投資家が国債を買うから財政は破綻しない?ポイントは赤字の額や借金ではなく資金繰り
LIMO / 2022年4月8日 6時20分
投資家が国債を買うから財政は破綻しない?ポイントは赤字の額や借金ではなく資金繰り
投資家が国債を買えば、政府は資金繰りに困る事が無いので、財政は破綻しないはずです(経済評論家 塚崎公義)。
企業も国家も破綻原因は赤字ではなく資金繰り
日本政府の財政赤字が巨額であり、莫大な借金を抱えていることから、日本政府が破産するのではないか、と心配している人が多いようです。
しかし、企業であれ国家であれ、破産するか否かは赤字の額や借金の額で決まるのではなく、資金繰りが回るか否かで決まるのです。
黒字倒産という言葉があります。利益を稼いでいるのに資金繰りが回らなくなって倒産してしまう会社のことです。たとえば仕入れは現金で、販売は「ツケ」で行なっていると、安く仕入れて高く売ることができて儲かるかも知れませんが、給料を支払う現金が無かったりしかねませんから。
反対に、赤字が続いて借金が膨らんでも倒産しない会社もあります。たとえば銀行が返済の一部を猶予する場合です。減価償却前で黒字ならば、銀行としては借り手の倒産を防いで減価償却によるキャッシュフローを返済させた方が得な場合もあるからです。この点については、別の機会に詳述します。
政府も、赤字だからといって倒産するとは限りません。投資家たちが国債を購入してくれるならば、資金繰りが回るので倒産しないのです。
日本人投資家は財政破綻リスクを知りつつも日本国債を買う
日本人投資家にとって、日本国債はもっとも安全な資産です。日本政府が破産する可能性はゼロではありませんが、メガバンクが破産する可能性より遥かに低いでしょう。
米国政府が破産する可能性は日本政府より低いかも知れませんが、米国債を買うと為替リスクがあります。日本政府が破産する可能性よりも円高ドル安で損をする可能性の方が遥かに高いので、日本国債がもっとも安全なのです。
米国債の方が金利が高いので、日本人投資家にとっては、「為替リスクがあって持ちたくないけれど、金利が高い事を考えれば少しは買っても良いかな」といった程度の話なのです。
ギリシャの場合には、ギリシャ人の投資家が為替リスク無しにドイツ国債を買うことが出来たので、ギリシャ国債を買う投資家がいなくなって破産したわけですが、日本はそれとは事情が異なるのです。
10年後はわかりませんが、明日までに日本政府が倒産する可能性は非常に低そうです。そうであれば投資家は「とりあえず日本国債を買って、明日まで持っていよう。これを売るか否かは明日考えよう」と考えるでしょう。明日までにドル安円高になる可能性は結構ありますから。
明日も明後日も、同じ事を考えるとすると、いつまでも日本政府は破産しない、という事になりそうです。
他の投資家が買うから大丈夫、という相互の理解も
こうして、投資家たちが日本国債を喜んで買う(嫌だけれど、他に買うものが無いから消去法でしぶしぶ買う?)ので、日本政府は資金繰りに困る事はありません。
他の投資家たちが買っているのをみた投資家は、「他の投資家も買っているから、日本政府が破産する事はないだろう。安心して買おう」と思うかも知れません。そうなると、投資家たちが「暗黙のうちにお互いに励まし合って」日本国債を買っている事になります。
金融の世界では、皆が大丈夫だと思うと本当に大丈夫で、皆がダメだと思うと本当にダメになる、という事があります。たとえば銀行の取り付け騒ぎの場合、皆が「あの銀行が倒産しそうだ」と思うと皆が預金を引き出しに行くので本当に銀行が倒産してしまう、といったケースです。
日本政府の場合には、その反対ですね。「皆で渡れば怖く無い」というギャグが昔ありましたが、投資家たちが皆で買っているから怖く無いわけです。
外国人投資家に頼るようになると危険だが
上記は、日本政府の借金が日本人投資家によって賄われているという前提に立つものです。日本の経常収支が赤字になり、対外純資産がマイナスになると、話は大きく変わって来ます。
日本政府が外国人投資家から金を借りる必要が出てくると、事態は深刻です。円建て国債は、よほど金利が高くない限りは外国人には買ってもらえないでしょう。彼らにとって円建ての日本国債は信用リスク(破産の可能性)に加えて為替リスク(円安の可能性)が両方あるわけですから。
ドル建てで国債を発行すると、今度は日本政府が為替リスクを負うことになりますが、それは危険な事です。外国人投資家が不安になって日本から資金を引き揚げようとすると、日本政府は国債の満期日にドルを買って国債の償還に応じなければなりません。
日本政府のドル買いがドルを値上がりさせるため、次の国債の満期日には高い値段でドルを買う必要が出て来ます。こうして、国債が満期を迎えるたびにドルが値上がりしてしまうのです。
幸い、日本は大幅な経常収支黒字を続けそうですし、対外純資産も巨額ですから、外国から借金するような事態には陥りそうもありません。経常収支が赤字の国とは事情が違う、という事はしっかり認識しておきたいですね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。
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