待できそうにありませんね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事リスト(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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