今年のノーベル物理学賞で関心高まる「気候変動問題」の本質
LIMO / 2021年11月27日 7時15分
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今年のノーベル物理学賞で関心高まる「気候変動問題」の本質
2021年10月5日、スウェーデン王立科学アカデミーより、今年のノーベル物理学賞の授賞者の一人として米プリンストン大学の真鍋叔郎氏が選出された旨の発表がなされました。
真鍋氏は、地球全体の気候をコンピューター上で再現して予測する数値モデルを開発し、大気中の二酸化炭素濃度が気候に与える影響を初めて明らかにしており、今回の授賞理由は「地球の気候の物理的モデル化、気候変動の定量化、地球温暖化の確実な予測」とされています。
今回は、氏のノーベル物理学賞授賞によって、巷間さらに関心が高まっている「気候変動問題」について、その本質について探っていきましょう。
気候変動問題とは
世界の平均気温は1880~2012年の過去42年間で0.85度上昇しました。この気温上昇の半分以上は人間の活動による温室効果ガス濃度の増加等が原因とされています。
人間の活動によって増加した主な温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン、一酸化窒素、フロン類等があり、その大半を化石燃料由来、森林減少や土地利用変化などによるCO2が占めています。
拡大する(/mwimgs/b/4/-/img_b4a534655a3490ac96ab8abf88558771143823.png)
それではこのまま進むとどのような事態が生じてしまうのでしょうか。
想定される最悪のケース、高位参照シナリオ(2100年における温室効果ガス排出量の最大排出量相当の予測に基づいたシナリオ)の場合、世界の平均気温は、1986~2005年の平均値を0.0度とおくと、2081~2100年に最大4.8度上昇すると予測されています。
この気温上昇が具体的にどのような影響を与えるか、世界の平均気温の上昇幅に応じて見ていきましょう。
拡大する(/mwimgs/e/e/-/img_ee4add25bf81d9025935afb05ba5bb20135974.png)
プラス1.0度未満では暑熱や洪水など異常気象による被害の増加が懸念されます。これはもう現実に起こっていることです。
プラス1.0度以上では、サンゴ礁や北極の海氷などのシステムに高いリスク、またマラリアなど熱帯の感染症の拡大が予想されています。
プラス2.0度以上になると、作物の生産高が地域的に減少、また利用可能な水の減少が心配されます。
プラス3.0度以上では、広範囲にわたって生物の多様性に損失が生じ、また大規模に氷床が消失して海面水位の上昇が懸念されます。
そして、プラス4.0度以上になると、多様な種の絶滅リスクが高まり、世界の食糧生産が危険に晒されるおそれがあります。
気候変動問題解決に向けた取組みの一つ:「パリ協定」
この気候変動、地球温暖化を食い止めるためには、気温上昇の主たる要因の一つである人間の活動による温室効果ガスの排出削減の対策を講じることが必要不可欠です。
具体的には、省エネルギー対策や再生可能エネルギーの普及拡大などが挙げられます。
2015年12月、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で採択された「パリ協定」というものがあります。パリ協定とは、2020年1月に本格実施された、1997年12月に採択された京都議定書に代わる温暖化対策の枠組みのことです。
このパリ協定では、世界共通の長期目標として「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2.0度未満に抑え、1.5度未満を目指す。そのために、可能な限り早期に世界の温室効果ガス排出量を頭打ちにし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」ことが掲げられています。
パリ協定の最大の特徴の一つとして挙げられるのが、「加盟国すべてが自国の温室効果ガス削減目標の作成、提出および維持する義務、当該削減目標を達成するための国内対策をとる義務を負っている」ことです。
ちなみに、日本は「2030年までに2013年比で温室効果ガス排出量を26.0%(2005年比では25.4%、1990年比では18.0%)削減する」としています。
このパリ協定における日本の目標は一部で「目標数字が低すぎるのではないか?」との声もあります。
しかし、たとえばEUは2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で35.0%削減するとしていますが、2013年比では24.0%の削減に過ぎません。適正な比較をすれば日本の目標は他の加盟国に遜色ないことがわかります。
結びに~気候変動問題が内包する貧困と飢餓~
自然災害の被害は、「ハザード(Hazard)」、「脆弱性(Vulnerability)」、「暴露(Exposure)」の3つの観点から議論されます。
「ハザード(Hazard)」とは自然災害そのもの威力、「脆弱性(Vulnerability)」とは災害にどの程度弱いか(裏を返せばどの程度事前に備えることができているか)、「暴露(Exposure)」とは被害の範囲のことです。
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気候変動により、台風の規模拡大や高潮の頻繁な発生などに見られるようにハザードが高まるなか、とくに途上国の「脆弱性改善=日頃の備え」は先進国ほどには追いついていません。
むしろ人口増や急速な都市化により、脆弱性はそのままで「暴露=被害を受けると予測される人数」は増加している可能性があるといえます。
この観点から考えていくと、気候変動問題は貧困や飢餓をはじめ様々な問題と絡み合っているといえます。つまり、気候変動問題の解決に向けて、世界的に歩を進めていくことは、包括的に社会課題を解決することにつながります。
今回、真鍋氏が気候変動に関わるテーマでノーベル物理学賞を受賞されたことは、日本国内はもちろん、世界的に改めて気候変動問題への取組みを加速させる原動力になり得るものです。
それは気候変動問題の解決のみに関わるものではなく、この問題が内包する世界的な貧困や飢餓を削減することにつながるものとして捉えられるでしょう。
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