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円安は景気には効かないが株価には効く。輸出企業の利益増は上場企業の利益増に

LIMO / 2022年3月17日 19時45分

円安は景気には効かないが株価には効く。輸出企業の利益増は上場企業の利益増に

円安は景気には効かないが株価には効く。輸出企業の利益増は上場企業の利益増に

円安の景気への影響はプラスマイナスゼロ程度ですが、株価には様々な経路でプラスに働きます。(経済評論家 塚崎公義)

円安の景気への影響は限定的

かつての日本経済は、円高だと輸出が激減して不況になり、円安だと輸出が激増して景気が拡大する、という体質でしたが、アベノミクスによる大幅な円安にもかかわらず、輸出数量はそれほど増えませんでした。

最近の日本企業は、「円安なら輸出を増やそう」と考えるのではなく、「円安でも円高でも決算に影響が出ないように、生産体制を組み替えなくて良いように、輸出ではなく現地生産に注力しよう」と考えているようです。

消費地で作れば為替レートに影響されない企業体質が作れる、というわけですが、現地のニーズが汲み取りやすい、といった事もあるようです。加えて、人口が減少して経済が縮小していく日本よりも、人口が増加して経済が発展すると見込まれる地域に早い段階で進出して根を張った方が良い、という発想もあるのかも知れません。

円安でも輸出が少ししか増えないと、円安による消費者物価上昇が消費を減少させる効果に相殺されてしまい、景気への効果が概ねニュートラルになってしまうわけです。

円安の企業収益への影響はプラス

円安の景気に対する影響はニュートラルだとしても、企業の収益にはプラスに働きます。それは、円安による輸入コスト増の一部が消費者物価に転嫁されるからです。

日本は貿易収支が概ねゼロなので、輸出企業が持ち帰ったドルを高く売れて儲かる分と輸入企業が支払い代金のドルを高く買わされて損する分が概ね同じです。

輸出企業は儲けを配当するか内部留保としてそのまま持っているだけで、「儲かったから賃上げしよう」とは考えません。バブル頃までの日本企業は従業員の共同体だったので、儲かったら従業員に配分するのが普通でしたが、最近の日本企業は株主の金儲けの道具なので、従業員への配分は僅かしか行われないのです。

一方で輸入企業はコスト増を売値に転嫁しますから、輸入原材料を使う企業が製品価格を引き上げることになり、コスト増の一部が消費者物価の上昇として消費者の負担となるわけです。

したがって、日本全体としてはプラスマイナスがゼロだとしても、企業部門の所得は増え、消費者の負担が増える、という事になり、株価にはプラスの影響となるわけです。

貿易以外の面でも、日本は巨額の利子配当を海外から受け取っていますから、それがドル高円安で水増しされると、企業の収入が増えることになります。これも企業収益を押し上げる要因となるわけです。

円安で企業の持つ海外資産の価格が上昇

ストックの面でも、日本企業が海外に持っている巨額の資産は、多くが外貨建てでしょうから、外貨高円安になれば企業の資産が増える事になります。負債の多くは円建てでしょうから、為替レートが変動しても変化しないとすると、純資産(資産マイナス負債)の増加率は比較的大きなものになる可能性もあります。

決算書に載っている資産の額が評価替えされるか否かにかかわらず、投資家たちは多くの日本企業が海外に持っている資産の価値が上がり、実質的な純資産が増えている事を織り込んで株式の取引をするようになるでしょうから、その意味でもドル高円安は株価の押し上げ要因となるわけです。

輸出企業の多くが上場している

円安が輸入価格を上昇させる効果は、消費者を含めて幅広く分担されますが、日本の場合には主な輸出企業は概ね上場されているため、輸出の利益増は多くが上場企業の利益増に直結します。

つまり、輸出企業の利益増はそのまま上場企業の利益増につながる一方で、輸入企業のコスト増は消費者の負担、非上場企業の負担、上場企業の負担と広く薄くわかれるので、差し引きすれば上場企業の利益は増えるわけです。

海外からの利子配当収入、海外保有資産の評価増などは、輸出企業であっても輸入企業であってもそれ以外であっても上場企業であれば株価上昇の力として働くでしょう。

円安が金融政策に影響すれば話は別だが

上記のように、円安は景気にはニュートラルだが株価にはプラスだ、というのが基本ですが、円安による消費者物価上昇が大幅になり、日銀の金融政策に影響するようになれば話は別です。

投資家の多くは「日銀の金融政策は株価に大きな影響を与える」と考えているので、日銀が利上げを検討したりすれば株価が大幅に下落するかも知れません。ゼロ金利のままでも量的緩和の量を少し減らすだけでも株価は大きく下がるかも知れません。

株価は美人投票の世界なので、理屈ではなく、投資家たちが上がると思えば上がり、下がると思えば下がるのです。そして、「金融緩和は株価を押し上げるから自分も買い、緩和終了は株価を押し下げるから自分も売ろう」と考えている投資家が多いので、そうした注文が実際の株価を動かすのです。

もっとも、円安によるインフレが日銀の金融政策を動かすほどの規模になるとは考えにくいですね。原油価格上昇等々の効果が主で、それに円安の効果が加わったことで円安が「最後の一撃」になる可能性はありますが。

今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから>>(https://limo.media/list/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)

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