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令和版所得倍増計画という非現実。ちっとも新しくない「新しい日本型資本主義」

LIMO / 2021年10月16日 20時15分

令和版所得倍増計画という非現実。ちっとも新しくない「新しい日本型資本主義」

令和版所得倍増計画という非現実。ちっとも新しくない「新しい日本型資本主義」

岸田新総理が打ち出した「令和版所得倍増計画」。果たしてこれを信じている人はいるのでしょうか。結論を先に言うと、ほとんどいないと思います。実際のところ、総理自身が雑誌のインタビューで“現実的ではない"と語っていますし。

今回は「新しい日本型資本主義」「成長と分配」「新自由主義からの転換」「中間層復活」など、どんどん出てくるキーワードについて考えてみます。総選挙も近いですからね。

所得倍増はあくまでイメージ

まず問題の総理インタビュー記事から。先月のダイヤモンド編集部の総理単独インタビューから引用します。

「もちろん低成長が続く現代において、所得を『2倍』にするのは、現実的とはいえません。ただ、『倍増』というメッセージを打ち出すことで、企業や国民の意識を変えていきたいと考えています」。

ちょっと、ひどい話かもしれませんね。テレビニュースでこの発言を流すときは、“発言内容はイメージです"とテロップを入れて欲しい気もしました。

ただ、よく考えれば所得倍増なんて到底ムリな気もしますから、これは良しとしましょう。

そもそも、ネタ元の池田勇人内閣「所得倍増計画」も、当時の高度成長下の日本では、たとえば1959年の実質成長率は11.2%。10年たてば所得の倍増は、ほぼ自明だったわけです。「所得倍増計画」という政策で所得が倍になったわけではありません。

日本の資本主義はもう充分に日本独自型

次に「新しい日本型資本主義」についてみていきます。まず“日本型"について。

日本型の内容はさておき、まず文脈として考えてみます。これは“いまの日本の資本主義は国際標準的で行き過ぎ"、だからこそ“日本型の独自の資本主義をつくろう"というのが自然な文脈だと思います。

しかし、前提として、いまの日本の資本主義が果たして国際標準的でしょうか。実態は逆で、現状は、すでに充分すぎるほど日本独自型でドメスティックだと思います。

終身雇用・年功序列賃金から完全に抜け出せない硬直した雇用制度。産業構造は垂直統合型(一社完結型)がまだまだ強い。過去のモノづくりの栄光の遺産があるので、しょうがない面もありますが、要はガラパゴス資本主義だと思います。

個人的には、すでに充分に日本独自型の資本主義を、さらに日本型にするというのは違和感しか感じません。方向性が真逆ではないでしょうか。

「新しい日本型資本主義」の内容についてみていきます。キモは成長と分配の好循環にあるのだと思います。そのために「新自由主義からの転換」をするという流れです。

新自由主義の国とは、元祖の英米を中心に欧米諸国を指しているのだと思います。では、それらの国々は分配政策を全く否定しているのでしょうか。むしろ最近は、分配寄りに舵を切っている気がします。

ちっとも新しくない「新しい資本主義」

現在はアメリカで富裕税が議論され、国際的に法人税の税率引き上げが検討されている時代です。この流れがトレンドですから、分配に舵を切るのはちっとも新しくありません。ただ、これも良しとします。“新しい"はキャッチフレーズみたいなことかもしれませんし。

ひっかかるのは「新自由主義からの転換」です。これが、あやしい気がします。一例をあげます。小泉政権以降の日本が新自由主義だったとしても、それは海外ほど徹底したものではありませんでした。

そんな日本で正規社員と非正規社員の賃金格差が海外と比較して圧倒的に大きい。これはどういうことなのでしょうか。要は“新自由主義をとりあえずワルモノにしとくか"という安易な発想が見え隠れします。

新自由主義を代表する学者ミルトン・フリードマンに「負の所得税」という考え方があります。これは一種の給付付き税額控除であり分配施策です。つまり新自由主義が分配を否定しているわけではありません。

さらに、ひっかかるのは「中間層復活」です。そんなことが果たして可能なのでしょうか。まず前提として、日本の“一億総中流"を支えたのは栄光のモノづくりでした。

しかし、「カイゼン」や「すりあわせ」に代表される精緻な製造プロセスの優位性はなくなりつつあります。アップルの製造プロセスは、水平分業でほとんど台湾ですからね。この流れが“新しい資本主義"の気もします。

日本の新自由主義はそもそもニセモノだった

ものすごく大雑把にいうと、製造業という多くの人々が参加可能な産業が衰退して、開発・知財、金融やITといった分野が花形産業になれば、どうしても格差は拡大します。“給料の高い仕事"が少なくなるわけですから。

つまり格差拡大を前提とすると「中間層復活」は絵に描いた餅ということです。目指すべき政策目標は「中間層復活」ではなく、最低限の生活が可能な「最低保証」ではないでしょうか。さきほどの負の所得税もBI(ベーシックインカム)も、そういった方向性を持っています。

最後に脳科学者の茂木健一郎氏のユーチューブチャンネルの大変興味深い発言を紹介します。動画のタイトルは「日本型の『新自由主義』はそもそもニセモノだった」。以下・引用します。

日本の新自由主義は「実際には新自由主義でもなんでもなくて、“不自由主義"だった」。そして「残念なことに、既得権益の構造を強めるだけになってしまった」。

さらに「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のような世界で活躍する企業を生み出せなかった。非常に残念な、改革の失敗だった」とも語っています。

個人的には、この茂木氏の分析には全面的に賛成します。ただ、茂木氏が総理の政策転換を“歓迎"するとしているのは微妙なところですね。

ただでさえ分かりづらい話を、論点整理もせず改変して何か新しいものが生まれるのでしょうか。ちょっと、そんな気もしました。

参考資料

岸田文雄氏に聞く「所得倍増計画」の全貌、分配でアベノミクスを“進化”(https://diamond.jp/articles/-/281679)(ダイヤモンド・オンライン、2021年9月8日)
茂木健一郎氏、日本型の新自由主義は失敗 岸田首相の政策転換を「歓迎」(https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202110070000406.html)(日刊スポーツ、2021年10月7日)
日本型の「新自由主義」はそもそもニセモノだった(https://www.youtube.com/watch?v=RJQRJ83OepQ)(茂木健一郎のもぎけんチャンネル、2021年10月7日)

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