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残業代不払いは労働基準法違反?中小企業ができる対策とは。固定残業代のリスクも弁護士が解説

LIMO / 2022年2月27日 19時35分

残業代不払いは労働基準法違反?中小企業ができる対策とは。固定残業代のリスクも弁護士が解説

残業代不払いは労働基準法違反?中小企業ができる対策とは。固定残業代のリスクも弁護士が解説

会社に出勤して給料をいただくー当たり前のようなルールですが、法律上はどのように定められているのでしょうか。

「労働法」という法律がありそうですが、日本には実は「労働法」という法律はありません。

労働契約法、労働基準法、男女雇用機会均等法などの個別法や労働組合法などの団体法、雇用対策法、職業安定法などの市場法など、雇用関係のルールは、各場面に応じて、各法律によってルール化されています。

読者の皆さんは労働基準法という法律を聞いたことがございますでしょうか。

労働基準法は、最低限の労働条件を定める法律であり、賃金、労働時間、休憩時間、休日、年次有給休暇など会社と従業員との間のルールを規制する法律として登場回数が多い法律です。

そのなかでも、労働者として関心が高いのは、やはり賃金(給料)や働き方ですね。

筆者は、弁護士として、労働者から会社に残業代請求をしたり、会社側で労働者からの残業代請求への対応や対策を行っているため、本稿では、残業代請求に焦点をあてて、人事担当者や中小企業の経営層がどのような対策がとれるか解説したいと思います。

残業代に関する法律上のルール

「賃金を支払う」という当たり前のルールも、法律上は労働基準法24条に定めがあります。法定の労働時間(1日8時間、週40時間)も労働基準法32条に定めがあります。

いわゆる残業代というのは、労働基準法上は割増賃金と規定されており、労働基準法36条によって、所定の手続を経て行政官庁に届け出ることで、法定の労働時間を超える労働をさせることができるようになり(この条項にちなんで三六協定と言われます。)、その場合の割増率も労働基準法37条に規定されています。

残業代を支払っていないと、その不払いに対しては、年3%の遅延損害金(※2020年4月1日施行の民法改正により、商事法定利率が廃止され、法定利率が3年ごとの変動制とされました。)が加算されるだけではなく、退職した元従業員からの請求の場合、退職日からは年14.6%の遅延損害金が加算されることになります(賃金確保等に関する法律6条1項)。

また、訴訟提起された場合、悪質な事案では、裁判所が付加金として未払額と同一額の支払いを判決で命じる可能性もあります(労働基準法114条)。

労働基準法には、実は、残業代の不払いに関する刑事罰もあります。
残業代の不払いによる刑事罰としては、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金があります(労働基準法119条1号)。

残業代の消滅時効が延びる!

従来の残業代の消滅時効は、支給日から2年間でした(改正前労働基準法115条)。これは、改正前民法において、賃金債権が短期消滅時効により1年で消滅時効にかかる(改正前民法174条)ことから、労働者の保護のため特別に長く設定されていたものです。

しかしながら、令和2年4月1日施行の民法改正では、債権の消滅時効が基本的に5年に統一されたため、労働基準法で特別に保護していたはずの賃金の消滅時効のほうが一般の債権よりも短いという不均衡が生じることとなりました。

この民法改正を受けて、労働基準法が改正され、当面の経過措置として、2020年4月1日以降発生する賃金から適用される残業代の消滅時効は、3年とされることになりました(ただし、これはあくまで経過措置であり、改正後労働基準法115条では5年と規定されています。)。

現実問題としては、改正法が適用される2020年4月1日から2年後の2022年4月1日以降に発生する賃金から、改正法の影響が生じてきます。

2023年4月1日から中小企業にも月60時間超過部分に割増率50%が適用!

