実家の相続で揉める3つのポイント!家族信託で「争族」を避けられる?遺産分割も弁護士が解説
LIMO / 2021年12月30日 11時45分
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実家の相続で揉める3つのポイント!家族信託で「争族」を避けられる?遺産分割も弁護士が解説
もうすぐ年の瀬。新型コロナウイルス感染者数が落ち着いている今年は、数年ぶりに帰省することを楽しみにしている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ご家族皆様で久しぶりに集まり、高齢になってきたご両親から相続対策や認知症対策といった話題が出てくるかもしれません。
読者の皆様は「家族信託」という言葉をお聞きになったことはございますか?
筆者は、弁護士として相続紛争(遺産分割、遺留分侵害額請求など)の解決を中心に活動をしていますので、本稿では、いわゆる「争族」とその対策として「家族信託」がどのようなときに利用できるのかお話ししていければと思います。
実は危険?「うちは普通の家なので、相続財産は実家不動産しかありません」
遺産分割で揉めているというご相談で意外と多いのは、主な相続財産が実家不動産しかないというケースです。
なぜ揉めるのかというと、不動産という財産の性質上、検討すべき問題点が多く、また、分け方が難しいという特徴があるからです。
相続で揉めるポイント1.不動産評価(時価)の評価方法
不動産には時価があるため、不動産の分け方を決めるには、まず評価額を決める必要があります。しかし、時価を算出するにあたり、実家の取得を希望する相続人は低く、そうではない相続人は高く主張する傾向にあり、まず不動産の評価額をめぐって平行線の議論になることがあります。
相続で揉めるポイント2.取得者の決め方・分割方法
不動産の評価額が決まっても、相続人のうちの誰が取得すべきか、法律上決められていません。取得したい人が複数いると、当然揉めることになります。
また、取得する人が決まっても、取得しない相続人に対しては、法定相続分に相当する金額を支払わなければなりません(代償金といいます。)。
他の相続財産(金融資産)があればよいですが、実家不動産しか主たる相続財産がないこともあるでしょう。その場合、他の相続財産を他の相続人が取得して調整できず、多くの相続財産があるケースよりも、かえって分け方が難しくなります。
実家を取得したい相続人が代償金を払えなければ、残念ながら実家を売却して売買代金を法定相続分で分けるしかありません。ただ、売却して売買代金を分ける方法も、実家をどうしても残していきたい相続人はそう簡単には折れないでしょう。
相続で揉めるポイント3.不動産の維持管理
遺産分割協議が完了するまでは、実家不動産は一時的に遺産共有状態となり、相続人たちで維持・管理を決めていくことになります。しかし、一度「争族」になってしまうと、感情的な対立が大きく、実家不動産の修繕や固定資産税の納付など、不動産の維持・管理についても衝突が起きることが絶えません。
「相続人全員で共有する方法で遺産分割」という解決は適切なのか?
代償金は払えない。でも実家を売りたくない。それならば、相続人全員が法定相続分で共有するという方法がありますか?とご相談されることもあります。
もちろんこのような方法もありますが、一度「争族」になると、不動産の維持管理で将来の紛争の種を残す方法なので、実務上あまりお勧めはできません。
「うちは仲が良い相続人なので大丈夫」という場合でも、一度共有で相続したあとに、何かのきっかけで仲違いしてしまうと、共有物分割という手続中で「争族」問題が勃発することになってしまいますので、あまりお勧めはしていません。
争族が勃発する前に対策しておきたい。「家族信託」とは?
そもそも「信託」とは、財産を所有する方(委託者)が、ご自身の財産を、信頼できる方(受託者)に管理を託して名義を移し、受託者は、信託契約で設定した目的に従って、特定の人(受益者)のために運用する仕組みのことです。
「信託」というと、信託会社や信託銀行などが「受託者」となるいわゆる商事信託がイメージされますが、それもそのはず。「家族信託」は、平成19年の信託法改正により、民事信託の組成が可能となり、利用することができるようになった新しい仕組みなのです。
このように、正式な法律用語では、民事信託といいますが、信託会社や信託銀行が受託者となるのではなく、ご家族で民事信託を利用するイメージで、「家族信託」という言葉(登録商標です。)が生まれ、最近ではメディアでも度々耳にするようになるくらい普及してきました。
生前の相続対策といえば、「遺言」をイメージする方も多くいらっしゃると思いますが、「家族信託」は、遺言よりも設定方法次第で柔軟性が高く、相続対策の有力な手段のひとつとして今後さらに注目を集めていくでしょう。
「家族信託」でどのような相続対策ができるのか
それでは、実家不動産しかないというケースで、「争族」を避けるためには、「家族信託」をどのように活用することが考えられるのでしょうか。
遺産分割協議を行う必要がなく、不動産の管理権者がひとりになる
前のページで触れたとおり、実家不動産の遺産分割においては、評価額・取得者・取得方法について意見が異なり協議が進まなくなってしまったり、不動産の維持管理について揉めてしまうリスクがありました。
しかし、生前に「家族信託」をして、受託者に不動産の名義を移転することで、実家不動産は、亡くなった方の所有物ではなくなりますので、被相続人の相続財産を分割する「遺産分割」の必要がそもそもなくなるのです。
また、受託者が不動産の維持・管理・処分に関する権限を有することになりますので、共有者間で維持管理あるいは処分方法をめぐって紛争が生じるおそれも低いといえるでしょう。
新しい遺産の分配方法の選択肢が広がる
前述のとおり、実家不動産がそのまま残されてしまうと、取得者が代償金を用意する/共同で売却する、いずれかしか選択肢がなく、ここでも意見が合わないと協議は難航してしまいます。
しかし、「家族信託」では、たとえば以下のような選択肢が生まれます
実家不動産所有者(ここではたとえばお父様)が亡くなって住まなくなったときは、相続人たちで実家を賃貸して賃料を分配したり、実家を建て替えて賃貸し、賃料を分配する
ご自身が亡くなったあと、相続人のうちのひとり(たとえば奥様など)を住まわせる権利と最終的に実家不動産を取得する権利を分けて分割する(※)
※令和2年4月1日に施行された相続法改正により、「配偶者居住権」が新設され、相続発生後も同様の処理が可能となりました(ただし、相続発生後は、相続人全員で合意するか、裁判所の審判で認められる必要があります。)。
このように、第3・第4の選択肢が広がります。
「家族信託」は、信託目的に沿って特定の人(受益者)のために運用する仕組みであることから、信託目的と受益者の受ける権利(受益権)の設計次第で非常に柔軟に仕組みを作れるのです。
家族信託は「万能」ではない
いかがでしたでしょうか。
少し難しい話もあったかと思いますが、相続対策のひとつの選択肢として「家族信託」があることをお伝えできたでしょうか。
もちろん誤解してはならないのは、「家族信託」という仕組みを使うだけですべての争族が回避できるわけではないということ。
ここに記載していないリスクもありますので、詳しくは法律の専門家や税務の専門家とも協議しながら適切な相続対策をしていくことが肝要です。
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