労働基準法改正により残業代請求に追い風!請求期間が2年から3年に
LIMO / 2022年2月25日 19時30分
![労働基準法改正により残業代請求に追い風!請求期間が2年から3年に](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_27689_0-small.jpg)
労働基準法改正により残業代請求に追い風!請求期間が2年から3年に
近年、残業代請求が広がっています。一昔前のサービス残業が当たり前だった時代は過ぎましたが、まだまだ法定通りの残業代を支給しない会社は数多く存在します。
そこで今回は、残業代請求をめぐる状況や法改正について、弁護士の視点から解説していきます。
労働関係の訴訟 約4000件に
最高裁判所の令和2年度司法統計によると、残業代請求を含む労働事件の訴訟数は近年右肩上がりで上昇。令和2年には年間3960件の労働関係訴訟が提起され、平成4年以来過去最高の数字となっています。
サービス残業に対して泣き寝入りせず、残業代請求を行うことが広がっていますが、そうは言っても勤務中の会社に対して声を上げるのは躊躇される方が多いでしょう。
私も、勤務中の会社に対して正面から残業代請求をすることを積極的にお勧めはしません。私が残業代請求をご依頼いただくのも、退職後に前職に対して残業代を請求するケースが大半です。
では、退職してから、勤務中の未払い残業代を全部請求できるのでしょうか。
その場合に立ちはだかるのが、時効の壁です。
これまで、残業代などの賃金請求は、賃金発生日から「2年」で時効となり消滅してしまっていました。つまり、10年勤続した会社に対して退職後に残業代請求をしようとしても、最大で2年分までしか請求できない(残りの8年分は時効で消えてしまっている)こととなっていたのです。
労働基準法の改正により時効が3年に
ところが、令和2年4月に行われた労働基準法の改正により、令和2年4月以降に発生する賃金債権の時効が「3年」に延長されました。
具体的な条文を見てみましょう。少し複雑な構造となっています。
令和2年の改正により、労働基準法115条は以下のように変更されました。
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
これを見ると、賃金請求権の時効が5年とかかれていますね。ここだけみると、時効は3年ではなく5年に延びているように見えます。
ここが分かりにくいのですが、労働基準法143条として以下の条文が足されています。
第百四十三条 第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
② 第百十四条の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「五年」とあるのは、「三年」とする。
③ 第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。
つまり、労働基準法115条には、賃金の時効が5年であると書いてありますが、「当分の間」は、退職金の時効は5年、その他の賃金(残業代もここに含まれます)については「3年」が時効となっているのです。
令和4年4月からいよいよ延長開始
令和2年4月以降の賃金の時効が3年から3年に延長されたのですが、これまではその影響は現実的には発生していませんでした。いよいよ令和4年4月から、これまでは時効となっていたはずの令和2年4月以降の未払い残業代が時効とならなくなり、請求可能な期間が延び始めます。
令和4年4月から徐々に請求可能な期間が増え、令和4年10月には2年半、令和5年3月以降は3年間の請求ができることとなるのです。
2年前の法律改正の効果がいよいよ令和4年4月から発生することになるのです。
もちろん、法律どおりの残業代が正しく支払われている会社員にとっては、影響のない話ではあります。サービス残業を強いられている会社員にとっては朗報ですね。
これまで2年間だった請求期間が3年に延長されることで、単純計算で1.5倍の残業代が獲得できる可能性がでてくることとなります。
令和4年3月に退社したら2年間分の残業代請求しかできませんが、令和5年3月まで勤めれば、3年間分の残業代が請求できることとなります。
転職のタイミングを考えるときに、頭の片隅に入れておいていただいた方がよいと思います。
将来的には5年の時効へ
上でも書きましたとおり、労働基準法115条では、すでに賃金の時効は「5年」とかかれており、労働基準法末尾の143条で「当分の間」、「3年」と読み替えられているにすぎません。
つまり、ゆくゆくは残業代を含む賃金の時効がさらに5年に延びることが予定されているのです。実際の時期についてはまだ決定されていませんが、5年間の請求が可能となった場合、かなりの高額な残業代請求が可能となります。
サービス残業を強いられている方は、将来の残業代請求を一つの選択肢として考え、証拠の収集に努めておくのもよいかと思います。
参考資料
最高裁判所「令和2年度司法統計」(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/024/012024.pdf)
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