2010年施行の労働基準法改正により、月60時間を超える時間外労働には、50%の割増賃金の支払いが必要となりました(労働基準法37条1項但書)。

中小企業には長らく猶予措置がありましたが、働き方改革関連法案により、猶予措置が廃止され、2023年4月1日から中小企業にも上記の規定が適用されることになりました。

60時間以内の時間外手当の割増率は25%であるため、60時間を超える部分の割増率は倍になるといえます。

2023年4月といえば、残業代が丸3年分請求できるようになる時期です。

中小企業においても、残業代の支払には、今以上に慎重に対応が必要となってきます。
このように2023年4月からは、「残業代の戦国時代」が訪れる可能性があるといえます。

賢い企業は導入している?固定残業代制度とは

固定残業代制度とは、労働基準法37条に規定される時間外・休日・深夜労働に対する所定の割増率による一定額以上の割増賃金を、定額残業手当などとして、一定額支払ってしまう制度です。

会社によっては「定額残業手当10時間分X円」「残業代10時間分X円を基本給に含む」などと規定したり、固定残業代制度ではなく定額残業手当などと呼称することがあります。

手当として、残業代を多く支払う可能性がある制度をなぜわざわざ導入するのか不思議に思うかもしれません。

しかし、いざ残業代請求をされるケースを考えると、固定残業代制度は、割増賃金の計算の基礎となる単価を引き下げる効果があります。

すなわち、残業代の計算は、月額賃金を1か月の平均所定労働時間で除して所定の割増率を乗じるため、月額賃金が低くなると、基礎単価が下がります(たとえば、月給30万円が基礎単価となるか、月給25万+定額残業手当5万円の場合に月給25万円を基礎に計算できるかで基礎単価は異なります。)。

それとは別に実際上の効果としても、一定時間は残業代が発生するため、毎日少しずつ居残り残業をする不当な残業代稼ぎのインセンティブも少なくすることができます(逆に従業員にとっては、早く作業が終われば、実際の勤務がなくても固定部分がもらえるため、作業効率化をするインセンティブにもなるといわれています。)。

固定残業代制度のリスクとは

このような固定残業代制度にはリスクはないのでしょうか。

残業代請求の事件では、固定残業代制度の有効性が争われることが一定数あります。

固定残業代制度が仮に無効となってしまうと、割増率を乗じる基礎単価が上がることに加え、支払ったはずの残業手当が残業代としての支払ではないということなので、高い基礎単価で計算した残業代をさらに払わなければならないという、いわゆる「ダブルパンチ」を受ける可能性があります。

固定残業代制度の有効性は、さまざま議論されていますが、最も重要なのは、明確区分性です。基本給部分と割増賃金部分が制度の仕組み上、労働者にとっても明確に区分されて判断できる必要があります。

また、あまりに不合理な固定残業代制度の場合、合意自体が無効とされてしまう旨を判断した裁判例もあります。

既に勤務している労働者の条件を変更する場合には、不利益変更にあたらないかという観点からも検討する必要があります。

他の仕組みを組み合わせて適切な労務管理を

固定残業代制度は、一定程度の残業が常態化している場合や残業代目当てで居残りをするため日中の作業効率が落ちている場合などに特に効果を発揮するものといえます。

特殊な労働時間の管理方法としては、ほかにも、変形労働時間制(労働基準法32条の2、同法32条の4)、フレックスタイム制(労働基準法32条の3)などがあります。

業種や業態によって、忙しい季節や曜日が決まっているとか、早番・遅番などのシフト制を導入したい場合には変形労働時間制を検討することができます。また、専門的・裁量的な業務であり、従業員の働き方に合って働くことができることを採用情報の強みとしたい場合、フレックスタイム制を導入することも考えられます。

また、適用場面はより限定されますが、実際の労働時間数にかかわらず、一定時間労働したとみなされる事業場外労働みなし労働時間制(労働基準法38条の2)、裁量労働時間制(労働基準法38条の3、同法38条の4)もあります。固定残業代制度を「みなし残業時間制」と呼称する会社もありますが、労働基準法に規定されているみなし労働制とは全く異なるものであるため、注意が必要です。

ほかにも、労働基準法に規定する労働時間規制の適用が原則的に除外される管理監督者(労働基準法41条2号)もあります。

しかし、これらの制度は、運用面にも注意点があったり、安易に労働基準法を潜脱するような制度設計とされることも多く、制度が無効と判断されてしまい、かえって不利益を受ける可能性があります。

制度導入においては、専門家の力を借りることを検討してみてもいいでしょう。

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