ESG投資における金融機関が考える課題とは何か
LIMO / 2021年10月18日 8時30分
![ESG投資における金融機関が考える課題とは何か](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_25558_0-small.jpg)
ESG投資における金融機関が考える課題とは何か
資産運用業界において「ESG」、または「ESG投資」というキーワードはかなり耳にするようになってきている。ESGそのものはE(環境)、S(社会)、G(統治)の英語の頭文字をとったもの。
2006年に国連が機関投資家に対してPRI(責任投資の原則、責任投資原則)を発表し、署名の促進を図ったことにより、以降、多くの機関投資家や金融機関などが署名をし、ESG投資の流れが加速している。
また、日本の年金運用の一部を担うGPIF(年金積立管理運用独立行政法人、Government Pension Investment Fund)も2015年にPRIに署名し、年金運用業界においてもすでにESGは無視できなくなっている。
今回はそのGPIFにより2021年8月に開示された「2020年度ESG活動報告」や事業会社IRへの取材をもとに、機関投資家がどのような課題を認識しているのかについてみていきたい。
PRIが考える重大なESG課題とは
ESGの課題については、E、S、Gのそれぞれの領域で様々な課題があるが、実は当のPRIでもっとも重視している課題はEの中での「気候変動」である。
PRIの「責任投資のビジョン」の中で、PRIマネージングディレクターのフィオーナ・レイノルズ氏は次のように述べている。
「私たちは引き続き気候変動に特に注意を払います。直面しているESG課題の中で気候変動を最優先すると繰り返し述べています」
こうしたことからも、PRIは、貧富の差も関係なく、地球全体の市民が影響を受ける可能性のある気候変動に最も注意を払っていることがわかる。
GPIF調査に見る運用受託機関が考える重大なESG課題
では、当の運用機関はどのようなテーマを意識しているのでしょうか。GPIFは2020年12月の調査で以下のような調査結果を発表している(一部抜粋)。
調査内容は、5割超の運用受託機関が「重大なESG課題」として挙げた課題で、各運用受託機関数を分母にして当該課題を選んだ機関数の比率となっている。
国内株式パッシブ
気候変動(E):100%
不祥事(ESG複数):100%
情報開示(ESG複数):100%
サプライチェーン(ESG複数):100%
ダイバーシティ(ESG複数):100%
国内株式アクティブ
取締役構成・評価(G):100%
少数株主保護(政策保有等)(G):100%
資本効率(G):89%
不祥事(ESG複数):89%
情報開示(ESG複数):89%
サプライチェーン(ESG複数):89%
ダイバーシティ(ESG複数):78%
環境市場機会(E):78%
気候変動(E):67%
コーポレートガバナンス(G):67%
健康と安全(S):67%
労働基準(S):67%
外国株式パッシブ
気候変動(E):100%
情報開示(ESG複数):100%
サプライチェーン(ESG複数):100%
ダイバーシティ(ESG複数):100%
コーポレートガバナンス(G):75%
外国株式アクティブ
気候変動(E):100%
健康と安全(S):86%
コーポレートガバナンス(G):86%
情報開示(ESG複数):86%
ダイバーシティ(ESG複数):71
このようなESG課題を、運用会社は投資先企業(発行体)ごとに設定し、投資先企業に対話を通じて課題を提示し、認識をさせ、投資先企業にESG課題解決を展開し実行するのを見ていくというものである。
ここまで聞くと、課題は企業ごとに異なるので、運用会社も課題設定は手間のかかる作業になるといえるが、発行体である投資先企業も投資家ごとに異なる課題を突き付けられ「対話」をするという作業をしなくてはならない。
ESG情報発信で苦労する発行体
では、当の発行体はどのように見ているのだろうか。
国内時価総額大手のIR担当者は次のように言う。
「ESG投資で示される課題は、企業が長年かけて「企業市民」として取り組んできた内容も多い。」
「投資家が欲しい情報が多岐にわたるため、対応するのに社内のリソース問題がある。サステナビリティ推進やESGの専門部署を置く会社も出て来ているもののまだ少数派。複数部署で対応が必要で、社内調整も複雑になってきている。」
「開示してあるデータは先に読み込んでから対話に来てほしい」
との意見もあり、ESG投資として一定の理解を示しながらも、企業決算会計のような資産運用業界の統一的な基準がないため苦労もうかがえる。
ESGはSDGsとも流れを共にする傾向にあり、今後はESGにどこまで対応できるかが上場企業に求められてきており、投資家のESG視点の銘柄選別が続くようであれば、その企業のバリュエーションや時価総額への影響も避けられなくなる可能性はある。
参考資料
GPIF「2020年度ESG活動報告」(https://www.gpif.go.jp/investment/GPIF_ESGReport_FY2020_J.pdf)
PRI「A blueprint for responsible investment」(https://www.unpri.org/pri/a-blueprint-for-responsible-investment)
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