財政赤字を家計の赤字に喩えるのはミスリーディング。国の赤字=「中央政府」の赤字
LIMO / 2022年4月15日 19時35分
財政赤字を家計の赤字に喩えるのはミスリーディング。国の赤字=「中央政府」の赤字
財政赤字が巨額である事をイメージさせようと、家計の赤字に喩える事があるが、ミスリーディングなので避けるべきであると筆者は考えます。(経済評論家 塚崎公義)。
財政赤字を家計に喩えるのはミスリーディング
財政赤字が巨額であることを印象付けようとして、財務省は「国の財政を家計に例えると、収入が○万円しかないのに○万円も支出しているようなもの」という説明をしています。
たしかに身近な家計に例えて、金額の単位も兆円ではなく万円にすると、財政が大幅な赤字となっている事が強く印象づけられるわけですが、これはミスリーディングなので、不適切な説明だと言えるでしょう。
家計の赤字を減らすためには、収入を増やすか支出を減らす必要があります。今より多く働いて収入を増やし、今より節約して支出を減らせば良いわけですね。では、国が収入を増やしたり支出を減らしたりしたら、何が起きるでしょうか。
国が収入を増やすためには増税をしなければなりませんから、国を形成している国民に負担を強いることになります。専業主婦がパートに出て稼いでも、家族には迷惑がかからないのに、国が増税すると国民に迷惑がかかるのです。
国が支出を減らすためには、たとえば公共投資を減らす必要があり、公共投資によって作られるはずだった公園が作られなくなったり公共投資に雇われるはずだった人が雇われずに失業したりしかねないわけです。一方、家計の一員が飲み屋に行く回数を減らしても、困るのは飲み屋であって家族ではありません。
ミスリーディングでない例え方としては、「父ちゃんの財布が空だから、母ちゃんにも生活費を負担してもらったり子供にも小遣いを我慢してもらったりするべき」とでも言うべきなのです。
国の赤字とは中央政府の赤字のこと
もう一つミスリーディングなのは、「国」という言葉の使い方です。国は赤字で巨額の借金を抱えている、と言われます。これは、地方公共団体と中央政府を区別する意味で国という単語を使っているのであって、日本国という意味ではありません。
日本国と外国との関係を示しているのは国際収支統計ですが、それによると日本国の経常収支は大幅な黒字で、対外純資産も巨額の黒字です。つまり、日本国と外国との間では、巨額の貸出等があって借金は少ししかない、という事なのです。
日本国が外国に対して黒字なのであれば、問題は軽微です。外国から借金をする必要が無いからです。外国から借金をすると、海外の貸し手が日本政府の巨額赤字を懸念して高い金利を要求して来たりしかねませんが、国内の投資家であればそうした懸念はありません。
父ちゃんは赤字だが母ちゃんは大幅黒字
日本国が外国に対して黒字で日本政府が赤字だという事は、日本の民間部門が巨額の黒字を稼いでいるという事です。海外との間では巨額の経常収支黒字を稼いでいますし、政府との間では財政赤字の分だけ民間部門が黒字になっているわけです。
筆者が例えるなら、上記のように財政を父ちゃんに例えます。そして、国内の民間部門を母ちゃんに例えます。父ちゃん(中央政府)は給料が少ないのに(税収が少ないのに)生活費を負担したり(行政サービスを提供して対価を受け取ったり製品を海外に輸出したりしている)子供に小遣いをやったり(高齢者に年金を支払ったり)して、金が足りません。
一方で母ちゃん(民間部門)はパートで稼いでいる(行政サービスを提供して対価を受け取ったり製品を海外に輸出したりしている)のに生活費等を負担していない(税金を少ししか払っていない)ので金が余っています。子供(別の民間部門)も、小遣いを全部使うわけではなく、一部は貯金しています。
そこで、母ちゃんは父ちゃんに金を貸して(国債を購入して)いますが、それでも余った金は銀行に貯金して(海外の銀行に貯金して)います。子供も、余った小遣いの分は銀行に貯金しています。一家を全体としてみれば、借金がなくて多額の銀行預金を持っている、健全な家庭です。
あとは、父ちゃんと母ちゃんが喧嘩をしないように生活費等の分担割合を変更できるか否か(増税できるか否か)、という事ですね。
この例えの良いところは、親が死ぬと子が父ちゃんの借金と母ちゃんの貸出を両方相続し、問題が解決するという点です。日本人が数千年後に少子化で最後の一人になり、その人が死ぬと、その人が相続した巨額の財産(個人の金融資産は2000兆円)が国庫に入りますから、政府の借金はすべて簡単に返済できるのです。数千年後の話は、極端な話ですが、色々と考える材料になるので、別の機会に詳述しましょう。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。
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