「日本に帰りたくない」の波紋。同調圧力は日本の弱点なのか
LIMO / 2021年10月30日 19時15分
![「日本に帰りたくない」の波紋。同調圧力は日本の弱点なのか](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_25688_0-small.jpg)
「日本に帰りたくない」の波紋。同調圧力は日本の弱点なのか
日本中を沸かせた、真鍋淑郎博士(90)のノーベル物理学賞受賞。受賞理由は「気候の物理的モデリング、気候変動の定量化、地球温暖化の確実な予測」に関する業績でした。ただ受賞後の会見での「日本に帰りたくない」発言が大きな波紋を投げかけましたね。
今回はこの発言の裏側にある、日本における多様性やイノベーション観について考察してみます。
想像以上に波紋を投げかけた発言
テレビニュースで見た会見映像では、真鍋博士も、それほど痛烈に日本批判していたわけではなく、なかば冗談のように話しておられました。会場では笑い声もありました。
結局、この発言は博士の想像以上に波紋を投げかけた面もあると思います。その理由を考えると、「日本に帰りたくない」に続いた、その理由です。
博士は「日本に戻りたくない理由の一つは、周囲に同調して生きる能力がないからです」と発言。これが日本人の心に決定的に響いてしまったのだと思います。世界中のどこの国よりも、祖国・日本の人々の心に突き刺さってしまった。
ネットでは「これは考えさせられるな」「記者達は笑っていたけど私は笑えなかった」 「日本人はどう受け止めればよいのか」。そんな声があふれかえっています。
日本に捨てられた天才画家
ただ個人的には、博士の発言は“たしかにそうだけど、いまに始まった話ではないしな”という印象もありました。
今回の「日本に帰りたくない」発言で唐突に思い出したのは、ある天才画家のことです。その人の名は藤田嗣治。1886年に東京で生まれた日本を代表する画家の一人ですから、ご存じの方も多いと思います。
代表作としては「ジュイ布のある裸婦(1922年)」「五人の裸婦(1923年)」などがあります。第一次世界大戦前よりフランスのパリで活動、日本画の技法を油彩画に取り入れつつ、独自の「乳白色の肌」とよばれた裸婦像などで西洋画壇の絶賛を浴びました。当時のパリ画壇のスターでもありました。
1933年に日本に帰国。その後、藤田は、陸軍報道部から戦争記録画(戦争画)を描くように要請され、何枚もの戦争画を描くことになります。このことから戦後、戦争協力者のレッテルを貼られ、非難を逃れるように1949年に再びフランスへ渡ります。
その後、1955年にフランスに帰化。晩年、藤田はこう語っています。「私が日本を捨てたのではない。日本に捨てられたのだ」。
藤田の戦争画の代表作「アッツ島玉砕」(1943年)は東京国立近代美術館に所蔵されており、常時ではありませんが観ることができます。印象としては圧倒的に重たく、暗い作品です。実物を観たときに、“よくこれで帝国陸軍はOKを出したな”と思ったものです。
日本人に多様性は似合わない!?
藤田にも戦争に協力した自覚はあったのだと思います。ただ太平洋戦争敗戦後、社会が手の平を返すように一変し、戦争協力者としての非難一色に染まる日本に嫌気がさして、日本を去ったのだと思います。
さて、本題の真鍋博士の話にもどります。博士は1958年に渡米、アメリカ国立気象局に入り、後に主任研究員になります。1975年に米国の市民権(国籍)を取得。
1997年に日本へ帰国し、「地球フロンティア研究システム」の地球温暖化予測研究領域の責任者に就任しますが、2001年に辞任し、再び渡米しています。
当時の報道では、研究内容について所管元である科学技術庁の官僚から難色を示されたことが辞任のきっかけとされ、縦割り行政が学術研究を阻害していることに嫌気がさしたとも言われています。
結局のところ、日本の同調圧力の強さは、いつの時代も不変なのかもしれません。ただ、ここからが微妙で、実は日本が成功した時代は、この“同調圧力”や“均一性”が、その成功を支えていた気もするのです。
たとえば、戦後の高度成長期以降、モノづくりで世界を制覇し、”一億総中流”を謳歌した栄光の時代。古くは明治維新後の数十年間。これらの時代は、まさに一丸となって突き進む、同調圧力こそが成功の源泉だったとも思えます。
仮に21世紀が「多様性の時代」だとすると、日本人は耐え忍ぶしかないのかもしれませんね。人間も、民族もそんなに簡単に変われるものではないですし。
「プロジェクトX」とイノベーション
最後に日本のイノベーションについて考えてみます。どうも日本人のイノベーション観に決定的な影響を与えているのは「プロジェクトX」だという気がします。
NHK総合テレビにて2000年から2005年まで放送された「プロジェクトX」は、開発プロジェクトなどが直面した難問を、技術者を中心に血のにじむような努力の末、克服するドキュメンタリーでした。
ただ、現在のイノベーションは、血のにじむような努力は前提としても、その中核にあるのは「気づき」だと多くの人が指摘しています。誰も気づかなかったカテゴリーや、複数の市場を統合してしまうような、誰も思いもつかない技術。
この「気づき」というのは、誰かが気づいてしまえば結構マネしやすいのですが、そんなに簡単に気づけるものではありません。ここで、また唐突に連想してしまうのが“突然変異“の概念です。現代のイノベーションは突然変異に似ている気がします。
生物学の世界では、突然変異は遺伝子や細胞のコピーミスから生じるといわれています。この「イノベーション=突然変異」という、こじつけ話を続けると、結局のところ日本の同調圧力はコピーミスを許しません。正確無比にコピーすることこそが日本の真骨頂ですから。
いずれにしろ、「プロジェクトX」に代表される日本のイノベーション観は、階段を一歩一歩あがっていくような漸進的な印象がどうしても強い。世界との乖離があるのかもしれません。
さて、どうすれば変われるのか。やはり、地道に価値観の異なる人の意見にも耳を傾けるところからでしょうか。気の遠くなるような話ですが。
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