SDGsどころではない!脱炭素で苦境に立たされる電力産業が迫られる構造改革と成長戦略とは
LIMO / 2021年11月4日 12時35分
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SDGsどころではない!脱炭素で苦境に立たされる電力産業が迫られる構造改革と成長戦略とは
2021年10月22日に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」。世界中で気候変動対応に待ったなしの状況ではありますが、その中で策定されたわが国の脱炭素・カーボンニュートラルを目指した戦略は各産業や企業に影響を大きく及ぼすものです。
脱炭素といわれても私たちの生活には直接関係しなさそうに見えますが、実は電気料金などで直接関係してくる可能性も高くなったといえます。
今回はその中でも電力セクターが閣議決定で発表された資料においてどのようにい続けられているか、またどのように変化することが求められているのかについてみていきます。
電力セクターはもっとも二酸化炭素排出量が多い
エネルギー起源の二酸化炭素排出量を前提として、以下のような内訳となっています。
民生セクター(非電力):1.1億トン
産業セクター(非電力):2.8億トン
運輸セクター(非電力):2.0億トン
電力セクター(電力):4.4億トン
このように電力セクターは、エネルギー起源の二酸化排出量が最も多く、シンプルに見れば脱炭素・カーボンニュートラルを考えるともっとも変化を迫られるセクターといえます。
電力の需要側である民生や産業、運輸セクターの非電力領域での電化も求められるところですが、それに合わせて供給サイドの電力セクターにおける脱炭素電源へのシフトも求められます。
一般的にあまり議論はされてはいませんが、需要サイドの電化が進めば(たとえばガソリン車が減り電気自動車が増えれば)、電力を必要とする機会やアプリケーションも増えるので、需要サイドが自ら再生可能エネルギーなどで電力を調達できなければ、供給サイドである電力セクターへの負荷は高まるばかりです。
電力セクターに求められる取り組み
そうした点はさておき、閣議決定で議論された内容ではどのように変化することが求められているのでしょうか。
まず、現在の日本の電源構成をおさらいしておきましょう。
電気事業連合会のデータによれば、2019年度の国内の電源別発受電電力量の構成は以下の通りです。
天然ガス:37%
石炭:32%
地熱および新エネルギー:10%
水力:8%
石油等:7%
原子力:6%
こうしてみると、皆さんすぐお分かりかと思いますが、日本の電源構成は天然ガス、石炭、石油等を加えた76%が二酸化炭素を排出する電源で構成されています。
また、いわゆる再生可能エネルギーは、地熱および新エネルギーと水力、そして原子力を加えた24%であり、国内の電源構成のほとんどは化石燃料をエネルギー源としています。これを2050年までに脱石炭電源へとシフトさせていかなければならないということになります。
閣議決定での電力部門への期待と構造改革
では、閣議決定では電力部門への取り組みの期待としてはどのようなものなのでしょうか。
2050年カーボンニュートラルが実現した社会では、産業・業務・家庭・運輸部門における電化の進展により、電力需要が一定程度増加することが予想される。この電力需要に対応するためにも、全ての電力需要を100%単一種類のエネルギー源で賄うことは困難であり、現時点で実用段階にある脱炭素技術に限らず、水素・アンモニア発電やCCUSによる炭素貯蔵・再利用を前提とした火力発電といったイノベーションを必要とする新たな選択肢を追求していくことが必要となる。
また、以下のようにも述べています。
2050年カーボンニュートラル実現に向けては、火力発電から大気に排出され二酸化炭素排出を実質ゼロにしていくという、火力政策の野心的かつ抜本的な転換を進めることが必要である。
このように、閣議決定では電力需要が増えるという認識をしており、現在の電源構成また発電量の前提で排出する二酸化炭素量を減らせばよいというものではありません。火力発電における二酸化炭素の回収や貯蔵といった周辺を含めたイノベーションもあわせて求められており、CCSなどではすでに確立されている技術はあるものの、実現するのにはハードルが高い印象を受けます。
また「野心的かつ抜本的」という表現からもわかるように現在の火力中心の電源構成の日本において自らが大きく変えていこうという努力なしにはかなり厳しいハードルを自ら果たしたという印象すらあります。
再生可能エネルギーにはどのように取り組み、成長戦略とするのか
ここまで見てきたように、火力中心の電源構成から再生可能エネルギーの比率を増やしていかなければなりません。
閣議決定では以下のように記してあります。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、電化の促進、電源の脱炭素化が鍵となる中で、再生可能エネルギーに関しては、S+3E(編集部注:Safty + Energy Security, Economic Efficiency and Environment)を大前提に、2050年における主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組む。
最大限の導入を進めるに当たっては、再生可能エネルギーのポテンシャルの大きい地域と大規模消費地を結ぶ系統容量の確保や、太陽光や風力の自然条件によって変動する出力への対応、電源脱落等の緊急時における系統の安定性の維持といった系統制約への対応に加え、平地が限られているといった我が国特有の自然条件や社会制約への対応や、適切なコミュニケーションの確保や環境配慮、関係法令の遵守等を通じた地域との共生も進めていくことが必要である。
また、発電コストが国際水準と比較して依然高い状況にある中で、コスト低減を図り、国民負担を最大限抑制することも必要である。
こうした課題に対応するため、送電網に関するマスタープランの策定、蓄電システム等の多様な分散型エネルギーリソース11の導入拡大及び再生可能エネルギーの主力電源化の鍵を握る蓄電池や水素の活用等による脱炭素化された調整力の確保や系統混雑緩和への対応促進、系統の安定性を支える次世代インバータ等の開発を進めるステムの柔など、多様なリソースを組み合わせることを通じた軟性の向上を図る電力システムの柔軟性の向上を図る。
このように見ていくと、日本の電源構成だけではなく、系統変電、蓄電池システムなどの電源周りのインフラ変更も伴う極めて大規模な修正を求められます。
こうしてみていくと、電力セクターにおいては、現在様々な角度から求められるSDGsに対応すべきという流れがありますが、それどころではない、これまでの事業構造をほとんど転換しなければならないような環境に立たされているとも言えます。もっとも、再生可能エネルギー中心の電力会社になればSDGsのいくつかのゴールは満たすでしょうが、その変化は会社の命運をかけるようなチャレンジだということです。
脱炭素は国民の理解も必要な重要な意思決定
ここで疑問なのが「誰が」この電源および周辺インフラの変更費用を負担するのかという点です。先のコメントの中にも「コスト低減を図り、国民負担を最大限抑制することも必要」とされています。今後はこの脱炭素・カーボンニュートラルに沿ってインフラ変更などを行えば、私たちの電力料金が上がっていく可能性が高まったといえます。
実際、再生可能エネルギーの導入に至っては、すでに「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という名目で電力利用者から徴収され、電力料金は再生可能エネルギーを導入する前と比べると上がっているといえます。この電力料金の算出方式でいけば、再生可能エネルギーの導入を促進させていけば、さらに電力料金が上昇するということになります。
したがって、脱炭素・カーボンニュートラルは私たちの生活やくらしにも直接かかわってくる大きなテーマということが言えます。
参考資料
閣議決定「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(http://www.env.go.jp/earth/chokisenryaku/mat04.pdf)
電気事業連合会「発電設備と発電電力量」(https://www.fepc.or.jp/smp/nuclear/state/setsubi/index.html)
泉田良輔「2050年に日本はカーボンニュートラル・脱炭素を本当に実現ができるのか」(LIMO)(https://limo.media/articles/-/25788)
外部リンク
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