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猫伝染性腹膜炎(FIP)の「最前線」を獣医師が解説!飼い主にできることは

LIMO / 2022年1月15日 18時15分

猫伝染性腹膜炎(FIP)の「最前線」を獣医師が解説!飼い主にできることは

猫伝染性腹膜炎(FIP)の「最前線」を獣医師が解説!飼い主にできることは

「猫伝染性腹膜炎(FIP)」という言葉を、耳にしたことがあるという飼い主さんも多いのではないでしょうか?

FIPは感染・発症をしてしまうと極めて致死率が高く、ほぼ100%亡くなってしまうと言われており、現在の獣医療でも有効な治療法が確立されていない恐怖の病気です。今回はそんな猫伝染性腹膜炎治療の「最前線」をお話ししようと思います。

猫伝染性腹膜炎の原因は?

猫伝染性腹膜炎は、ウイルス学的には世間を騒がせている新型コロナウイルス(COVID-19)の近縁にあたり、ニドウイルス目コロナウイルス科アルファコロナウイルス属に分類される猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の感染によって起こる病気です。これはネココロナウイルスの突然変異株とされています。

ネココロナウイルスと言えば、一般的に猫腸コロナウイルス(FECV)のことを指し、感染の多くは無症状もしくは軽度の胃腸炎などの症状を示すのみで通常、数日で良化していきます。

この猫腸コロナウイルスに感染している猫の体内でその遺伝子に突然変異を起こすと、致死率が極めて高い猫伝染性腹膜炎ウイルスに変貌すると考えられているのです。

猫伝染性腹膜炎ウイルスに変異し、発症してしまうと血管炎、腹膜炎、髄膜脳炎などの重篤な症状を示し、やがて死に至ります。この猫「伝染性」腹膜炎という名前からもわかるように、感染性が極めて強く、同居猫にも簡単に感染が広がっていくと考えられていましたが、近年その考え方が見直されてきています。

猫腸コロナウイルスがFIPVに変わる、体内転換説

猫腸コロナウイルスは腸管上皮細胞に感染し増殖しますが、マクロファージという免疫をつかさどる細胞内では増殖することはできません。

このマクロファージ内で増殖できるようにするために突然変異を繰り返し、猫伝染性腹膜炎ウイルスに変貌すると考えられています。

この体内転換説では猫腸コロナウイルスのスパイク蛋白遺伝子と3c遺伝子と呼ばれるところに変異が起こり、マクロファージ内でも増殖できるようになると言われています。

ウイルスの感染性はこの2つのタンパク質の突然変異により大きく左右されるのです。

猫がFIPに感染しないために飼い主ができること

現在のところ日本国内ではネココロナウイルスのワクチンは認可されておりません。そのため、猫伝染性腹膜炎に感染・発症しないためにはまず猫腸コロナウイルスに感染しないことが大切です。

猫腸コロナウイルスは生まれ持って感染している可能性は低いので、その後の生活で感染しないように屋外に出さないのはもちろんのこと、猫腸コロナウイルスに感染した他の猫やその糞便に触れることがないよう注意し予防してあげましょう。

猫腸コロナウイルスは腸管上皮内で感染・増殖しているので糞便にウイルスが排出され、それが他の猫に感染してしまうことがあります。しかし猫伝染性腹膜炎ウイルスは、マクロファージ内で増殖することができるようになった代わりに、腸管上皮細胞では増殖できなくなるので糞便にウイルスが排出されにくいです。

そのため、猫伝染性腹膜炎ウイルスは糞便などの排泄物から他の猫に感染する可能性は低いと言われています。

しかし、ウイルスが体内に侵入するとFIPを発症してしまう可能性があるので、飼い主さんを含めて猫腸コロナウイルスや猫伝染性腹膜炎ウイルスへの感染がわかっている猫との接触はなるべく避けましょう。

FIP治療の「最前線」

残念ながら現在の獣医療でも猫伝染性腹膜炎に対する有効な治療法は確立されておらず、その治療の中心は対症療法です。

対症療法とは根本的な病気の治療が難しい場合にせめて症状を和らげてあげる目的の処置で、一般的には炎症を抑えるためにステロイドや抗ウイルス効果を期待してインターフェロンなどを使用します。

また炎症により腹水や胸水が溜まることがあるので液体の圧迫で苦しくなるようであれば針を刺して抜去することもあります。ですがここまでしてもやはり完治はせずそのまま亡くなってしまいます。

そんな暗い状況の中、近年になり“MUTIAN(ムティアン)”という海外のサプリメントが猫伝染性腹膜炎に効果があると話題となっています。これについては賛否が非常に分かれておりますが、獣医療サイドとしては否定的な考えが多いのが現状です。

その理由として非常に高額なことや、日本国内で承認が得られていないことが挙げられますが、一番は猫伝染性腹膜炎を発症した猫に投与を行なってきちんと評価された研究や報告が一切なくエビデンスがないということが大きな要因です。

もしMUTIANが本当に効果を示すものであれば今後国内でも研究が進みデータが蓄積され、医薬品としての承認も期待できるでしょう。しかし現時点では猫伝染性腹膜炎の治療薬としては期待するのは時期尚早だと考えます。

一方、国内では北里大学や日本獣医生命科学大学で抗TNF-α抗体、シクロスポリンAといった医薬品を応用しての治療法が研究されており、有効な治療法が確立されることを願うばかりです。

参考資料

猫 TNF-aに対する抗体を用いた猫伝染性腹膜炎の治療法の確立(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22780285/)

サイクロスポリンによるネコ伝染性腹膜炎ウイルスの複製阻害機構の解析(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26450413/)

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