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なぜ賃金は上がらないのか。現実から目を背け続ける日本人

LIMO / 2021年11月15日 17時35分

なぜ賃金は上がらないのか。現実から目を背け続ける日本人

なぜ賃金は上がらないのか。現実から目を背け続ける日本人

最近、「日本の賃金は世界と比較して全然上がっていない」という記事が目につきます。ということで、今回はなぜ日本人の賃金は上がらないのかを考察します。

ただ、この問題の背景には、どうも日本人の現実から目を背ける悪い癖も影響している気がします。そのあたりも含めて考えてみます。

インバウンドが3000万人を突破した本当の理由は?

まず、日本人が現実から目を背ける事例を思いつくまま挙げてみます。

ちょっと前はインバウンド戦略が大成功で、多くの外国人旅行者が日本を訪れていました。2019年の年間訪日観光客は3188万2049人。

問題はこの成功原因が、「インバウンド政策の成功」「おもてなしが世界から評価」などと語られることです。ちょっと待てよ、と思うわけです。

実は、単に円安で物価が安いからではないか。東京駅周辺でランチ4品コースで20ドルなんて、先進国はもちろん、途上国でもあまりないと思います。

どうも日本人には主原因から目を背けて、自分の都合の良いように解釈する傾向があるのかもしれません。

もうひとつ、これは思考停止の事例。

「戦後の日本はなぜ高度成長したのか」という問いの答えが「日本人が頑張ったから」。もう、小学生の回答ですよね。頑張っただけでは高度成長なんかしません。高度成長するには、それなりの要因が普通あるのではないでしょうか。

先進諸国では賃金最安国

では「日本の給料安すぎ問題」、その実態から。まず知人の話からです。

地方の大学に進学した娘さんがコンビニでバイトを始めて、その時給が830円と聞いて驚いていました。「オレが大学生の時と変わらないんだよね、むしろ下がってるかも」とこぼしていました。

これが、“30年間、賃金上がらない問題"の実態です。日本の最低賃金はG7(先進7カ国)で実質的に最下位の状況です。実質的にと書いたのは、まずイタリアには最低賃金制度がありません。

OECD(経済協力開発機構)の2020年のデータをみると、G7のうち日本の実質最低賃金は8.2ドル(時給)。上から5番目で、まだ下に日本より1割強低い(7.3ドル)アメリカがいます。

ただ、OECD統計の米国の最低賃金は連邦政府が定めた金額で、実際は6割の州がこれよりも高額の最低賃金です。たとえばカリフォルニア州の最低賃金は14ドル(約1530円。2021年1月時点、従業員数26人以上の企業)。

次に平均賃金(年間)で比較してみます。OECDの調査によると、日本の2000年時点の平均賃金は3万8364ドル(約422万円)で、加盟35カ国中17位(物価水準を考慮した「購買力平価」ベース)です。

2020年には3万8514ドル(約423万円)と金額はわずかに上がったものの、22位と順位を下げました。

過去20年間の上昇率は0.4%にすぎず、ほとんど昇給していません。そして、日本の平均賃金は韓国に比べても、3445ドル(約38万円)低い。

その韓国の賃金は、過去20年間で43.5%伸びています。2015年の時点で日本は韓国に逆転され、その後も差は広がっているのです。

気がつけば“給料安い国"に

どうも事態は、「そもそも給料なんて、高い人も低い人もいるよ」なんて悠長なことを言っている場合ではなくなりつつあります。個人の問題ではなく、日本そのものが“給料安い国"になりつつあるのが実態です。

ダイヤモンド・オンラインの「日本人は韓国人より給料が38万円も安い!低賃金から抜け出せない残念な理由」(2021年8月2日)では、その理由として5つのポイントを挙げています。

バブル崩壊やリーマンショック後に、日本企業は雇用維持を優先し、賃金を抑制してきたこと

雇用を維持しながら、賃金を下げられないこと

労働組合の弱体化(労働組合は雇用維持を最優先に賃上げを要求してこなかった)

大企業が雇用維持を優先し続けたことで、中小企業に大企業から人材があまり移動しなかった

賃金と個人消費の停滞の悪循環。賃金が上昇しなかったことで、個人消費が拡大せず国内市場も拡大しなかった

どうも労使が協力して、賃上げ抑制を担ってきた奇妙な構図のようです。

「雇用を維持しながら、賃金を下げられないこと」は、いったん賃上げをすると業績悪化時に引き下げてコスト削減をすることができないこと。確かに業績がいいときは賞与で払い、“ベースアップはしない"状態が続いているという現実があります。

同記事では、他の主要国では日本より雇用が流動化している分、日本のような賃金の抑制は起きず、人材の移動が生産性向上にもつながっているとしています。

雇用流動化から目を背け続ける日本

さらに韓国との差も、雇用の流動性の違いがあると分析しています。韓国ではIMF(国際通貨基金)に支援を求めるに至った金融危機に陥った98年以降は、雇用規制が緩和され、流動化が進んだとしています。

さて、ここで冒頭の“現実から目を背け続ける日本人"の話に戻ります。今回の総選挙でも多くの政党が主張した、もう耳タコ化した「新自由主義が格差を助長した」というフレーズがあります。

これが、実はかなりのマユツバものだと思っています。一例をあげます。日本がもし仮に小泉政権以降、新自由主義だったとしても、元祖・英米をはじめとする海外と比べればマイルドな形であるのは確かでしょう。

そんな日本で、正規社員と非正規社員の賃金格差が海外との比較において圧倒的に大きい。

さて、どう解釈すれば良いのでしょうか。これは新自由主義のせいでもなんでもなくて、要は正規社員側を整理解雇4要件などで保護して、そのツケを非正規側に押しつけたということだと思います。つまり、ここでも雇用の硬直化が最大の元凶になっています。

結局のところ、ここ数十年間、日本は雇用維持を優先し、現実と成長から目を背けて、賃金を抑制し続けてきました。

「新しい日本型資本主義」も結構な話だとは思いますが、もう少し世界標準の資本主義に近づけて、それから日本型を考察しても遅くはないのではという気も、ちょっとします。

参考資料

OECDの主要指標(https://www.oecd.org/tokyo/statistics/)(経済協力開発機構)

OECD Real minimum wages(https://stats.oecd.org/index.aspx?DataSetCode=RMW)(OECD.Stat)

JETROビジネス短信(https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/06/99a4cbc929bb8e0c.html)(日本貿易振興会/ジェトロ)

日本人は韓国人より給料が38万円も安い!低賃金から抜け出せない残念な理由(https://diamond.jp/articles/-/278127)(ダイヤモンド・オンライン 2021年8月2日付)

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