景気が良い・悪いとはどういうことか?景気と失業率の関係も解説
LIMO / 2022年1月19日 19時35分
景気が良い・悪いとはどういうことか?景気と失業率の関係も解説
景気が回復をはじめても失業率が低下を始めるまで時間がかかるので、失業率を見て景気を判断する場合は要注意です。(経済評論家 塚崎公義)
景気対策の主目的の一つが失業率の低下
景気が良いとか悪いとか話題にする人は多いですが、その主要な関心は景気そのものではなく、失業の増減にある場合が少なくありません。そもそも、景気が良いと言われてもピンとこない人は多いでしょうが、失業率が下がったと言われれば簡単にイメージできる、という人も多いでしょう。
政治家にとっては経済政策の主目的が「インフレと失業のない経済」である場合も多く、失業への関心は高いでしょう。
失業している本人にとっては問題は深刻でしょう。収入が得られないという事のみならず、「自分が世の中で必要とされていないのではないか」といった懸念さえ感じるかも知れませんから。
失業していない人にとっても、失業率は重要です。失業率が高い時は自分や知人も失業するかも知れませんし、失業者が多いということは企業が高い給料を払わなくても労働者を確保出来るという事なので、自分の給料が上がらないという事にも影響するからです。
景気が良いと雇用が増えて失業率が下がる
景気という統計はありませんが、一般に物(財およびサービス、以下同様)が良く売れる時には景気が良いと言われます。そして、景気が良い時には失業率も低い場合が多いのです。
景気が良い時には物が売れるので企業は儲かり、生産量を増やすので多くの労働者を雇い、その結果として失業率が下がる、といった事が起きる場合が多いので、利益や生産量や失業率などを総合的に判断して景気が良いとか悪いとかいう話をするわけです。
失業率が高い時には景気対策が採られるわけですが、それは景気が良くなれば失業率が下がると期待できるからなのです。景気対策を失業対策と呼ぶ場合があるのも、こうした理由なのですね。
景気回復初期は失業率が下がらない
一般の人は、景気と失業率は同じ物だと考えても良いかも知れません。しかし、景気の予想屋としては、失業率の動きは景気の動きに遅れるので、失業率を見て景気を判断するのは危険なことなのです。
不況期には、企業内にヒマな労働者が大勢います。特に日本は終身雇用制なので、不況でも正社員のクビが切れず、「社内失業者」を大勢抱えている企業も多いわけです。
そうした会社は、景気が回復を始めて生産が少しずつ増えてきても、社内失業者の尻を叩いて増産させれば良いので、新しく人を雇ったりしないわけですね。
景気が更に回復して、労働者が忙しくなっても、新しく社員を雇うよりは社員に残業させる事を優先する企業も多いでしょう。採用にはコストがかかりますし、次の不況期に正社員をクビにするのは容易ではありませんし、非正規労働者であっても出来ればクビにするのは避けたいですから。
景気が更に回復すると企業は採用をはじめますが、それでも失業率が下がるとは限りません。仕事を探しても見つからないと思って仕事探しを諦めていた人々が、仕事を探し始めるようになるからです。
失業者というのは、「仕事をしたいのに仕事が見つからない人」ではなく、「仕事を探しているのに仕事が見つかってない人」という定義で統計が作られているのです。したがって、景気が回復して仕事を探し始める人が増えると、失業者がむしろ増えてしまう、といった事も起きかねないわけです。
景気回復の終盤には失業率が下がれない
景気が回復を続けて、労働力不足が深刻になっても、失業率はゼロにはなりません。パソコンが出来る人、都会で働ける人を募集している企業があり、パソコンが出来ない人、田舎で親の介護をしながら働きたい人が仕事を探していても、彼らは仕事を見つける事が出来ないでしょうから。
また、より良い仕事を求めて会社を辞めて仕事を探している人も、一定数いるはずです。好況時には、そうした人はむしろ増えるかも知れません。あるいは、配偶者の転勤に伴って仕事をやめて同行し、同行先で新しく仕事を探している人も失業者ですね。
したがって、景気が回復して失業率が一定水準まで低下すると、それ以上は景気が回復しても失業率は下がれなくなるのです。したがって、景気のピーク付近では失業率はおおむね一定で推移します。
そうなると企業は、求人広告の時給を上げるしかないので、人件費が上がり、それを売値に転嫁するのでインフレになり、日銀が金融引き締めで景気を悪化させてインフレを防ぐ、という事になるわけですね。
高齢者の失業率は若者より低い
余談ですが、高齢者の失業率は若者より低い場合が多いのです。若者の方が仕事が見つかりやすいはずなのに、不思議だと思う読者が多いでしょう。それは、失業者が上記のような定義だからです。
景気が悪化すると、高齢者は仕事を探しても無駄だと考えて仕事探しを簡単に諦めますが、若者は簡単には仕事探しを諦めないので、失業率が高止まりする、というわけですね。
同様に、女性の失業率は男性より低い事が多いのです。妻の方が夫より仕事探しを諦めるのが早い場合が多いという事なのでしょうね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。
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