今が50年ぶりの円安なら今後は円高になるのか?経常収支は黒字も利子配当は再投資される傾向に
LIMO / 2022年3月10日 19時15分
今が50年ぶりの円安なら今後は円高になるのか?経常収支は黒字も利子配当は再投資される傾向に
物価上昇率格差を勘案した為替レートが、50年ぶりの円安水準になっていますが、それは今後の円高を予想させるものではありません(経済評論家 塚崎公義)。
物価上昇率格差を考慮すると今の為替レートは50年ぶりの円安
現在の1ドルは115円程度であり、50年前は1ドルが300円程度でしたが、その間の諸外国の物価上昇率が日本より遥かに高かった事を考慮すると、実質的には今の為替レートは50年ぶりの円安水準だと言えるのです。
前半25年間は、物価上昇率が少ししか違わないのに大幅な円高になったため、日本の輸出企業は大変苦労しました。しかし後半25年は物価上昇率が相変わらず異なっていたのに為替レートが概ね横ばいで推移したため、輸出の困難さが取り除かれた、という事ですね。このあたりは前回の拙稿をご参照いただければ幸いです。
円安は貿易黒字を増やして円高をもたらす方向の力となるはず
ドル高円安になれば、輸出企業が儲かるので、大量に輸出するインセンティブとなるはずです。大量に輸出して持ち帰ったドルを銀行に売りに行けば、ドルが安くなるはずです。
消費者も、外国製品が値上がりすると国産品を買うようになるでしょうから、輸入企業が輸入代金を購入する量が減り、ドルが安くなる力が働くはずです。
したがって、今の為替レートが過去50年の平均よりも大幅に円安になっているのであれば、25年前と比べれば更に大幅な円安になっているのであれば、遠くない将来にドル安円高になるはずだ、と考えるのは自然な事です。
筆者自身も、アベノミクスで大幅な円安になった時には、そう考えました。しかし、筆者の予想は外れ、ドル安円高にはならなかったのです。
輸出企業は、輸出すれば儲かるような為替レートであるにもかかわらず、「輸出を増やすのではなく、売れるところで作る現地生産に注力」したのです。
為替レートが変動するたびに企業の利益水準が大きく変動するのは困るという事もあり、生産体制を輸出と現地生産の間で大きく組み替えるのは大変だという事もあったのでしょう。
もしかすると、人口減少で衰退が見込まれる国内よりも、人口が増加して成長が見込まれる海外に軸足を移そうという意図があるのかもしれませんし、輸出が巨額だった頃の貿易摩擦の記憶も影響したのかも知れません。
いずれにしても、アベノミクスで大幅な円安になったにもかかわらず、輸出数量はそれほど増えませんでした。過去数年に起きなかった事は、今後も起きないと考える方が自然でしょう。
日本人消費者は、値上がりした外国製品を買うのをやめて割安になった日本製品を買おうとしたのでしょうが、売っていなかったのかも知れません。日本企業は労働集約型製品の生産ラインをすべて海外に移してしまったため、国産の労働集約型製品は存在していない、という事かも知れません。
筆者としては、「酒は酔うために飲むのだから、ワインが値上がりしたら国産の焼酎を飲もう」と考えるわけですが、日本人の酒飲みは筆者とは違い、値段は高くてもワインを飲もうという人が多いのかもしれません(笑)。
貿易収支が均衡しているので「円安が是正される」とは言えない
これだけ円安の水準にあるにもかかわらず、日本の貿易収支は概ねゼロとなっています。かつて大幅な貿易黒字を計上して海外との貿易摩擦に苦労したのが嘘のようです。
貿易収支がゼロであれば、輸出企業が売るドルと輸入企業が買うドルは同額ですから、円高になる力は働かないでしょう。円建ての輸出もありますが、輸入する外国企業がドルを売って円を調達するならば同じことだからです。
そして上記のように日本企業の行動が輸出志向でなくなっているとすれば、「今の為替レートが円安水準だから輸出が増えて輸入が減って貿易収支が黒字となって円高になるだろう」と予想するのは危険だという事になりそうです。
もちろん、為替レートは様々な要因で変動しますから、円高になる可能性もありますが、少なくとも「今の水準が円安すぎるから」という理由では円高方向の力は働かないと考えておいた方が良いでしょう。
経常収支は黒字であるが、利子配当は再投資される傾向あり
日本の貿易収支は概ねゼロですが、経常収支は大幅な黒字となっています。そうであれば、経常収支が黒字の分だけドル売り注文が出てドル安円高になる、と考える人もいるでしょうが、それも危険な考え方かもしれません。
貿易収支に関しては、輸出企業は受け取ったドルを売るのが原則で、輸入企業は輸入代金のドルを買うのが原則ですが、投資家たちは受け取った利子や配当を現地で再投資する場合も多いからです。
米国株が値上がりすると思って米国株を持っている人は、米国企業から配当を受け取ったら、それを日本に持ち帰るのではなく、米国株の買い増しに使う可能性も高いでしょうから。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。
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